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なぜ満席続出? 傑作にして怪作映画『WEAPONS/ウェポンズ』ネタバレなしで知りたい3つのこと

  • 2025.12.5
世界中で大ヒットを飛ばした映画『WEAPONS/ウェポンズ』が日本でも満席続出となりました。なぜ本作が「ネタバレ厳禁」であるのか?作品の魅力と共にたっぷり解説しましょう。(画像出典:(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved)
世界中で大ヒットを飛ばした映画『WEAPONS/ウェポンズ』が日本でも満席続出となりました。なぜ本作が「ネタバレ厳禁」であるのか?作品の魅力と共にたっぷり解説しましょう。(画像出典:(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved)

映画『WEAPONS/ウェポンズ』が11月28日より劇場公開中です。とにかく、本作は後述する注意点をクリアできる人は絶対に見てください!

週末は満席続出!でも上映劇場が少ない!そしてめちゃくちゃ面白い!

何しろ、同作は3回に渡って全米週末興行ランキングNo.1を記録し、世界興行収入380億円を突破した大ヒット作。そして、この日本でも多くの上映回が満席または満席近い大盛況となりました。

もっとも、現時点での上映館数が33館と少なく、しかも1日の上映回数もごく限られていたからこそ、人が詰めかけているところもあるでしょう。今後も混雑が予想されるため、上映劇場を確認し、早めにご覧になることをおすすめします(そして「自分の地域では上映していない!」という悲痛な声もあるので、上映館数増えて……!)

その大ヒットの理由は、何しろ圧倒的な評判によるものでしょう。Rotten Tomatoesでの批評家支持率は94%にまで上っていますし、この日本では、後述する「怪作」と呼べる特徴も相まってやや賛否を呼んでいるものの、それでもホラー映画の評価が厳しくなりがちなレビューサイトで映画.comで3.7点、Filmarksで3.9点と十分に好評です。

そして、この『WEAPONS/ウェポンズ』は評判以上にめちゃくちゃ面白い! とにかく先が気になるし、一時たりとも退屈するスキもない、グイグイと惹き込まれる、とてつもないエンターテインメントでした。

まずは完全ネタバレなしの予備知識として、「ネタバレ厳禁と言われる理由」「R18+指定だがグロいか」「どういうタイプの怖さがあるか」を記していきましょう。

注意点:R18+指定のグロさはある?怖い?見る前に知ってほしいこと

「ネタバレ厳禁」である最大の理由は、「なぜか子どもたちが深夜に姿を消した」という謎につながるヒントがちりばめられていて、見ながら答えを予想をしていくことに面白さがあるから。先の展開が読めないからこそ、翻弄(ほんろう)されるような恐怖、あるいは深淵に近づくようなゾクゾクした感覚を楽しめるでしょう。

注意点は、R18+指定という高いレーティングがされている通り、直接的な残酷シーンがごくわずかにあること。

しかし、ショッキングではあれど、そのシーンは多くはなく、描写としてもしつこくありません。人によってはブラックなユーモアさえ感じられる……むしろ、ありえない方向性のグロさのせいで、笑ってしまう描写もあるのです。「グロは絶対NG」という人でなければ、それほど抵抗はなく受け入れられるのではないでしょうか。

(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved
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また、序盤に1カ所だけジャンプスケア(大きな音で驚かせる演出)があるものの、そこ以外ではほとんど見受けられませんでした。どちらかと言えば日本のホラーに近い「じわじわと来る」タイプの怖さがある作品なので、頻繁に「ワッ」と驚かされることが苦手な人でも、本作は大丈夫でしょう。

むしろ、恐怖よりも注意しなければならないのは、「子どもたちが失踪した」ことに起因する、キャラクターそれぞれの辛く苦しい心情に同調するからこその「精神的負担」なのかもしれません。

本当に恐ろしく、観客に精神的な負担を強いるのは終盤の展開なのですが、そればかりはネタバレなしでは説明不可能です。筆者はそのあまりのシチュエーションによる悲しさと恐ろしさ、そして映画としての圧倒的な面白さがあいまって、涙を流してしまいました。ほかに事前に知っておくべき情報はないのですが、ここからはある程度は内容に踏み込む形で、でもネタバレには触れないように、特徴や魅力を3つのポイントからたっぷりとお伝えします。予備知識をまったく入れない状態で見たい人は、先に劇場へ駆けつけてください。

