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コーヒーで旅する日本/関東編|溢れるアイデアで“濃度の高い”魅力を発信。「自家焙煎コーヒー角打ち VIVA COFFEE」が伝えたいコーヒーの可能性とは

  • 2025.12.10

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。店主や店長たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

オープンエアのテラス席の利用もおすすめ。テラス席はペット同伴もOK!
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第13回は東京都板橋区にある「自家焙煎コーヒー角打ち VIVA COFFEE(ビバ コーヒー)」。住宅街が広がるのどかな街・高島平に店を構え、コーヒーを角打ちスタイルで楽しめる一風変わったロースタリーだ。店主の中川亮太さんは「ドトールコーヒー」を経て、「株式会社アマナ」でコーヒークリエイターとして活躍。コーヒーの魅力を単に味で伝えるだけでなく、日本酒と組み合わせた意外なメニューやマニアックな器具の数々を、コーヒー愛に溢れた空間で楽しく体感できる。実は”コーヒー嫌い”からはじまった中川さんの開業までのエピソード、これからの思いを聞いた。

店主の中川亮太さん
店主の中川亮太さん

Profile|中川亮太(なかがわ・りょうた)

1972年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社を経て、「ドトールコーヒー」でデザイナーとして活動。「ドトール」時代には「アドバンスドコーヒーマイスター」の資格を取得、コーヒーハンター・川島良彰さんとの出会いから世界各国の農園に出向くなど精力的に活動。その後に勤めた広告制作会社「株式会社アマナ」では、コーヒークリエイターとしてカフェ「IMA cafe」をプロデュース。2021年4月に「自家焙煎コーヒー角打ち VIVA COFFEE」を開業。

嫌いを好きにしてくれたスペシャルティコーヒーとの出合い

【写真】豆売りがメインだが、それぞれの豆のおいしさを試せる場として喫茶スペースを設置
【写真】豆売りがメインだが、それぞれの豆のおいしさを試せる場として喫茶スペースを設置

長年コーヒー業界に身を置く中川さんだが、その歴史を聞いてみると「実はもともとコーヒーが飲めなかったんです」という意外な言葉からはじまった。

「子どものころからコーヒーの香りは好きなのに、大人になっても飲むのは苦手で、そもそも体が受け付けなくて。でも喫茶店の雰囲気は好きでコーヒー屋に行く機会は多かったんです。そこではよくミルクティーを飲みながら喫茶文化を楽しんでましたよ。その後コーヒーにハマるきっかけになったのが、たまたま立ち寄った老舗のコーヒー豆専門店『Daphne(ダフニ)』の一杯でした。そこで飲んだコーヒーはこれまでに飲んだコーヒーとは大きく違っていて衝撃を受けました」

シティポップや昭和歌謡、ジャズなどジャンルを問わず大量のレコードがそろう。リクエストもOK
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「Daphne」のコーヒーはとにかく飲みやすさが印象的だったと中川さん。今思えば、当時一般的だったコマーシャルコーヒーではなく、はじめてスペシャルティコーヒーに出合ったのがこのとき。はじめての“飲める”コーヒーは、中川さんの体にも自然と馴染んでいた。

「そのコーヒーに出合っておいしさを知ってからというもの、タガが外れたように飲んでましたね。まるで今まで堰き止めていた思いが決壊するように(笑)。いろんなコーヒーを飲んでいくなかで、自分にとって飲めるコーヒーと、飲めないコーヒーがあることがわかるようになってきました。その自分に合うものの共通点が、今思うとスペシャルティコーヒーだったのかなと。それと同時に自分以外にもコーヒーが飲めない人、また飲めないと思い込んでいる人はたくさんいるのではないかと思うようになったんです。今は飲めなくてもおいしいコーヒーに出合うことで、飲めるようになるのではないか?という思いが、今の店づくりの基礎となっています」

コーヒーネームの“ビバ”の名付け親はコーヒーハンターの川島さん。店名の「VIVA」もここから
コーヒーネームの“ビバ”の名付け親はコーヒーハンターの川島さん。店名の「VIVA」もここから

中川さんは大学を卒業後、出版社へ。そして大手コーヒーチェーン「ドトールコーヒー」に入社し、コーヒー業界へと足を踏み入れた。会社ではデザイナーとして活躍し、日々コーヒーに携わりながら、“豊かなコーヒー生活を提案”するための幅広い知識と高度な技術が必要となる「アドバンスドコーヒーマイスター」の資格を取得するなどコーヒーへの理解を深めていった。

長年コーヒー業界にいる中川さんは、その人脈を駆使し、さまざまな商社から最良の豆を仕入れる
長年コーヒー業界にいる中川さんは、その人脈を駆使し、さまざまな商社から最良の豆を仕入れる

