1. トップ
  2. 【ばけばけ】それは明らかに「嫉妬」では!?二人の距離が縮まる様子が自然に楽しい[写真多数]

【ばけばけ】それは明らかに「嫉妬」では!?二人の距離が縮まる様子が自然に楽しい[写真多数]

  • 2025.12.8

【ばけばけ】それは明らかに「嫉妬」では!?二人の距離が縮まる様子が自然に楽しい[写真多数]

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

「通りすがりのただの異人です」

髙石あかりがヒロインをつとめるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、第10週の放送を迎えた。

この作品が、日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・セツをモデルとしたものであることは、誰もが知ることだ。しかし、第10週をむかえても、ハーンにあたる登場人物のヘブン(トミー・バストウ)が、小泉八雲が残した数々の怪談を書くどころか、日本の怪談に深く感銘を受ける描写すらいまだ登場してこない。

怪談そのものに関しては、ヒロインのトキが幼いころから母のフミ(池脇千鶴)に、寝る前に語ってもらうのが大好きだったり、嫌なことがあったら怪談に触れるといった、怪談好きであることは何度も触れられている。史実としても、妻のセツから聞いた怪談をもとにハーンが書き記したわけであるため、トキとハーンの関係性がより深まっていくことで、その場面がいずれ登場することは間違いない。

朝ドラの世界において、万人が知る何かをなしとげた人物がモデルとなっている作品は、しばしば「いつになったらやりはじめるんだろう」「いつその職業になるんだろう」といった展開の速度が気になることがある。しかし本作『ばけばけ』については、そういった感情がまったくといっていいほど出てこない気がするし、気にならないのである。

それは、本作のストーリーはこびと、トキとヘブンをはじめとする登場人物のキャラクター描写のうまさによって作品世界を楽しむことができているということにほかならないのではないか。松野家の面々、ヘブンが英語教師をつとめる高校の面々、花田旅館、そして雨清水家……個性あふれるキャラクターがずらりと脇をかため、テンポのよいかけあいについつい笑っているうちに、気づけば10週を迎えていた。

そんな第10週「トオリ、スガリ。」では、またしても気になるキャラクターにスポットがあたり、ストーリーを引っ張ってくれた。ヘブンの教え子である、小谷(下川恭平)である。

小谷は、ヘブン宅で女中をつとめるトキに一目惚れをする。なんとかトキに気に入ってもらおうといろいろ調べるなか、トキが冒頭で触れたように幼いころからの怪談好きであることを知る。それを教えたトキの幼馴染のサワ(円井わん)が松野家の面々に小谷のことを話し、さらに小谷が旧士族の家系であることがわかると、トキの祖父の〝ラストサムライ〟勘右衛門(小日向文世)も大盛り上がり、松野家ではトキと小谷の関係を深めようという空気がトキそっちのけで進んでいく。

そんなトキたちが日々を過ごす松江にも、現在の日本と同じく冬が訪れていた。この冬は、寒波の影響で特に寒さは厳しいようで、ヘブンは「サムイ、サムイ」と連呼、ついには高校で倒れ、寝込んでしまう。

弱気になり、「ジゴク」と日本(松江)での生活に悪態をつく気力すら失われてしまう。このある種「感じが悪い」ものの、それがどこかにくめないピュアなところもあるヘブンのキャラクターは、前半に書いたようにこのドラマで丁寧に浸透してきたものであるため、「ジゴク」すら言えなくなり、ついには「ワタシ、シス……」と縁起でもないことを口にする姿から、その深刻度が伝わってくる。

「通りすがりのただの異人です」
だから死んでも悲しむな。そんなことを英語で言い、トキを困惑させる。その言葉の奥底には、ヘブン自身まだ気づいていない、トキへの甘えもあるのだろう。

「ワタシ、ヤマイ! アナタ、ミマイ!」

そんなトキは、女中としてヘブンの看病を献身的につとめるわけだが、そこに小谷が居合わせる。前述の通り、小谷はトキのことを気に入っている。一緒にいたいのもわかる。すでにリサーチ済みのトキの怪談好きを利用(?)し、怪談の舞台に一緒に行かないかと誘い、トキも盛り上がる。そんな姿に、
「ワタシ、ヤマイ! アナタ、ミマイ!」
と、病床のヘブンは強めの口調で言い、小谷を帰らせる。

これまで少しずつトキへの「信頼」が深くなっていくさまが描かれてきたが、この信頼から、いつの間にかさらに別の感情が芽生えているのではないか。明らかに「嫉妬」とみられるヘブンの態度にそう感じざるを得ない。

やがて寒波も去り、トキの看病の甲斐もあって、ヘブンは回復する。あらためて小谷とのやりとりについての説明を受けたヘブンは、「OK」とあっさり受け入れる。それに対して、「私はただの女中ですが」と言いながらも、シジミの貝殻が閉じたような思いを抱くトキにもまた、何かの感情が芽生えている。

そんな感情の微妙な変化が描かれることによって、冒頭に記したような「いつになったら怪談を書くんだよ」といったことは、みじんも気になることもなく、二人の距離が縮まる様子を自然に楽しませてもらえている。

さて、トキと小谷のランデブー、その行き先はトキのかつての夫・銀二郎(寛一郎)とも訪れた清光院である。とはいえそんな思い出よりも清光院の周辺をめぐる〝怪異〟のようなものにあらためてテンションがあがってしまうトキの姿に、小谷は引いてしまったらしく、トキの気を引くための要素ととらえていた怪談も時間の無駄ととらえ、トキは、勝手にふられてしまうような結果となり、トキと小谷の恋愛的なエピソードは、やはりこのドラマらしくちょっとした苦笑とともに閉じることととなった。

そんな〝苦笑〟とは、ヘブンとトキの距離の縮まり方はまた違う描かれ方をする。ふたりの「ランデブー」の行方をヘブンが言葉にはせずとも気にしていることがちょっとした仕草や表情で伝える。
「ナンデモナイ……」
そんなヘブンの姿は愛おしく、ついつい応援したくなるところもこの作品の大きな魅力だ。ヘブンの怪談への取り組み以外、いずれは結ばれるであろう二人の距離も、「いつ縮まるんだ?」と気になることもなく楽しめる。

前作『あんぱん』もそういう傾向があったように感じるところもあるが、行方がわかっていることが、そこを見たいというよりも逆に「保証」のように安心して楽しめる展開の朝ドラだ。

この先も、どこかニヤニヤしながらふたりの行方を見守り続けられそうだ。

元記事で読む
の記事をもっとみる