1:『呪怨』を思い出す構成の「もどかしさ」が重要だった

『WEAPONS/ウェポンズ』の最大の特徴と言っていいのは、「キャラクターごとの章立ての構成」かつ、それぞれの章で「同じ(あるいは少し進んだ)時間軸での違う視点を描いている」という構成です。ある種の”ザッピング”的な群像劇となっていることから『マグノリア』(1999年)を思い出す人は多いでしょうし、複数の証言のために事件の謎がさらに深まっていく様から『羅生門』(1950年)も連想します。

さらに、ザック・クレッガー監督は『プリズナーズ』(2013年)からもインスピレーションを得ており、同じく失踪した子どもを捜索する重圧なミステリーであることと「色褪せた」「陰鬱とした」画調に似たものを感じられます。

さらに近いと思えたのは、日本のホラー映画『呪怨』シリーズです。そちらは複数の視点かつ時系列が激しくシャッフルされており、恐ろしい出来事の“起点”がどこにあるかが不明瞭だからこその恐怖を呼び起こしていたのですから。

なお、『呪怨』シリーズに対し、『WEAPONS/ウェポンズ』は「なぜか子どもたちが深夜に消えた」という事件を軸にキャラクターの視点が交錯していき、少しずつ時間が前に進んでいく印象もあるため、見ながら混乱することはまずないはず。テクニカルな構成のようで、実はとても「分かりやすい」内容なのです。

(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved
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そして、物語はそれぞれのキャラクターの視点で事件の謎の答えに近づいていくのですが、その先で予想だにしない出来事が起きると、“良いところ”で別の人物の視点にパッと切り替わったりします。

「この人がどうなったか知りたいのに、別のキャラの視点に移っちゃうのかよ!」と思う人もいるかもしれませんが、その「もどかしさ」こそが、作品には重要でした。

予想だにしない出来事の理由が気になって気になってしょうがないからこそ、別のキャラクターの視点で真実が明かされ、「そういうことだったのか!」と分かる瞬間には、恐怖を超えて快感すら感じられるのですから。

もちろん、元のキャラの「その後」も、さらに別のキャラの視点でしっかり描かれるので、その快感が積み重なっていく構成になっているのです。また、『WEAPONS/ウェポンズ』は前述したように連想する映画が多い一方で、予想だにしない展開と、画の強さにより、圧倒的なオリジナリティーも備えています。その方向性はかなり極端なので、賛否が分かれやすい要因にもなっており、本作が怪作と呼ばれる理由ともいえます。

なお、公式に「ネタバレ厳禁考察ミステリー」と銘打たれていますが、実際は見終わってみれば劇中に答えがほぼはっきりと描かれています。

一方で、上映中は「これはどういうことなんだ?」と頭をフル回転させられる、いわば「現在進行形で考察が捗る」タイプの作品ということも告げておきましょう。

「教室で生徒たちが学んでいたこと」や、「嫌がらせで先生の車に描かれた言葉」にも、そのヒントがあるかもしれません。

2:「正しくなさ」も含めたキャラクター描写の豊かさ。そして三角形の意味は?

本作で優れているのは、キャラクター描写です。それぞれが画一的でも一面的でもないからこそ、たっぷりと思い入れができます。

例えば初めの章で、主人公である小学校の先生・ジャスティンは、「担任クラスの子どもたち17人が深夜に忽然(こつぜん)と姿を消した」ため、保護者たちから激しい非難を受け、説明も求められます。

しかし、彼女にもまったく理由が分からないので、何も答えられないに等しいのです。この状況から身の安全を守るためにも、校長から休職も言い渡されるのも無理はないと納得できるでしょう。初めこそジャスティンは生徒思いの良い先生に見えるし、保護者たちから一方に責め立てられる様にも同情できます。しかしながら、彼女ははっきりと「正しくなさ」も秘めています。

