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「私のような何者でもない人間でも踏み出すことができる」Ritaさん53歳。子育て卒業後、スペイン留学で見つけた〈最高の生き方〉

  • 2025.12.7

「完璧じゃなくても、迷いながらでいい」

この書籍をいちばん届けたいのは、“この先の自分の人生に問いを抱えている人”です。スペインでの暮らしや人との出会い、異国の空気、それらを伝えたい気持ちはもちろんあります。けれどそれ以上に、「私のような何者でもない人間でも踏み出すことができる」ということを伝えたい。

語学力があるわけでも、大きな資金があるわけでもない。それでも一歩踏み出せば、人生は確実に動き出し、新しい世界が拓けていく。「完璧じゃなくていい。迷いながらでも、進んでいいんだ。」そう思ってもらえたら嬉しいです。

留学のきっかけは、終活をする私に呆れた娘のひとこと

ある日、久しぶりに会った長女に言われた一言が、すべての始まりでした。当時、子どもたちはすでに独立し、それぞれの暮らしを送っている頃。「もうやることもない」「私の役目は終わった」という思いもあり、長女に「保険も入ったし、誰にも迷惑をかけずに天国にいくからね。」という話をしたんです。

すると娘は少し呆れ気味に、「何で死ぬことばかり考えているの?そんな準備ばかりしないで、留学でもしたら?」と。彼女は留学も海外勤務も経験していて、「世界中には何歳になっても人生謳歌している人がたくさんいる。ママの感覚とは全然違うよ。」と教えてくれました。

確かに私は終わることばかりに目を向けて、静かに余生を過ごすことしか考えていなかったんです。でもその言葉に、私もまだ何かできるかもしれないという気持ちが沸いてきて。「今からスタートすれば、70歳でも80歳でも楽しめるかもしれない」と、 “終わること”から“始めること”へと視線が変わりました。そして翌日、会社に辞表を出しました(笑)。

スペインを選んだのは「あの女性の国へ行ってみたい」という憧れから

スペインには、かつて旅行中に見た忘れられない光景があります。深夜のテラス席で、真っ赤なワンピースをまとった白髪の女性が、ひとりでワインを飲んでいました。年齢は70代くらいでしょうか。ひとりでいるのに寂しさは微塵もなく、ただ静かに、自分の時間を楽しんでいるようでした。

「こんなふうに年を重ねたい」心に刻まれたその憧れの女性を思い出し、きっとスペインには素敵な大人がたくさんいるに違いない。そんな国に行きたいと思い、調べ始め、留学先をスペインに決めました。

語学力ゼロのスタート。“居場所がない”痛み

英語は中学生レベル、スペイン語はもちろんゼロスタート。英語はいまだに苦手意識があります。さらに私は、もともと人前で自分を表現したりアピールしたりするのが得意ではありませんでした。

クラスの10人のうち、自分以外は英語で意思疎通ができ、笑い合い、一緒に帰っていく。そんな中、私はただ笑っていることしかできなかった。きっと「何を考えているか分からないアジア人」だと思われていたでしょう。好きな事もイヤな事も伝えられない。言葉がないと居場所もない。その孤独は決して小さくありませんでした。

それでも、もともとのマイペースさが私を救ってくれたように思います。ひとりの時間を大切にしながら、自分のペースで学び、少しずつ自分の立ち位置を築いていったのです。

出会いが変えた“自分へのまなざし”

クラスには20代から80代まで、年齢も国籍も多様な人が集まっていました。留学期間もさまざまで、短い人だと1週間という方も。その中で特に印象的だったのが、70代・80代の方々の学びに対する姿勢でした。

語学力は私と大差ないのに、とにかく自信満々で、そして何より楽しそう。彼らの共通点は、今の自分の状態を常に最善と考えていることでした。ここまでできたなら十分、と自分を褒める。できないことではなく、できていることに焦点を当てているのです。

一方で私は、性格なのか日本人の気質なのか、“できないことを恥じ、できない自分を並べ立てて比較する癖”がありました。そのことに気付けたのは、大きな学びだったと思います。彼らとの出会いで、自分を見る目が少しずつ優しく塗り替えられていきました。

スペインで気づいた“日本人の美しさ”

スペインには「年齢に縛られない大人」が多くいます。深夜に大人同士でアイスを食べたり、70代くらいのご夫婦がクリスマスシーズンにサンタ帽をかぶって街を歩いたり…。子どもたちのお楽しみを子どもだけのものにしない、人生の楽しみ方がとても伸びやかなんです。

一方で、日本人女性の“優しさや調和を重んじる美しさ”は、海外に出たからこそあらため誇らしく思った部分でもあります。日本人は海外の人からとても尊敬されてるんです。「日本人は絶対遅刻しない」「人の後ろを歩く」なんて、少しオーバーに捉えてる方もいますが(笑)。自分の主張を持ちながらも相手を立てる、そんな魅力を、むしろ海外の人たちこそ知ってくれていると実感しました。

また、文化は違っても40代・50代の“モヤモヤ”は世界共通なんだという発見もありました。小さな子どもがいるうちは自分のことを我慢し、子育てを卒業すると急に手持ち無沙汰になり、自分自身と向き合ったときにモヤモヤする。その流れは同じようです。

けれど、スペインの人たちはイヤなことはやらないし、方向転換がとても早い。そして「悩んだら笑えばいい」というマインドがある。「楽しいから笑うのではなくて、笑うから楽しくなる」という考え方です。その感覚が私の中にもじわじわ浸透し、気付けば「No pasa nada(どうってことないよ)」と自然に思えるようになりました。

“今更”ではなく、“今から”

STORY読者の皆さまに私から伝えられることがあるとしたら、「今更じゃなくて、今から」という気持ちを持ってほしい、ということ。私自身がそうだったように、子育てや仕事に追われ、目の前のことをこなすだけで精一杯だった日々を過ごし、時間ができた途端に目指すものが見えなくなる。そうすると、人はつい終わりの方向に進んでしまうことがあります。

小さく縮んでいくだけの未来しか想像できなかった私も、留学を決意したその日から「楽しんで生きていいんだ」という感覚に変わりました。大人の留学には、若い頃とは異なり、成熟した年齢だからこそ得られる学びがありました。今はもう、年齢を重ねることがまったく怖くない。むしろ60歳、70歳になった自分が楽しみでさえあります。

そして今、かすかに新たな目標も芽生えています。同世代の人や、迷いの途中にいる人がもう一度動き出せるような、“人生の再設計ができる場所づくり”をしたい。執筆を通して言葉で感情を整理してきた私の経験を活かしながら、人生を軽やかにするお手伝いができればと思っています。

「人生は、いつからでも始められる」

何か始めたいけれど、何をしていいかわからない。そんなときは、昔好きだったことに挑戦してみてもいいし、気になるお稽古を始めてもいい。本を一冊買うだけでも、これまでとは違う世界が見えてくることがあります。さっきまで見えなかった道がふっと現れて、その道を進んでみると、またその先に新しい景色が広がっていく。

母として、妻として、仕事や立場のある人として、環境に左右されてしまうこともあると思います。自分のことを後回しにすることに慣れてしまっている方もいるかもしれません。でも、自分の人生だけは自分で変えられる。いつでも、何度でも、自分が主役になれるということを、どうか忘れずにいてほしいと願っています。

Ritaさん

旅暮らしエッセイスト。日本で結婚、育児、離婚を経て、53歳でスペイン留学を決意。その経験を綴ったSTORY webの連載「「Ritaの大人留学」が話題に。今年10月に『スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版/¥1,700(税別)を出版。

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取材/小仲志帆

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