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「毒饅頭で仇を討つ」息子に父を裁かせた衝撃の結末──治済が辿った“結末”を読み解く【NHK大河『べらぼう』第47回】

  • 2025.12.9

*TOP画像/蔦重(横浜流星) 定信(井上祐貴) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

 

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第47話が12月7日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

治済を敵にまわし、存続危機に陥った耕書堂

長谷川平蔵宣以(中村隼人)は一橋治済(生田斗真)そっくりの能役者・斎藤十郎兵衛を町で偶然見かけ、松平定信(井上祐貴)は十郎兵衛に協力させ、治済の仇討ちを成し遂げようと企てました。その企てとは“傀儡(くぐつ)好き”こと治済を事故や拐(かどわ)かしに見せて亡き者とし、十郎兵衛に治済のフリをさせようというものです。治済が突然姿を消せば大騒ぎとなりますが、“替え玉”がいれば混乱を避けられるから…。

平蔵宣以(中村隼人) 十郎兵衛(生田斗真) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

この企てを成功させるために治済サイドの大崎(映美くらら)は定信のもとに引き抜かれたのです。十郎兵衛に治済の癖や好みを教えるほか、さまざまな取り繕いを行う役割が与えられていました。

 

しかし、この企てはうまくいかなかったばかりか、治済は定信だけではなく、蔦重(横浜流星)を含む耕書堂も絡んでいると察しました。

 

蔦重は治済の命令で配られた毒饅頭を平蔵宣以によって回避できましたが、みの吉(中川翼)ら番頭の中には毒饅頭を口にした者もいます。

みの吉(中川翼) たか(島本須美) 蔦重(横浜流星)他 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

ちなみに、定信は治済を成敗するための企てを主導していますが、しくじったときのことは何も考えていませんでした。この騒動に巻き込んだ蔦重には「命が惜しくば 息を潜め 店を畳んでおれ!」と一方的に命じただけで、責任を取る気などさらさらありません。

 

いつの時代も、お偉いさんたちが策を練るとき、庶民がどんな目に遭うかなんて頭の片隅にもありません。大失敗したとき、地獄を見るのは決まって下々の者たち。それどころか、助けを求めても突き放されたり、逆ギレされたりすることすら珍しくありません。

 

定信は蔦重を巻き込んだのなら、耕書堂に見張りの一人や二人くらい置くのは最低限の償いだと思うのは筆者だけではないでしょう。

 

“死別”の痛みを骨身に染みて知る蔦重の提案

耕書堂が絶体絶命の危機に陥る中で、蔦重がひらめいたのは治済に毒饅頭を食わせる案。みの吉が毒に冒され、息も絶え絶えになりながら、かすれた声で、場の雰囲気を少しでも和らげようと話した、以下の言葉が着想のきっかけでした。

 

「うっかり…毒饅頭 食わねえですかね そいつ…。仕込んだやつが…うっかり食って ぽっくりってなぁ…面白くねえですか…」

 

後日、蔦重は定信のもとを訪れ、にやりと笑いながら言いました。「毒饅頭の仇は 毒饅頭で取るってなぁ こりゃ なかなか 頓智が利いておりますかと」。定信はおどろきつつも、この案を受け入れることにしました。

 

そして、毒饅頭を治済に食べさせる役目を蔦重の提案によって任されたのは、この男の息子であり、しかも将軍でもある徳川家斉(城桧吏)でした。蔦重がいうように、上様はこの世に太平をもたらすためにおり、太平を乱す輩がいたら、毒饅頭を食らわすのがつとめでもあるから…。

家斉(城桧吏) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

家斉の心の奥底には幼い日に聞いた徳川家治(眞島秀和)が死の間際に呟いた「悪いのは…父だ」という謎に包まれた言葉が残っていました。さらに、蔦重経由で届いた乳母である大崎からの手紙によって、父の悪行を知ることになります。そして、大崎が手紙で伝えた「どうか お父上様の悪行を お止めくださいませ」という懇願を受け入れることを決めたのです。

子ども時代の家斉 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

大崎(映美くらら) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

家斉らの治済成敗の企ては清水家の屋敷で実行されました。家斉の主な役目は治済に毒入りの茶と菓子を勧めること。しかし、治済は茶と菓子に毒が盛られていると怪しみ、口にしようとしません。嘘をつく人は他人も信じられないとはよくいうものですが、毒で人を殺めてきたゆえに疑わずにはいられないのです。

 

また、毒が仕込まれているかもしれない茶と菓子を、“上様”と(表面上は)敬意を表している息子に食べさせている限り、治済にとって我が子も大崎が考えるように「傀儡」にすぎないのでしょう。

家斉(城桧吏) 治済(生田斗真) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

最終的に、治済は家斉にだまされ、毒を飲みました。定信サイドは治済が茶や菓子を警戒すると憶測し、家斉も自ら毒を飲み、親子共倒れになる策を企てていたのです。治済は疑心暗鬼な性格を逆手に取られたといえます。

 

とはいえ、彼らが飲んだ毒は「眠りの毒」で、命を奪うものではありませんでした。治済が深い眠りに落ちている間に阿波の孤島へと送り、瓜二つの十郎兵衛を偽の治済として据える──それがこの企てであるためです。

 

この計画の裏には蔦重の想いがありました。

 

「お武家様は人を殺めることは平気なのかもしれませんが 私には てめえが企んだことで 人が死ぬってなぁ どうも あれで」

 

蔦重は理不尽な死に方をした者を含めて、大切な人を多く失ってきました。人が死ぬことの重さを知っている蔦重だからこそ、自分の手で外道な人間であっても命を奪うことを拒んだのだと思います。

 

無数の死が積み重なる本作において、幾人もの命を奪ってきた張本人である治済が命を繋ぎ止める展開に、命の重みと尊さが突きつけられているように感じました。

 

なお、史実では、徳川治済は毒を飲むことも孤島へ流罪となることもありませんでした。御三家をすべて一橋家の血筋で統一しようと画策し、ライバルの松平定信を失脚させる策略を巡らせましたが、
本人に何の罰も下りることはなかったのです。

 

定信の決意と、蔦重への思い 次ページ

定信と蔦重の間にようやく生まれた絆

仇討ちを果たした定信でしたが、家斉に大罪を犯させた深い罪悪感に苛まれ、江戸を去る決意を決めました。

 

定信は幼い頃から本好きで、蔦重の店から出版された本も読んでいましたが、江戸を去る前に耕書堂にようやく足を運べたのです。

蔦重(横浜流星) 定信(井上祐貴) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」47話(12月7日放送)より(C)NHK

「春町は我が神 蔦屋耕書堂は 神々の集う神殿であった」

 

定信のこの言葉には読書家ならではの作家に対する敬意や愛情が詰まっています。高い身分にありながらもこの世界で生きるつらさを知っていた彼にとって、物語の世界は心の拠り所であったと思います。

 

定信は幼い頃から苦水を飲まされ、悔し涙を流してきました。それでも、老中首座時代は田沼意次(渡辺謙)に対する恨みつらみ、民を守るという責任感から行き過ぎた政策を推し進めたものの、自分とは関係のない人までに恨みを振りまくこともなく、公平性を重んじ、真面目に生きていたと思います。

 

定信が耕書堂で浮かべた表情はこれまで背負ってきた重い荷物や負の感情、本屋にすら行けない束縛からようやく解放され、清々しく見えました。

 

47話は“そうきたか!”という想定外の展開でしたが、次回はいよいよ最終回。予告映像だけでも涙腺が決壊…。

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