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『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』原作者が絶賛する、板垣李光人&中村倫也の声とキャラクターとの親和性

  • 2025.12.6

白泉社ヤングアニマル誌で連載され、第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武田一義による同名漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』(公開中)。太平洋戦争の末期、南方のペリリュー島に派兵された若者たち。日本軍1万人のうち、最後まで生き残ったのはわずか34人という戦場を描く。命を落とした兵士の戦果を(時に脚色を交えて)伝える功績係に任命された田丸を演じるのは板垣李光人、狙撃の腕を買われて前線に抜てきされる吉敷を託されたのは中村倫也。そんな2人は“戦火の友情物語”をどう生きたのか、原作者の武田を交えて語ってもらった。

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「『ペリリュー』は、日記のような感覚で読み進められるところがあると感じます」(板垣)

――可愛らしいキャラクターと凄絶な戦場のギャップが鮮烈な作品です。武田先生は前作「さよならタマちゃん」から本作に通じるキャラクターデザインをされていますが、アシスタントをされていた奥浩哉先生(「GANTZ」ほか)のタッチとはずいぶん違いますよね。どのようにしてこのデザインに到達されたのでしょう。

武田「元々の絵は、奥先生に近いものでした。アシスタント時代に精巣腫瘍というガンを患い、その闘病記を描こうと思い立った時に、“病気を扱う以上どうしてもしんどい話になるから、せめてキャラが可愛いから読めるデザインにしよう”とこの形にたどり着きました。病気と戦争の違いはあれど、『ペリリュー』でも同じ考えを踏襲しています」

連載当初から、可愛らしいキャラクターデザインで描かれるリアルな戦場の描写が話題となった「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」 [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
連載当初から、可愛らしいキャラクターデザインで描かれるリアルな戦場の描写が話題となった「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」 [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

――以前のインタビューで、武田先生は田丸、吉敷、2人の上官である島田が同時に生まれたとおっしゃっていましたよね。原作の第1話にもある描写ですが、島田が田丸の前で涙を流すシーンが冒頭にあるのが印象的でした。戦争映画や漫画において、上官が部下の前で早々に涙を見せるのは珍しいように感じます。

武田「おっしゃるとおり、戦争の物語だと上官って主人公に対比して怖いやつや悪いやつに描かれがちですが、そうはしたくありませんでした。おっかない上官は別のキャラクターで描いていましたし、『ペリリュー』は基本軸として“いろいろな人たちがいるのが普通”という考えで作っているため、初めから差異が見えるようにしたかったのです」

――中村さんはアフレコに際し、「原作を読んだ時点で役作りは完了した」と話されていましたが、なにか特別な読み方をされたのでしょうか。

命を懸けた戦いに身を投じた兵士たちの生き様に没入する! [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
命を懸けた戦いに身を投じた兵士たちの生き様に没入する! [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

中村「というよりも、没入させられたんですよね。原作を読んでいると、自分のなかのなにかしらの記憶と結びついて熱帯の島特有の潮風がまとわりついてくる感じや、波や風で揺れる木々の音、鳥の鳴き声、においといったものが立ち上がってきました。僕は戦場のにおいに関しては知りませんが、戦闘が始まってからそれらが全部崩れていく感覚自体はわかるように思ったのです。他作品で恐縮ですが、浅野いにお先生の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を読んだ時に“いま自分が住んでいる部屋の外にUFOが浮かんでいるんじゃないか”と錯覚したことがあって、『ペリリュー』も同じ没入感を抱きました。先ほどのお話にもあったように、武田先生がキャラデザ含めてあえて作り込みすぎないようにしてくれたことで、読者である僕が自分から引っ張り出してきた感覚と融合させられた気がします。そのなかで生きる吉敷という人物が持っている核心に近いものに触れられた気がして、不思議と“できそう”と思えました」

板垣が演じた、漫画家になることを夢見る田丸 [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
板垣が演じた、漫画家になることを夢見る田丸 [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

板垣「『ペリリュー』は、いかにも物語的なものではなく、日記のような感覚で読み進められるところがあると僕は感じます。武田先生が戦地から生きて帰ってこられた方々に取材をされているからこその質感なのでしょうが、いまの時代に描かれたものと頭ではわかっていても“田丸のような当事者の方が漫画として遺したのでは?”と思えるリアリティがありました。その瞬間の状況とそこに付随する残酷さが手に取るようにわかる感覚になりました」

「今回はまっすぐセリフを言うことしか考えていませんでした」(中村)

――武田先生のお話を伺っていると非常にロジカルに物語を構築された印象を受けますが、逆に「キャラクターが動き出してしまった」瞬間はありましたか?

