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キラキラネームは日本だけでなく世界全体で増加してた――なぜなのか?

  • 2025.12.5
キラキラネームは日本だけでなく世界全体で増加してた――なぜなのか?
キラキラネームは日本だけでなく世界全体で増加してた――なぜなのか? / Credit:Canva

日本には「キラキラネーム」と呼ばれる、読みづらかったり意外なイメージを持つ珍しい名前があります。

日本の青山学院大学(青学大)で行われた研究によって、こうした珍しい名前の増加は日本だけの特殊な現象ではなく、アメリカやイギリス、ドイツ、フランス、中国、インドネシアなど7か国すべてで共通の流れであることがわかってきました。

いったいなぜ世界じゅうでここまでそろって“普通の名前離れ”が進んでいるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年11月25日に『Humanities and Social Sciences Communications』にて発表されました。

目次

  • キラキラネーム増加は日本だけなのか?
  • なぜキラキラネームは世界規模で増えているのか?

キラキラネーム増加は日本だけなのか?

キラキラネーム増加は日本だけなのか?
キラキラネーム増加は日本だけなのか? / Credit:Canva

名前とは、とても身近でありながら、実はその社会の「ものの見方」を映す不思議なラベルです。

生まれたばかりの赤ちゃんに名前をつけるとき、親はただ呼びやすい名前を選んでいるだけではありません。

「この子にはどんなふうに育ってほしいか」「どんなイメージをまとってほしいか」といった願いも、そっと名前に込めています。

そう考えると、名前は親の個人的な好みであると同時に、その時代の価値観や流行がにじむ文化的な作品でもあります。

こうした名前の「文化としての顔」は、すでにいろいろな形で注目されてきました。

テレビや新聞、インターネットメディアでは、毎年のベビーネームランキングが特集され、上位の人気名とあわせて「変わった名前」「珍しい名前」が紹介されます。

SNSでも、「これは素敵」「これは読めない」と、珍しい名前について賛否を語り合う投稿が絶えません。

心理学や社会学、言語学、人口統計学などの分野でも、名前の歴史や流行を通して、家族観や性別観、価値観の変化を読み取ろうとする研究が少しずつ増えてきました。

しかし、「珍しい名前が増えている」という話題そのものはよく耳にする一方で、その実態を世界レベルで整理した研究はこれまでありませんでした。

アメリカならアメリカ、日本なら日本というように、各国ごとの研究はたくさんあるものの、それらは別々の雑誌、別々の分野で発表されていて、「国をまたいだ共通の流れなのか」「それとも国ごとにまったく別の現象なのか」は見えにくいままでした。

言い換えれば、名前研究の地図は細かいピースが散らばっているだけで、まだ全体像のパズルが組み上がっていなかったのです。

そこで今回の研究では、ドイツ、アメリカ、イギリス、フランス、日本、中国、インドネシアという7か国で行われた実証研究を集め、「普通の名前」と「珍しい名前」の割合が歴史の中でどう変わってきたのかを一つの表に並べて比べ直しました。

その結果、どの国でも共通して「普通の名前」が相対的に減り、「珍しい名前」が増えていくことが確認されました。

例えば、ドイツのある地方都市(ゲロルスタイン)では1894年から1994年の100年間で、毎年その町で“一人しかいない”名前の割合が着実に増えていました。

またアメリカ合衆国では、1880年から2000年代にかけて全米規模で人気上位の名前が占める割合が大幅に低下しており、州ごとに見ても同様の傾向でした。東アジアを見ても、「普通の名前離れ」は同様です。

中国では、個人名に使われる漢字の種類が時代とともに多様化しており、1970年代以降は「あまり使われないような漢字」を名前に選ぶケースが増えています。

同じくインドネシアのジャワ島でも、1930~70年代頃までは一部のありふれた名前が好まれる傾向がありましたが、その後1970年代以降になると一転して唯一無二の名前が増加に転じています。

このように、調査対象となった全ての国で「名前の個性化」が進んでいたのです。

では、なぜ世界各国でここまで共通して名前の個性化が進んだのでしょうか?

