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スティーブ・ジョブズも実践!「今日が人生最後でも…」の暮らし方【禅僧・枡野俊明さん】

  • 2025.12.5

スティーブ・ジョブズも実践!「今日が人生最後でも…」の暮らし方【禅僧・枡野俊明さん】

「健康寿命って、あと10年くらいなのかもしれない」——ふと気づいた66歳の女性。今できることは何だろうと迷うようになった方からの相談です。今後の生き方のお手本について、禅僧・枡野俊明先生に伺いました。

門を開けば

「開門福寿多(門を開けば福寿多し)」
自ら門を開くことで福を招き入れようという禅の言葉です。

今回は、健康寿命があと10年ほどだと気づいて生き方について考え始めた方からの相談です。さて、枡野さんの答えは。

<今月のテーマ>
「これからの生き方について迷っています」

現在66歳。いつまでも若い気持ちで、これまで死を考えることはありませんでした。しかし健康寿命もあと10年ほどと考えると、今できることは何だろう?と思うようになりました。今後の生き方のお手本があればお聞きしたいです。

平均寿命になるまで元気だとは限りません

2024年の日本人の平均寿命は、女性は87歳、男性が81歳です。現在66歳の女性であれば、20年以上の寿命があると言ってもいいでしょう。しかし現実には、その20年間をこれまで同様に過ごせるわけではありません。「寿命」の前に「健康寿命」が尽きることが多いからです。

健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく、自立して健康に生きられる期間」を言います。女性の平均健康寿命は75歳、男性は72歳です。平均寿命との差は10年前後。体や頭が思うように動かない状態での長生きになる可能性が少なくない、ということです。

個人差はもちろんあります。100歳になるまでお元気で、ある日突然ぽっくりと亡くなる人もいるでしょう。けれどそれは自分でコントロールできることではありません。

禅の言葉に「昨日少年、今日白頭」というものがあります。「自分はずっと少年のままでいるような気持ちだったのに、ふと気づいたら白髪頭になっていた」――つまり、それほど時間は早く過ぎてしまい、自分だけがなかなか気づけないものだということです。

「まだまだ時間はある」というのは勝手な思い込みにすぎません。時は私たちを待ってはくれず、1日1日、波が岸に打ち寄せるように老いを積み重ねていきます。それは変えられません。けれど多くの人はそれを意識しないまま日々を過ごしてしまいます。気づくのは病気で余命を宣告されたときなどでしょう。そのとき初めて、「人生には限りがある」と実感するのです。でもその段階では、残される時間はあまり多くはありません。

昨日少年 今日白頭——さくじつしょうねん こんにちはくとう

人はあっという間に老人になる。
時が過ぎるのは早く、人生は有限。
今したいことは今すぐ実行を

「今日が人生最後でもこれをするか」を問う

さて、相談者さんは最近「元気でいられるのはあと10年程度かもしれないのだ」と気づいたのですね。平均寿命も健康寿命も、あくまで平均値ではありますが、「健康に過ごせるのはあと〇年程度かもしれない」と考えて、この先の人生を考え直すのはとても大切なことだと思います。

人生の残りの時間を充実させていきたいと思うのであれば、「いつか時期がきたらやろう」と思っていることに、今すぐ着手することをおすすめします。できることからでもいい、少しずつでもいい。「やりたい」と思ったことを積み上げていくことが、人生の充実につながるのだと思います。

アップル社の創始者であるスティーブ・ジョブズのスピーチに、印象的な言葉があります。

「私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしています。『もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていることをするだろうか』と。『違う』という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直したほうがよいということです」

これは、2005年にスタンフォード大学の学生に向けての言葉です。ジョブズはその2年前に膵臓がんが見つかり、手術で一命をとりとめたばかり。死は身近にあったはずです。だからこそジョブズは「今やろうと思っていることと、本当にやりたいことが違っているのであれば、やりたいことをしなさい」というメッセージを若い世代に送ったのでしょう。死が迫ってから気づくより、はるかにいいからです。

ちなみに、この考え方は禅の思想によるものです。ジョブズは曹洞宗の禅僧・乙川弘文和尚を生涯の師と仰いでいました。禅の考え方である「余分なものをそぎ落とす」という考えは、iPhoneの設計などに多大な影響を与えたことで知られています。

やりたいことは即実行。生活の中に組み入れて

話を戻します。もしも今後の人生に迷うのであれば、10年後の自分をイメージしながら、それまでにやっておきたいことの計画を立てることをおすすめします。誰にでも「やりたいと思っていたのに、まだ着手していない」ということがあるものです。まずはそれを実行に移すのがいいと思います。

ただし、人は計画倒れに終わりがちですから、今できることを今すぐ実行してください。やろうと思ってもなかなか継続できないなら、1日のルーティンの中に組み込み、5分だけでも実践することから始めましょう。「夕方に5分だけでもウォーキングする」など小さなことでいいのです。ほんの少し行動を変えれば、きっとこれからの人生も変わるはずです。

アドバイスいただいたのは

枡野俊明さん
曹洞宗徳雄山 建功寺住職
1953年神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山 建功寺第18世住職。庭園デザイナー。多摩美術大学名誉教授。「禅の庭」を通して国内外から高く評価され、2006年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に。『悩みを手放す21の方法』(主婦の友社)など著書多数。

取材・文/神 素子

※この記事は「ゆうゆう」2026年1月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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