武田「ありました。やはり、考えて描いている部分と成り行きに任せようと思っている部分の両方でしたね。大雑把なところは想定しつつ、細かなことは描きながら…でした」

田丸と吉敷の頼れる上官・島田をはじめ、個性豊かなキャラクターたちが登場する [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
田丸と吉敷の頼れる上官・島田をはじめ、個性豊かなキャラクターたちが登場する [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

中村「連載期間自体が長いですもんね」

武田「そうなんです。例えば小杉と片倉という登場人物に関しては、真逆の性質をもったキャラクターとして打ち出しつつも、その後のエピソードに関しては考えていませんでした。原作では『閉じ込められた片倉が生き残るために仲間の死体を…』という描写がありますが、小杉か片倉のどちらかにその役目を担わせることしか決めていなくて。お互いの役割が逆転する可能性もあるなかで、動かしてみたら片倉のほうが勝手にそうなっていったんです」

中村「片倉らしいですね」

武田「描いてみると結果的に“らしく”なるんですよね」

――ちなみに板垣さんは、演じられる時に元から「考えていた」とおりだった割合と、結果的に「こうなった」という割合では、どのような比率だったのでしょう。

板垣「今回でいうと、最終的に『こうなった』が7割、『考えていた』が3割ほどでしょうか。初日はアニメーションということもあり10割『考えた』状態で臨んでいましたが、それでは全然通用しなくて、最終日に初日のアフレコ部分もすべて録り直しました。ただ、そもそも芝居というもの自体がその時の感情に任せて出てくると思うので、最終的に普段やっている芝居のように『考えずにやれる』割合が増えたのは大きかったです」

過去にもアニメーション映画の吹替え経験を持つ2人。その経験は活かされた? 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア) スタイリング(板垣李光人)/伊藤省吾(sitor) ヘアメイク(板垣李光人)/KATO(TRON) スタイリング(中村倫也)/戸倉祥仁/Akihito Tokura (holy.) ヘアメイク(中村倫也)/Ryo Matsuda (Y’s C)
過去にもアニメーション映画の吹替え経験を持つ2人。その経験は活かされた? 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア) スタイリング(板垣李光人)/伊藤省吾(sitor) ヘアメイク(板垣李光人)/KATO(TRON) スタイリング(中村倫也)/戸倉祥仁/Akihito Tokura (holy.) ヘアメイク(中村倫也)/Ryo Matsuda (Y’s C)

――初アニメーション出演だった『かがみの孤城』(22)の経験は、どれくらい活きたのでしょう。

板垣「ほぼ活きてない…(笑)。というと語弊があるかもしれませんが、結構期間が空いたこともありますし、『かがみの孤城』はアフレコが半日ほどだったんです」

中村「ヘッドホンしたことくらいしか覚えてないよね、きっと(笑)」

武田「その時間だと、なかなか“なにかを掴む”というところまでは難しいですよね」

板垣「そうですね。もちろんその当時の全力は出し尽くしましたが、これで大丈夫だったかな…という想いはありました。そして数年経ち、振出しに戻って…(笑)。ゼロの状態からスタートした感覚です」

――中村さんは『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(23)などで劇場アニメーションに参加されています。

中村「今回はまっすぐセリフを言うことしか考えていませんでした。吉敷というキャラクターもそうですし、この作品の大事にしないといけないところはそこなんじゃないかと感じて。少なくとも田丸と吉敷に関しては脚色しすぎるのはよくないだろう、と思いながら現場に入りましたね。収録は絵コンテ段階で行われたので、プロの声優さんだったら画がその状態でもアフレコ台本などから読み解いて問題なく動けるのでしょうが、自分は慣れていないのでラフ状態の絵を見て『これは、誰…?』となることもまだまだありました」

中村が演じた、どこまでもまっすぐな性格の吉敷。田丸と共に必ず生きて帰ることを誓う [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
中村が演じた、どこまでもまっすぐな性格の吉敷。田丸と共に必ず生きて帰ることを誓う [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

板垣「1回タイミングを逃すと立ち尽くすしかなくなりますよね(笑)」

中村「ただただ流れる絵コンテを見続ける状態になるという(笑)。自分は運動神経がいいほうだったので経験したことがありませんが、目の前の大縄跳びに入れない気持ちってこういうことだと、はたと思いました。『すみません、止めて下さい!』って言いたくなる(笑)」

