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映画『消滅世界』出演・栁俊太郎さんにインタビュー「愛が禁じられ管理される社会はあり得なくはない」

  • 2025.12.6
芥川賞作家・村田沙耶香の長編小説『消滅世界』が実写映画化。村田作品初の実写映画となる本作に出演している栁俊太郎さんにインタビュー。性が消滅し、人生を管理された中で生きることとは……。作品が描く世界や栁さんのキャリアなどについても聞きました。※写真:Kaori Saito(All About)
芥川賞作家・村田沙耶香の長編小説『消滅世界』が実写映画化。村田作品初の実写映画となる本作に出演している栁俊太郎さんにインタビュー。性が消滅し、人生を管理された中で生きることとは……。作品が描く世界や栁さんのキャリアなどについても聞きました。※写真:Kaori Saito(All About)

映画『消滅世界』は、人工授精での妊娠、出産が常識となった世界が舞台。愛し合った両親から生まれた雨音(蒔田彩珠)は、出会い系アプリで出会った朔(栁俊太郎)と結婚。雨音と朔は、実験都市エデンに移住しますが、そこは人工授精で生まれた子どもを住人全員で育てるルールがありました。
 
奇想天外なSF設定の中、その世界で生きる人間の感情も描いた斬新な作品。栁俊太郎さんは、ヒロインの雨音と結婚する朔を演じています。まずこの難役について、依頼があったときのこと、朔役について話を聞きました。

『消滅世界』出演、栁俊太郎さんにインタビュー

――本作出演の決め手について教えてください。

栁俊太郎さん(以下、栁):川村誠監督から出演オファーのお手紙をいただきました。そんな熱意のあるオファーを受けたことがなかったので、とてもうれしかったです。その後、原作小説の『消滅世界』を読んだのですが、この小説を映像化したら面白い作品になるのではないかと思い、出演を決めました。
 
――舞台設定も朔の役もとても難しい作品ですよね。どのような役作りをしましたか?
 
栁:完全にSFで、僕にとっても未知の世界。言葉にするのが難しいのですが、原作と脚本を読んで思ったのは「あり得ない世界ではない」ということです。今、自分たちが生きている世界と、この映画が描く未来が、それほど遠くもなく、絶妙な距離感だと思いました。管理社会を受け入れる人間がいてもおかしくない気がします。

©︎2025「消滅世界」製作委員会
©︎2025「消滅世界」製作委員会


――私が試写を見たとき、ヒロインの雨音は映画と観客をつなぐ存在なので、彼女が考えていることが分かるのですが、朔は比較的、受け身な男なので、心の中が見えにくいキャラクターだと感じました。朔をどう解釈して演じましたか?
 
栁:川村監督とよく話し合いました。朔がエデンのルールを素直に受け入れるのはなぜだろうと考えたとき、目の前に差し出された物事に対し、それが自分の生きる道ならば、素直に環境に合わせることができる人だからではないかと。少しロボット的なものを感じました。
 
――朔は感情を表に出しませんが、感情があまりない男として演じたのでしょうか?
 
栁:彼にも感情はあると思うんですよ。でも血の色が赤くないといいますか、もしかしたら青色の血が流れているかもしれない。そういう不気味さがありました。

テンポのいい独特のリズムが映画の魅力

©︎2025「消滅世界」製作委員会
©︎2025「消滅世界」製作委員会


――本作では雨音を演じる蒔田彩珠さんとのシーンが多かったと思いますが、共演されていかがでしたか?
 
栁:初めて一緒に芝居をしたのですが、目が魅力的な俳優さんだと思いました。引き込まれるようなお芝居をされるのですが、それが本当に自然。シンプルなお芝居なのに強く伝わってくるんです。伝えようとしていなくても伝わってくる。それができる俳優はなかなかいないと思います。
 
――撮影合間にお話はしましたか?
 
栁:結構話しましたよ。この映画は特殊な設定で静かに奇妙なことが起こっていく作品ですが、川村監督は撮るのが速く、停滞せずにトントン進むことが多かったし、スタッフとキャストはにぎやかで撮影は楽しかったです。
 
――完成した映画を見た感想は? いかがでしたか?
 
栁:川村監督の独特のリズムを感じる映画でした。見始めたとき、意外とテンポのいい作品だなと思ったんです。流れる音楽やインサートされる映像などが作品にリズムを作っていました。そこから後半はスローペースになっていくのもまた独特のリズムがあって。映像ディレクターでもある川村監督らしい作品だと思いました。


管理される社会で生きて幸せになれるだろうか

©︎2025「消滅世界」製作委員会
©︎2025「消滅世界」製作委員会


――エデンという都市は、人工授精で生まれた子どもを両親だけでなくエデンの住人たちで育てていくというルールがありますが、意外とエデンのように管理された生活のほうが楽だという人もいるのではないかと思います。その一方、オリジナリティーのない生活に反発する人もいるでしょう。そんなエデンがつくり出す世界について栁さんはどう考えますか?
 
