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『じゃあ、あんたが作ってみろよ』鮎美役を演じる上で感じた“難しさ”とは? 13歳で俳優の道へ…夏帆(34)の演技が持つ“説得力”《本日最終回》

  • 2025.12.9

ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)が今夜、最終回を迎えます。主人公の山岸鮎美と海老原勝男は同棲から結婚へ秒読みに入っていたのが、初回でいきなり別れたあと、それぞれ考え方や行動に変化が表れ、お互い人間として成長していくことになりました。

鮎美を演じる上で苦戦した部分

ただ、竹内涼真演じる勝男の変化が、それまで一度もしたことのなかった料理にハマり、それにともない考え方も行動も変わっていくという具合に、ある意味わかりやすかったのに対して、夏帆演じる鮎美の変化はすぐにはっきりと表れたわけではありません。別れを切り出したのは鮎美からだったものの、勝男からその理由を訊かれても「勝男さんにはわからないと思う」とシャットアウトし、二人できちんと話し合おうとはしませんでした。おそらく彼女のなかでも、勝男の何が不満なのか、まだはっきりと説明できるまでわかっていなかったのでしょう。

ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(番組公式Xより)

そもそも鮎美は子供のときから基本的に受け身の性格で、他人に合わせながら生きてきました。勝男と別れた直後、髪をピンクに染めたのも、そのころ出会った美容師の渚(サーヤ〈ラランド〉)の勧めによるものでした。それでも、酒屋のミナト(青木柚)との出会いなどを通じて、彼女もしだいに“自分らしさ”に目覚めていきます。

こうして振り返ってみると、鮎美はかなり難しい役といえます。実際、演じる夏帆自身も“鮎美らしさ”とは何なのか、撮影に入ってからもしばらくつかめなかったようです。ドラマ開始直前のインタビューでは、《「勝男の理想の彼女」以外に、鮎美らしさが見つけられなかった。それは、演じる上で苦戦した部分でした。でも、鮎美は恋人である勝男と別れることで、自分自身と向き合っていくので、鮎美を演じる上でも、“わからない”という状態からスタートしたことは正解だったのかなと思います》と語っていました(「CLASSY. ONLINE」2025年10月7日配信)。

夏帆にとっては、鮎美のように男性にどう好かれるかをモチベーションに生きてきた役どころも初めてでした。それだけに、鮎美と自分自身がなかなか結びつかず、演じている姿がイメージできなかったといいます。それでもスタッフたちと相談しながら、一緒に鮎美というキャラクターをつくっていったのだとか。

13歳で俳優に、芸能界入りのきっかけは…

現在、夏帆は34歳。13歳で俳優の仕事を始めて、そのキャリアはすでに21年を数えます。芸能界入りは小学生のときに原宿でスカウトされたのがきっかけでした。それからCMなどの仕事を経て、ドラマ『彼女が死んじゃった。』(2004年)で俳優デビューしてからというもの、ドラマや映画にあいついで出演するようになります。16歳のときに公開された映画『天然コケッコー』(2007年)では、映画各賞で新人賞を獲得し、一躍注目を集めました。

映画『小さき勇者たち GAMERA』(2005年)の製作発表 ©時事通信社

ただ、10代の頃は仕事に対して欲がなく、事務所が選んだ作品で必死に演じるばかりだったといいます。当時のインタビューでも《(女優という仕事が)夢中になれることなのか、向いているのかどうか、まだわからない。わからないだらけ。でも、なんかいいなあって思える瞬間がある。それががんばろうって思える原動力になっているんでしょうね》と話していました(『ダ・ヴィンチ』2008年4月号)。

「なんかいいなあ」と出演するたびに感じられたのは、監督やスタッフとの出会いに恵まれたからでもあるのでしょう。おかげでこの仕事に魅力をだんだん感じられるようになり、《20代に入ってからは好きなものが自分の中で明確に見えてきました。それからは、お仕事を自分の意思で選ばせていただくようになったんです》とのちに振り返っています(『サンデー毎日』2018年6月3日号)。

先輩女優の手紙に励まされた

ただ、それ以降も悩むことはしばしばあったようです。23歳で映画『海街diary』(2015年)を撮影していたときには、《望んで選んだ道を進んでいるはずなのに『自分はこの先、どこに向かうのかな?』とどこか不安があって、同時に理想に追いついていない自分が許せなくて。ものすごく自分が嫌いで、苦しかった》と、のちに明かしています(『Hanako』2022年5月号)。それがクランクアップのとき、4姉妹の役で共演した長澤まさみからもらった手紙に励まされ、《私は、こういう言葉を誰かに言ってほしかったんだなって、少し心が軽くなった》のだとか(同上)。