――自分は運動神経が悪いので大縄跳びの例えがわかりすぎます(笑)。体育の時間は「縄が上の時に行くのか、下の時に行くのか、どっち!?」となっていました。

中村「それでいうと、アフレコ台本は上段にト書き(場面説明や動きの指示)や心情の説明、下段にセリフが書かれているのですが我々も『いまどっち見ればいいの!?上?下?』とはなりました(笑)」

板垣「セリフは下段だけ見ればいいのかと思いきや、上段にも『ハッと息をのむ』のような指示が書かれているんですよね。見逃すといけないのでマーカーを引いて臨みました」

中村「そういった状況下でしたから、後日ほぼ完成前の映像を観た時はびっくりしました。こんなに画が動いてる!アニメだ!って(笑)」

「吉敷の普通の男の子としての部分を強調していただけて、“普通だ、うれしいな”と感じたのが印象に残っています」(武田)

戦場にいる兵士たちの“日常の姿”が垣間見えるのも本作の見どころ [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
戦場にいる兵士たちの“日常の姿”が垣間見えるのも本作の見どころ [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

――武田先生は中村さんのお芝居に「戦場に行っていない日常の吉敷を感じた」とおっしゃっていましたよね。個人的には功績係に任命された田丸に「すげーな、そんな特別な仕事してたのか」と言う部分などに素朴さを感じました。

武田「僕は吉敷はカッコよく演じられるのではないかと思っていましたが、中村さんの『吉敷はもう行動がカッコいいから、芝居でカッコよくする必要はない』とのコメントを見てハッとさせられました。普通の男の子としての部分を強調していただけて、“普通だ、うれしいな”と感じたのが印象に残っています」

中村「それこそ“普通”だったら『生き残ろうぜ、田丸!』(美声)とやりますよね、わかります。そういうふうに(カッコよすぎる演技を)しなかったのには、僕の照れもあります」

武田「でも、吉敷もきっと照れ屋なんですよ。だからとてもマッチしていました」

中村「そうですね。行動のカッコよさを自覚していたり、誰かに見てもらおうと思ってやっている人じゃない。それを見てリアクションする田丸もいてくれるから、僕は普通にやろうと思っていました」

武田「それが本当によかったです。中村さんは終始、本来だったら田舎で家業の農業にいそしんでいるお兄ちゃん、という吉敷像を見せて下さいました」

ペリリュー島に派遣された1万人の日本軍のうち、生き残ったのはわずか34名だったという史実に基づく物語 [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
ペリリュー島に派遣された1万人の日本軍のうち、生き残ったのはわずか34名だったという史実に基づく物語 [c]武⽥⼀義・⽩泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会

――田丸に関しては、YouTubeで素の板垣さんの声を聴いて「声質が近い」と思われていたそうですが、演じられたものを聴いていかがでしたか?

武田「元々“田丸っぽいな”と思ってはいましたし、実際に演じていただいてもずっと“いいな”と感じていましたが、驚いたのは大声を出した時です。この言い方が正しいのかはわかりませんが、ごく自然に声が割れたんですよね。声に余裕がなく、恐らく普段から大声を出すタイプでもないからこそ、田丸の状況に対応できていないパニック感が板垣さんのお芝居から伝わってきました。僕が“板垣さんの声は田丸っぽいな”と思っていたのは日常の部分でしたから、戦場にいる田丸の声を初めて聴いた時は目からうろこ状態でした。非常に真に迫っていて、すばらしかったです」

板垣「ありがとうございます」

中村「あれは技術だもんね?」

板垣「技術…ええ、技術です!(笑)」

中村「とのことです!(笑)」

【写真を見る】板垣李光人&中村倫也の自然体でやわらかな笑顔を撮りおろし! 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア) スタイリング(板垣李光人)/伊藤省吾(sitor) ヘアメイク(板垣李光人)/KATO(TRON) スタイリング(中村倫也)/戸倉祥仁/Akihito Tokura (holy.) ヘアメイク(中村倫也)/Ryo Matsuda (Y’s C)
【写真を見る】板垣李光人&中村倫也の自然体でやわらかな笑顔を撮りおろし! 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア) スタイリング(板垣李光人)/伊藤省吾(sitor) ヘアメイク(板垣李光人)/KATO(TRON) スタイリング(中村倫也)/戸倉祥仁/Akihito Tokura (holy.) ヘアメイク(中村倫也)/Ryo Matsuda (Y’s C)

取材・文/SYO

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