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【学生が調べた防災】地名は過去からのメッセージ 暮らしにひそむヒント

  • 2025.12.4

スマホで地図を開いたときや、電車の路線図を眺めているときに「どうしてこの駅名なんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか。

地名の中には、その土地で起こりやすい災害や、かつて何度も繰り返された水害・土砂災害の記憶が閉じ込められていることがあります。

昔の人びとは自分たちが経験した出来事を、地名などの短い語にまとめて、次の世代へ伝えようとしてきました。

もちろん、すべての地名が「危険な場所」を意味しているわけではありません。縁起のよい漢字に置き換えられた場所や、時代の中で読み方だけ残ったケースもあります。

それでも、地名を入り口に地形や古い記録を見直してみると、「なんとなく住んでいる場所」が、少し違った姿で見えてくることがあるのです。

「池袋」「梅田」身近な地名にひそむ水害のサイン

水に関係する地名といえば、水やくぼみを連想させる「池」「沼」「川」などの漢字がまず思い浮かびます。

確かに、こうした漢字が含まれる地名は、水が集まりやすい場所と結びつくことが多く、大雨のときに浸水しやすい土地である可能性があります。

しかし、漢字だけを見ると水と関係なさそうに見えても、水害地を指している漢字も少なくありません。
例えば、「袋(ふくろ)」のつく地名も、水害と関わっていると言われています。蛇行する川の外側にできたくぼ地や、かつての遊水地が「袋」と呼ばれていたケースがあります。

東京の池袋という地名も、水がたまりやすい地形が背景にあると考えられています。

また、大阪にある「梅田」も、もともとは湿地帯を「埋めた」場所に由来するとされます。他にも、愛知県日進市の「梅森」、岐阜県山県市の「梅原」なども、土石流や土砂が押し寄せて埋まった土地と関係付けられていて、「梅」の字の陰には「埋め立て」「土砂で埋もれた場所」という意味が含まれていることがあります。

こうした身近な地名は、必ずしも「危険」と直結するわけではありませんが、「ここは水がたまりやすい地形だったのかもしれない」と意識してもいいかもしれません。

首都圏は水がつくった土地

今では3,000万人以上が暮らす首都圏ですが、実はこの一帯は、もともと海や川がつくり上げた土地です。
利根川や荒川などが氾濫を繰り返しながら土砂を運び、平らな地形を形づくってきました。現在の首都圏は、洪水によってできた土地だと言ってもよいほどです。

明治以降も、大きな水害は何度も起きています。例えば、1910年の「関東大水害」では、台風により埼玉県では県土の24%が浸水、東京市内の各地も泥の海になりました。

そんな歴史を今も物語っているのが、東京の北区と板橋区の境目にある「浮間ヶ池」です。

この池は、川の流れを変えたとき、堤防の外にできたものです。今は公園と住宅街になっていますが、洪水がよく起きた場所が、形を変えて残っている典型例です。
また、そのすぐそばの駅がJR埼京線の「浮間舟渡」です。

「浮間」は、川の中に浮いた島のような土地に由来するとされる一方、「ウキ」は泥の多い場所を示す地名でもあります。「舟渡(ふなど)」は、川と関係が深い言葉で、ここが水のそばに位置していることを、駅名そのものが示しています。

「船越」は津波で船が越えた場所?

次は、「船越(ふなこし)」という地名を見てみます。
「船越」という地名は全国にたくさん存在していて、その中には「津波で船が越えた場所」と言い伝えられている所があります。

たとえば、紀伊半島の三重県志摩市にある船越では、津波で船が反対側まで運ばれたという話が残っており、昔は「大津波村」という名前だった所もありました。

一方で、川舟など、底が平らな船を人が担いだり、引っ張ったりして陸の上を運んで越えた場所も「船越」と呼ばれてきました。

つまり、

「津波で船が越えた場所」

「人の力で船を運んで越えた場所」

どちらの可能性もあるのです。

このことから分かるのは、名前だけを見てこの場所は危険だと決めつけるのではなく、地名はあくまできっかけにして考えるのが大事です。

斜面・崩れやすさを伝える「栗」「萩」

水だけでなく、山や斜面に関係する地名にも、災害を知るヒントがあります。

たとえば「栗(くり)」という字は、果物の栗とは別に、「くり抜く」「えぐり取る」といった意味から、崩れやすい山や、土砂崩れが起きた場所の名前として紹介されることがあります。
実際に、大きな地震で山崩れや土石流が起きた地域に、宮城県の栗原市、奈良県の十津川村栗平というように「栗」がつく地名が存在しています。

また、「萩(はぎ)」や「荻(おぎ)」といった地名は、「土地が剥がれる」という意味が含まれていることもあります。愛知県幸田町荻では、道路をつくる際に「この角度では崩れやすい」と地元の人が訴え、設計変更を余儀なくされたことがあります。

日常で使える「地名チェック」の小さな例

ここまで、
・水がたまりやすい土地と関連する地名
・津波と結びついた地名
・山や斜面の崩れやすさと関連する地名
などを見てきました。

「じゃあ、実際の生活でどう使えばいいの?」ということで、いくつか具体的なシーンを挙げてみます。

・引っ越しを考えるとき
新しい候補地の地名をざっと眺めて、上に挙げたような、災害に関する漢字がつくかどうかをチェックしてみましょう。さらに自治体のハザードマップで浸水や土砂災害の被害想定を確認することが大切です。

・よく遊びに行くショッピングエリアやレジャースポットで
駅名や地名の由来を調べてみて、昔はどんな地形だったのかを調べてみましょう。たとえば、人気のエリアで、かつて水に関連する災害があったなら、「大雨のときはエレベーターではなく階段を使って上の階に避難できるか」など、避難計画を考えてみてはどうでしょうか。

こうした「小さな確認」を地名をきっかけに、積み重ねるだけでも、防災の解像度はぐっと上がります。

地名は「答え」ではなく、考えるためのヒント

くり返しになりますが、「災害に関連する地名=危険」だと受け取らないことです。
同じ「船越」でも、自然の力で船が陸を越えたのか、人力で船が陸を越えたのか、背景は一つではありません。
だからこそ、災害に関連しているかもしれないと思った地名があっても、それなら「この地域のハザードマップを調べて、危ないかどうか確認しよう」と、防災意識を高めるためのヒントとして使うのがちょうどいい距離感です。
住んでいる地名や、よく使う駅名の意味を調べてみたり、自治体のハザードマップで、洪水・津波・土砂災害の想定区域をざっくり確認してみたり。
これだけでも、「なんとなく不安」だった気持ちが、「ここはこういう理由で注意が必要なんだ」という、根拠のある警戒心に変わっていきます。
地名は、過去の人びとが未来の私たちに残してくれた、小さなメッセージです。
災害に関連する地名を知っておくことで、「怖い話」ではなく、「自分や家族を守るための知恵」として、ふだんの暮らしの中に取り入れていけるはずです。

執筆者プロフィル
遠藤優太
金井遼太
鈴木幸来

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