栁:僕はエデンを好むか好まないかというよりも、エデンのような世界を否定はできないという気持ちのほうが強いですね。犯罪や格差がない社会のほうがいいじゃないですか。しかしその反面、個性が消されてしまうというのは怖い。今の時代を生きる僕は、エデンの住人に「それでいいの?」と問いたい気持ちになりました。
 
――どっちに転んでも何かが足りないという……難しいですね。
 
栁:全員が同じ方向を向いて生きることはできないんだなと。同じ方向を向かせるためには、エデンのように強制しないと無理なのかもしれません。

浅野忠信さんが俳優への道を開いてくれた

俳優だけでなくモデルとしても活躍する栁俊太郎さん ※写真:Kaori Saito(All About)
俳優だけでなくモデルとしても活躍する栁俊太郎さん ※写真:Kaori Saito(All About)


――キャリアについて教えてください。栁さんはモデルとしても活動されていますが、俳優になりたい気持ちはいつからあったのですか?
 
栁:映画は好きでよく見ていたので、高校を卒業したら映像関係の学校に進もうと思っていたんです。しかし、モデルオーディションに合格してモデル活動を開始し、表舞台に立つようになって、俳優もありだと思うようになりました。
 
――演じてみたいという気持ちがあったのですか?
 
栁:俳優業界のことは分からなかったので、演じることがどういうことなのかさっぱり分からなかったです。もう単純に「スクリーンの中に入ってみたいな」という気持ちでしたね(笑)。
 
――そこから現在まで、キャリアを積み重ねていらっしゃいますが、栁さんのキャリアで転機となった出来事や影響を受けた人物がいたら教えてください。
 
栁:映画業界に入るきっかけを作ってくれた浅野忠信さんですね。モデルの仕事で一緒になったとき、俳優にも興味を持っていると話をしたら、事務所を紹介してくれたんです。
 
浅野さんのお芝居も好きでしたし、手助けしていただいた大先輩。浅野さんと出会わなかったら、僕は今、ここにいないと思います。
 
――その時代を経て、俳優としてさまざまなジャンルの作品に出演されていますが、栁さんは演じることは楽しいですか? それとも大変ですか?
 
栁:いろいろな役に出会うことはとても楽しいと感じていますが、演じる上ではセリフを覚えることはもちろん、体をつくったり、トレーニングしたり、準備したりするのは大変です。役をもらった当初はワクワクするのですが、役に入り込んでいくうちに結構キツイなと思ったりすることもあって。楽しい気持ちとつらい気持ちが半々ですね。
 
――『消滅世界』の朔役を考えるのはつらかったですか?
 
栁:そうですね、役よりも、この映画の世界を考えると怖かったです。こういう未来がくるかもしれないと思うと。都市伝説を聞いた後のようなざわざわする怖さがありました。


 

好きなジャンルはロードムービー

ロードムービーが好きだという栁俊太郎さん ※写真:Kaori Saito(All About)
ロードムービーが好きだという栁俊太郎さん ※写真:Kaori Saito(All About)


――All Aboutでは、取材の際に「好きな映画」も伺っているのですが、栁さんは好きな映画、監督、俳優などいますか? 好きなジャンルでもいいです。
 
栁:僕はロードムービーが好きです。音楽やファッションが好きで、ロードムービーにはそれらがかっこよく映し出されている作品が多いんです。登場人物のファッションや、流れる音楽、風景、そういうビジュアルで作品の世界を記憶していることが多いかもしれません。
 
好きな映画を挙げるとしたら『トゥルー・ロマンス』。あとウォン・カーウァイ監督の映画も好きですね。最近見てよかったのは『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』です。
 
――『トゥルー・ロマンス』はまさにかっこいいロードムービーですよね。では最後に『消滅世界』を楽しみにしている方へ、栁さんの見どころを。
 
栁:独特の世界観の作品なのですが、とてもテンポがよく心地よいリズムを感じられる映画です。人工授精で生まれた子ども、愛のない世界、管理社会を描いていて、決して今の世界と遠くないので興味深いテーマだと思います。
 
僕の見どころとしては、これまでやったことのないシーンがあります。自分でもびっくりしましたから。あと時々、素の僕が現れていて、普段の自分に近いテンションのシーンもあったりするので楽しみにしていただきたいです。

栁俊太郎(やなぎ・しゅんたろう)さんのプロフィール

1991年5月16日生まれ。宮城県出身。

2009年、『MEN’S NON-NO』(集英社)のモデルグランプリを受賞してモデルデビュー。2012年より俳優活動スタート。主な出演作はNHK大河ドラマ『どうする家康』(2023)『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(2025)、映画は『東京喰種 トーキョーグール』シリーズ(2017、2019)、『ゴールデンカムイ』『他人は地獄だ』(いずれも2024)ほか。近作は『#真相をお話しします』『九龍ジェネリックロマンス』『平場の月』(いずれも2025)配信ドラマ『スキャンダルイブ』(ABEMA)。最新作は『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』(2026年3月13日公開予定)『ちるらん 新撰組鎮魂歌』(2026年放映予定/TBS)。

『消滅世界』2025年11月28日より全国ロードショー

©︎2025「消滅世界」製作委員会
©︎2025「消滅世界」製作委員会


原作:村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)
監督・脚本:川村誠
出演:蒔田彩珠、栁俊太郎、恒松祐里、結木滉星、富田健太郎、清水尚弥、松浦りょう、岩田奏、落井実結子、山中崇、眞島秀和、霧島れいか
音楽:D.A.N.
主題歌:D.A.N.『Perfect Blue』
劇中アニメキャラクターデザイン:Waboku
 
撮影・取材・文:斎藤香
スタイリスト:伊藤省吾
ヘアメイク:八十島優吾

文:斎藤 香(映画ガイド)

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