さらにこの時期にコーヒー栽培技師であり、コーヒーハンターの異名で知られる川島良彰さんとの出会いがあり、そのことが中川さんにとっての大きなできごととなった。毎年行われる川島さん主催の世界各国の豆の農園へ出向くツアーに参加し、それぞれの産地の現状から農園ごとの気候、土壌、日当たり、風向き、労働環境にいたるまで徹底的に学び、スペシャルティコーヒーで重視される豆を見極める力を身につけた。

カフェ利用のほか、仕事終わりに角打ちを楽しむのもいい
カフェ利用のほか、仕事終わりに角打ちを楽しむのもいい

「『ドトールコーヒー』では、さまざまな知識を得られるインプットの場としてとてもよい経験ができました。その知識をアウトプットする場が必要だと考えていたんですが、そんなときに“コーヒーをメディア”として捉えて発信する「株式会社アマナ」の存在を知り、転職を決意。コーヒー専門のような特殊な部署に自分だけがいて、『IMA cafe』のプロデュースをさせてもらいました。自動抽出マシン『POURSTEADY(ポアステディ)』の日本初導入を実現し、コーヒーをコース仕立てで出すような最先端のカフェ。そこでは抽出作業がないので、訪れた人たちにより詳しく”濃度高め”にコーヒーについて伝えることができて、アウトプットの場としてベストな空間でしたね」

「ドトールコーヒーでの仕事を含め、多くのコーヒー体験を通して、一般的には知られていないようなコーヒー知識のインプットが溢れそうなほど溜まって来ました。今度はその知識をアウトプットする場が必要だと考えていたんですが、そんなときに“コーヒーをメディア”として捉えて発信する『株式会社アマナ』の存在を知り、転職を決意。コーヒー専門のクリエイターとして『IMA café』のプロデュースをさせてもらいました。『IMA café』は自動抽出マシン『POURSTEADY(ポアステディ)』を日本で初めて導入し、コーヒーをコース仕立てで出す最先端のカフェでした。このマシンは私の抽出技術を記憶し、再現することができるもの。そのため抽出作業をマシンに任せることができて、訪れた人たちにより詳しく”濃度高め”にコーヒーについて伝えることに集中することができて、アウトプットの場としてベストな空間でしたね」

巨大マシンを活用した贅沢な自家焙煎

豆の個性を見極め、浅煎りから深煎りまでレンジ広めに焼く
豆の個性を見極め、浅煎りから深煎りまでレンジ広めに焼く

コロナウイルスが世間を騒がせはじめたころ、もっと生活に寄り添ったコーヒーを伝えたいと思い、自分の店を開業しようと決意。「VIVA COFFEE」を開業したのは2021年のことだ。根幹にあるのは、苦手を克服させてくれたコーヒー体験を訪れた人にも実感してほしいということ。こだわりと遊び心に溢れたコーヒーや空間を用意し、人々を迎えてくれる。

「角打ちスタイルを取り入れたのは、コーヒーを楽しんでもらうためには、まず気軽さが必要だと思ったから。もちろん、雑味がなく飲みやすいスペシャルティコーヒーを用意しています。豆はエチオピアをはじめ、世界各国の農園から時期ごとに最良のものを厳選。常時10種類ほどを取りそろえています」

「豆は半熱風式の『Giesen』を使って自家焙煎。15キロの大型サイズですが、一度の焙煎量は1〜5キロ、最大でも7キロ程度と焙煎機容量の半分以下しか投入しません。すると大型なので蓄熱量が大きく余裕があるため、ボトム(温度が下がるタイミング)からの熱量の回復が早い。そして高い温度をキープできるので浅煎りでも芯までふっくら熱を入れることができ、狙った香りやおいしさにつなげる焙煎ができるんです。贅沢な使い方ですけど利点が大きいんですよ」

「ハリオSwtich」は浸漬(しんし)式のドリッパーで味が安定しやすい。豆の質と抽出時間を守れば家でも店の味を再現できる
「ハリオSwtich」は浸漬(しんし)式のドリッパーで味が安定しやすい。豆の質と抽出時間を守れば家でも店の味を再現できる

抽出方法はエスプレッソ、エアロプレス、ハンドドリップから選べるが、基本は「ハリオSwtich」でハンドドリップ。ネルフィルターを使用しているが、これは網目やサイズなど細かく特注したものでこだわりが強い中川さんらしいセレクトだ。ネルの特徴としてペーパーに比べると目が粗く、その分コーヒーオイルも落とせるため、コクが強く出て満足感のある風味に仕上がる。

アイス、ホットどちらもワイングラスで提供。まずは香りを楽しみ、味わいに浸るはじめてのコーヒー体験を
アイス、ホットどちらもワイングラスで提供。まずは香りを楽しみ、味わいに浸るはじめてのコーヒー体験を

コーヒーをワイングラスで提供するのもユニーク。マグカップとは違い、上部にコーヒーの香りがたまりやすく、自慢の豆の風味をより一層感じられるのがポイントだ。またコーヒーはもちろん、エスプレッソやカフェラテでもコーヒー豆が選べるうれしいサービスも。それぞれ豆の味の違いを楽しむために提案しているメニューなので、こちらもぜひチェック!