なぜキラキラネームは世界規模で増えているのか?

なぜキラキラネームは世界規模で増えているのか?
なぜキラキラネームは世界規模で増えているのか? / Credit:Canva

なぜ世界各国でキラキラネームが増えていったのか?

著者は、名前を社会や文化の変化を測る一つの指標と考えており、ここでは文化の「体温計」(社会の傾向を測る計器)にたとえ、世界の、少なくとも今回取り上げた国々の文化的な「体温」が少し『個性重視』の方向に上がってきているのではないか、と読み解いています。

実際、子どもの名前に珍しいものを選ぶ傾向は、その社会の個人主義の指標になり得ることが先行研究でも示されています。

コラム:珍しい名前と個人主義が結びつくのは何故か?
名前と個人主義の話は、少し聞いただけだと「本当かな?」と感じやすいところだと思います。確かに「ひとりふたり変わった名前の子がいる」だけなら、ただの流行や親の趣味で終わりです。研究者たちが見ているのは、そうした個人の例ではなく、「社会全体で珍しい名前がどれくらい選ばれているか」という“まとめて見たときの傾向”です。ここで初めて、名前がその社会の価値観を映す「文化の温度計」として働き始めます。
赤ちゃんの名前を決めるとき、親はまだその子の性格を知りません。にもかかわらず、名前には「こういう人になってほしい」「こういう雰囲気の子だといいな」という願いを込めます。つまり、名前は親の価値観や「理想の人間像」の投影でもあります。「昔からある親しみやすい名前」を選べば、「周りとなじみやすく、安心感のある子に」という期待がにじみますし、「だれともかぶらないような名前」を選べば、「特別で、自分の道を進む子に」というイメージがこめられやすくなります。
心理学の研究では、まさにこの部分に注目します。個人主義が強い社会では、「他の人と違うところ」に価値を置きやすくなります。その結果、「トップ10に入る定番名より、少し変わった名前を選ぼう」「読み方やスペルを工夫して、他の子とかぶらないようにしよう」という名付けが少しずつ増えていきます。一方、集団主義が強い社会では、「親や祖父母と同じ名前」「地域でよく見かける名前」「みんながすぐ読みやすい名前」が好まれやすくなります。つまり、“名前の選び方そのもの”が、その社会でどれくらい「違い」を大事にしているかの小さな手がかりになるわけです。

言い換えれば、親が子どもにどんな名前をつけるかを見ることで、その社会が「みんなと同じが良い」という空気なのか「人とは違うほうが面白い」という空気なのかを感じ取ることができるということです。

例えばスマートフォンのケース選びひとつとっても、最近では「他人と被らないデザイン」を好む人が増えてきましたよね。

他の人と同じものより、自分らしさを表現できる珍しいデザインを選びたがる――名前にもそれと同じことが起きていると考えられます。

社会的な意義としては、赤ちゃんの命名というプライベートなデータを集めるだけで、社会全体の価値観の変遷を客観的に捉えられる点が挙げられます。

実際、本研究は心理学、社会学、言語学、人口統計学といった異なる分野で個別に行われてきた名前研究をまとめ上げ、学際的な新しい知見を提供しています。

こうしたアプローチは、文化の動きをシンプルかつ広範囲に捉える手法として今後も役立つでしょう。

研究論文によれば、このレビュー自体が今後の追加調査の土台となり、さらなる国際比較研究へと発展していくことが期待されています。

普段は何気なく受け取っている子どもの名前ですが、実はそれが世界全体の文化の鼓動を映していると考えると、なんとも興味深いことです。

参考文献

荻原祐二准教授が一般的でない名前の世界的な増加傾向を実証 ~個性重視の文化変容を示唆~
https://www.aoyama.ac.jp/faculty115/2025/news_20251202_01

元論文

Uncommon names are increasing globally: a review of empirical evidence on naming trends
https://doi.org/10.1057/s41599-025-06156-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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