過去には飲酒運転をしていたし、さらには校長から明確に禁じられた行動にも出てしまいます。どうにも猪突猛進で、人としてのモラルにも少し欠けていて、「気持ちは分かるけど、それは良くないよなぁ」と思えるバランスの人物なのです。

ほかにも、失踪した息子の捜索に躍起になる保護者のアーチャーや、ジャスティンの元恋人の警察官のポールも、「良いところと悪いところが共存している」人間くささがあります。極めて理性的な対応をしている校長のマーカスは「本当に良い人なんだろうなぁ」としみじみと感じられる人柄です。一方で、窃盗を繰り返しながら小銭を稼いでいる浮浪者のジェームズには、「本当コイツはどうしようもねぇな!」と良い意味で呆れたりもしてしまいます。そして、物語が核心に近づくと、さらにキャラクターの印象が変わってくる。いや、はっきりと「この人はこの出来事を経て、変わったんだ」と感慨深くなることにも感動があります。

それぞれのキャラクターに共感ができるのは、俳優陣の力ももちろん大きいでしょう。特に、ジャスティンを演じたジュリア・ガーナーは、『アシスタント』(2023年)と『ロイヤルホテル』(2024年)で抑圧される女性の苦しさを体現した演技が絶賛されていましたが、今回も不条理な出来事に焦りと恐れを抱きつつ、子どもを大切に思ってくることがとことん伝わるのです。

なお、オープニングとエンドクレジットに登場するタイトル「Weapons」の「o」には「三角形」が描かれています。円の中に三角形が描かれているのはアルコール依存症の自助グループ「アルコホーリクス・アノニマス」のロゴで、登場人物たちがアルコール依存症に苦しんでいることを示唆しているのです。

3:「禰豆子のような走り方」の実はショッキングな元ネタ、そして連想したもう1つの作品

ところで、ポスターアートにもなっている、子どもたちが逆のV字型に手を広げて走るポーズは、日本の漫画『Dr.スランプ』のアラレちゃんや、『鬼滅の刃』の竈門禰豆子を連想します。

しかし、実際にクレッガー監督がインスピレーションを得たのは、1972年にベトナムで撮影された「ナパームの少女」という有名な写真だったそうです(IMDbのトリビアより)。

同写真での爆撃を受けた村から逃げる9歳の少女の姿はひどくショッキングであり、戦争犠牲者の痛ましさを克明に捉えています。それは終盤のネタバレ厳禁のおぞましい展開にも、部分的にはリンクしているともいえるでしょう。

さらに、「WEAPONS」という謎めいたタイトルは、「武器」という概念の恐ろしさを改めて示しているとも言えますし、物語全体を見渡せば「大人が子どもに何をしてあげられるのか」という、逆説的な大きな思考をも促されるのです。

(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved
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また、クレッガー監督が本作の脚本を書き始めたのは、友人の突然の死がきっかけでした。同世代の俳優の中のトレヴァー・ムーアが、2021年に酒に酔って自宅のバルコニーから転落して死亡しました。クレッガー監督自身もまたアルコール依存症だったことも、ジャスティンのリアルな依存症描写に反映されていると思われます(映画秘宝のnoteより)。

最後にもう1つ、筆者が強く連想した作品も挙げておきましょう。それは漫画『ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない』です。そちらも「田舎町で不穏な事件が起きる」という物語の土台のほか、一触即発の攻防戦が起こることや、さらには「悪意に立ち向かう人間の精神の強さ」を称えるような作劇も一致しているのですから。

(C) 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved
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さらに、終盤にはさらに「ジョジョっぽい」展開があるのですが、それもまたネタバレ厳禁なので秘密にしておきましょう。

とにかく、本作は面白いです。それでいて、もしも現実で不条理な出来事に遭遇したとしても、希望を失わずにいられるかもしれない……ホラー映画では『サユリ』と並んで、そんな希望さえも得られる作品なのです。ぜひとも、映画館で食い入るように見てほしいです。

※“禰豆子の「禰」は「ネ」+「爾」が正式表記

文:ヒナタカ

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