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“風景”とは人が眺めて初めて現れる…異なるバックグラウンドを持つ3人の写真展

  • 2025.12.6

千葉とオランダ、異なるバックグラウンドを持つ3人の写真家のやや異色の写真展。「眺め」をキーワードに、作品の舞台は徳川家最後のプリンスが住んだ武家屋敷やNYのストリート。3人の眼差しはどんな「眺め」をとらえたのか。

オランダと千葉をルーツとする3人の作家が見た風景

出展者の一人、清水裕貴さんのテーマは“眺めの継承”。始まりは戸定(とじょう)歴史館の研究員・小寺さんとの出会いだった。

「松戸の戸定邸という武家屋敷に徳川昭武(あきたけ)という人が撮った膨大な古写真があり、それを研究する面白い学芸員さんがいると聞いて」

昭武は第11代水戸藩主。激動の幕末・明治期を生き、後半生を戸定邸で過ごした。カメラをはじめ多彩な趣味を嗜む一方、記録魔で1300枚以上の写真のほか膨大な量の撮影や旅の記録、日誌を残している。

小寺さんは現在、戸定邸を管理する歴史博物館に勤務。残された撮影記録をもとに、あたかも昭武が憑依したかのように、その足取りをたどる小寺さんにインスピレーションを受けて清水さんは作品を制作。昭武と同じ地を訪ねてシャッターを切り、昭武の撮影散歩を追体験し、図らずも清水さん自身も昭武の継承者となり、そして気づく。「どんなに目の前の風景が変貌したとしても、土地の役割、醸し出す雰囲気は過去を引き継いでいる」。さらに、昭武の写真にも「継承」するものを感じたという。

「昭武の写真はフランス絵画のバルビゾン派の影響を受けていますが、同派の風景の『見方』が撮影した写真に表れていると思いました」

今回、千葉県立美術館が所蔵するコローやミレーなどのバルビゾン派の風景画も一緒に展示される。「『風景』とは人が眺めて初めて現れるのでは。展示を通して問いたい」と清水さん。最後に印象的な体験を話してくれた。

「夕暮れに戸定邸近くを歩いていたら、昭武の写真と雰囲気のよく似た風景に遭遇し、なおかつバルビゾン派の絵画の光と同じと感じたことが。絵画と古写真といま立っている場所がつながった、非常に美しい瞬間でした」

対して、オランダの2人の作家の展示とは? 千葉県立美術館の上席研究員、廣川暁生さんに聞いた。

「ストリートフォトが注目されているサラ・ファン・ライさんとダヴィット・ファン・デル・レーウさんの展示テーマは“眺めの反照”。ストリートのガラスや鏡に映り込んだような、不思議に重なり合うNYの景色が特徴的です」

清水さんの作品がテキストで物語る一方、二人の作品は1コマの情景の中にふと心に残るようなストーリー性を感じさせる。

「そこにある存在を淡々と見つめている、少し離れた所から俯瞰しているのが3人の共通点といえるかもしれません」

写真が好きな人はもちろん、絵画、郷土史、徳川家が好きという人も、いろいろな切り口から入り込めそう。ぜひ自分の好きな要素を見つけ出し、楽しんでほしい。

“眺めの継承” 清水裕貴

「失われた江戸時代への憧憬と留学を通して知った欧米の世界での経験。2つの世界が昭武の静謐な風景写真の中に複層的に走っているような気がします」(清水さん)

清水裕貴《古ヶ崎》 2025年 (C)Yuki Shimizu

清水裕貴《古ヶ崎》 2025年 (C)Yuki Shimizu

徳川昭武《牧馬(2)》 1909年5月 松戸市戸定歴史館

徳川昭武《牧馬(2)》 1909年5月 松戸市戸定歴史館

“眺めの反照” サラ・ファン・ライ&ダヴィット・ファン・デル・レーウ

テーマの“反照”は作品のショーウィンドーやガラス面に映り込む景色のイメージから。NYの街を歩きながら、都市の中にある場所の記憶、痕跡を探し求めて撮ったという。

ダヴィット・ファン・デル・レーウ〈Metropolitan Melancholia〉より (C)David van der Leeuw

ダヴィット・ファン・デル・レーウ〈Metropolitan Melancholia〉より (C)David van der Leeuw

清水裕貴さん
清水裕貴

しみず・ゆき 千葉県生まれ。土地の歴史や伝承のリサーチをベースに写真と言葉を組み合わせて風景を表現している。写真集『岸』(赤々舎)、小説『海は地下室に眠る』(KADOKAWA)ほか。(C)Akira Muramatsu

Information

千葉県立美術館『オランダ×千葉 撮る、物語る ―サラ・ファン・ライ&ダヴィット・ファン・デル・レーウ×清水裕貴』
  • 千葉県千葉市中央区中央港1-10-1
  • 開催中~2026年1月18日(日)
  • 9時~16時30分(入場は16時まで)
  • 月曜(1/12は開館)、12/28~1/4、1/13休
  • 一般1000円ほか
  • TEL. 043-242-8311

取材、文・松本あかね

anan 2473号(2025年11月26日発売)より

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