日本酒好きでもある中川さんの遊び心とロジックが融合した「燗(かん)コーヒー」(1600円〜)※日本酒は時期で異なる
日本酒好きでもある中川さんの遊び心とロジックが融合した「燗(かん)コーヒー」(1600円〜)※日本酒は時期で異なる

「単にコーヒーを飲んで終わり、だとなんだかもったいない気がして。いろんなメニューを用意して選ぶ楽しさまで提案するようにしています。メニューのなかで特におすすめなのが、コーヒーを日本酒の熱燗で抽出する『燗コーヒー』。コーヒーと日本酒はどちらも水が大事。それから飲み方にもホットとアイス、熱燗と冷酒など同じ液体をさまざまな温度帯で楽しめるという共通点があることに気づいて、合わせてみたらおもしろそうだなと思ったんです。コーヒーは約98%が水、残りはコーヒーエキスでできているので、水の部分を日本酒に変えたらどうなるんだろうという、好奇心から生まれました」

「実際に飲んでみると、思った以上においしくて。コーヒーの風味のなかから、日本酒の甘さがふわりと広がって、もう相性は抜群です!まずは日本酒をそのまま冷(ひや)で、次に熱燗を。そのあとはコーヒーグラウンズ(抽出後に出る粉)を使ったおつまみと一緒に、エアロプレスで淹れた『燗コーヒー』を味わう、コース仕立てで楽しんでもらっています。ネーミングはダジャレなんですが、そうするとハードルが下がって試しやすく、実際に飲んでみて想像を超えるおいしさを体験することで、“コーヒーって楽しい!”と感じてもらうことができる。コーヒーの楽しさを伝える意味でも、このようなユニークなメニューを今後も提案していきたいと思っています」

中川さんとの会話に花が咲く。立ち飲みのカウンター、ゆっくり過ごせるテーブル席もある
中川さんとの会話に花が咲く。立ち飲みのカウンター、ゆっくり過ごせるテーブル席もある

まさに酒屋の角打ちのように気軽なロースタリー「VIVA COFFEE」。店内は珍しいコーヒー器具やオリジナルグッズが並び、中川さんのコーヒー愛と遊び心が詰まった唯一無二の空間。ほかにも全国各地から厳選した酒、コーヒーがついた曲を集めた大量のレコードなどがあり、同店のおもしろさはまだまだ語り尽くせない、そんな魅力に溢れた一店だ。この場所に集まる人、情報、感動、楽しさといった魅力を通して、中川さんが伝えたいコーヒー体験は多くの人に発信されていく。

豆の種類から抽出方法まで選べるラインナップがいい。迷ったときは中川さんにイチオシを聞いてみよう
豆の種類から抽出方法まで選べるラインナップがいい。迷ったときは中川さんにイチオシを聞いてみよう
豆の種類から抽出方法まで選べるラインナップがいい。迷ったときは中川さんにイチオシを聞いてみよう
豆の種類から抽出方法まで選べるラインナップがいい。迷ったときは中川さんにイチオシを聞いてみよう

中川さんレコメンドのコーヒーショップは「二坪喫茶アベコーヒー」

「神奈川県川崎市にある『二坪喫茶アベコーヒー』。店主の阿部まりこさんは前職の『株式会社アマナ』時代に一緒に働いて、広告制作のプロデューサーからコーヒー店のオーナーに転身したんです。開業前に相談を受け、コーヒーのノウハウを指導した私にとって唯一の弟子。彼女はゼロからのスタートでしたが、センスがよく、エスプレッソはメルボルンで修業するなど向上心に溢れた人物です」(中川さん)

【「自家焙煎コーヒー角打ち VIVA COFFEE」のコーヒーデータ】

●焙煎機/Giesen 15キロ(半熱風式)

●抽出/ハンドドリップ(エアロプレス・ハリオSwtich、Kalitaウェーブ)、エスプレッソマシン(Slayer ESPRESSO V3 2Gr)

●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り

●テイクアウト/あり(600円〜)

●豆の販売/100グラム990円〜

取材・文/GAKU(のららいと)

撮影/大野博之(FAKE.)

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※20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています。

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