映画『海街diary』(2015年)は、鎌倉で暮らす三姉妹(綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆)が異母妹(広瀬すず)と出会い、家族の絆を深めていく物語

それまでずっとロングだった髪を切ってショートにしたのも、『海街diary』がカンヌ国際映画祭に出品され、レッドカーペットを歩いたときでした。演じる役もそれまで清楚な役が多かったのが、このころから幅が広がっていきます。

夏帆は27歳のとき、あるインタビューで「この先、どんな役者を目指していますか?」と訊かれ、《その時どきに求められる役者ではありたい。もちろん制作側からもそうですが、作品を作っても観てもらわなければ意味がないので、劇場に足を運びたいと思ってもらえるように、常に興味を持ってもらえる役者でありたいと思います》と答えていました(『anan』2019年3月6日号)。

その後の出演作を見ると、まさにそのとおりになっています。映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(2019年)には、箱田優子監督から、自身の経験を反映した役を演じてほしいと手紙をもらい、出演を決めました。

不倫に走る人妻を熱演…大きな転機となった作品は?

同時期には、以前その作品に出演していた三島有紀子監督からも「今度は主演で撮りたい」とオファーされています。その作品こそ、元恋人と再会して恋を再燃させる人妻の役を演じ、大きな転機となった映画『Red』(2020年)でした。さすがに役柄が役柄だけに、夏帆は自分が演じるにはまだ早いのではないかと悩んだものの、《三島監督となら、自分も次のステップに行けるんじゃないかなと》思い、引き受けることにしたといいます(『SPA!』2020年2月11・18日号)。監督からは「いままでとは違う夏帆を」と撮影のあいだずっと要求され、彼女もそれに応えたいという一心で演技した結果、俳優として新境地を拓いたと評価を高めました。

映画『Red』(2020年)では、かつての恋人と再会して恋を再燃させる人妻を熱演。異色のラブシーンが話題を呼んだ

30代に入ってからも、ドラマ『silent』(2022年、フジテレビ系)、『ブラッシュアップライフ』(2023年、日本テレビ系)、映画『違国日記』(2024年)など話題作にあいついで出演しています。

今年も『ブラッシュアップライフ』と同じくバカリズム脚本のドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)に続き、春には染谷将太と映画館の経営者夫婦を演じた映画『BAUS 映画から船出した映画館』が公開。8~10月に放送された奈緒主演のドラマ『塀の中の美容室』(WOWOW)では、主人公の姉で、妹が罪を犯したために加害者家族になってしまった美容師という、これまた難しい役どころを演じ切りました。設定は現実離れしているとも思えますが、それを夏帆は、妹が受刑者という以外は淡々と日々を送る“普通の人”として演じているからこそ、彼女が心に負った傷、また妹への複雑な思いがリアルに伝わってきます。

「生活の匂いのする女優になりたい」

《生活感を感じられる女優さんは素敵だなと思います。いろんなタイプの方がいらっしゃるじゃないですか。ほんとうに手の届かないような女優さんもいるし。私は生活の匂いのする女優になりたいです》とは、30代を目前にしての夏帆の発言です(『キネマ旬報』2018年10月下旬号)。最近の作品を観ると、その目標に確実に近づいていると思えます。ちなみに素顔の彼女は、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の鮎美と同様、料理をつくるのは好きなほうで、ドラマの現場にも持って行けるときは、おにぎりとスープを持参しているとか。

いよいよ最終回。勝男から「もう一回やり直そう」と切り出された鮎美。どんな結末を迎えるのか?(番組公式Xより)

20代の頃はとにかく自分を追い込んで仕事をしていた気がするという彼女。しかし、20代も後半になるにつれてその姿勢に疑問を抱き、《もうちょっと現場を楽しみながら、リラックスする余裕を持たないといけないな》と思い始め、30代に入ってからは自分を大切にする考えへと移り変わったといいます(「CLASSY. ONLINE」2025年10月8日配信)。それはまさに『じゃあ、あんたが作ってみろよ』のテーマにもつながっています。彼女自身、《そうした意味でも、きっとこの作品は私にとってターニングポイントになるんじゃないかな》と放送を前に語っていました(同上)。

最終回を前に、夏帆演じる鮎美は、一旦は別れた勝男から「もう一回やり直そう」と切り出されました。果たして、それに対して彼女はどう答えるのか? たとえどんな答えを出そうとも、きっと夏帆は、視聴者を納得させるだけの説得力ある演技を見せてくれることでしょう。

文=近藤正高

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