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『大ピンチずかん』作者・鈴木のりたけ「絵がボケて、読む人がツッコむ」トークイベント開催。新作『きれてる』にちなみ超ロングロールケーキが登場‼【イベントレポート】

  • 2025.12.3

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ページをめくるたび「どうなるの?」と「そうなんだ!」が次々とあらわれる絵本シリーズ、「?と!のえほん」は累計10万部を突破。第1作『たれてる』(ポプラ社)に続いて登場したのは、『きれてる』(同)。作者は、小学生なら誰でも知っている「大ピンチずかん」シリーズ(小学館)や数多くのヒット作で注目を浴びる絵本作家、鈴木のりたけさんです。

このほど、鈴木さんが新作『きれてる』のスペシャルイベントに登壇。参加した親子に向けて、絵本の創作秘話や楽しみ方について語ったほか、大阪発祥の人気ロールケーキ、「堂島ロール」とのコラボで長〜いロールケーキをカットする場面もありました。

読み聞かせは「+会話」がのりたけ流

イベントは、鈴木さんによる『きれてる』の読み聞かせからスタートしました。「ふつうの読み聞かせはあまり好きじゃない」と話す鈴木さんは、たくさんのロールケーキが並んだ見返しの絵を見せて「何かひとつ違うものが混じってる?」と会場の子どもたちに呼びかけます。

見返しには、白い生クリームが詰まっているはずのロールケーキのなかに、ひとつだけ色の違うものが…。それに気づいた子が「チョコ!」「あんこ?」「ごま!」などと発言すると、鈴木さんはその一つひとつに嬉しそうに答えながら、「いつもこんな感じで(自身の子どもたちに)読み聞かせをしていますね」とコメント。

そのあとも、絵本のなかの薄すぎるロールケーキの絵を指差して「薄い! へなへなで、焼き豚みたい」と、読み聞かせのなかに絵本には書かれていない語りかけを織り交ぜていきます。ロールケーキの意外な部分が切れてしまった場面では、「そこが切れてんのかーい!」とツッコミを入れて会場を沸かせました。

ちょっと違和感のある絵で始まり、次の場面にアッと驚くような展開があるのが、この絵本シリーズの面白さ。『きれてる』でも、ロールケーキは少しずつ意外な形に姿を変えていきます。「だんだんロールケーキに見えなくなってくる。もっといろいろ描いてみたいとアイデアが湧いてきます」と、鈴木さんが制作中のエピソードを語ると、それは面白い絵本になるわけだ…と、納得したように深くうなずく来場者の姿が多く見られました。

“ここおかしくない?”と想像する楽しさ

シリーズ第2作として刊行された『きれてる』。鈴木さんは、「○○てる」という動詞のタイトルにしようと、「あふれてる」「まがってる」など、スケッチを描きながらさまざまなアイデアを検討したそうです。カステラを題材にして「きれてる」にする案もありましたが、ロールケーキのほうが絵として面白く、変更になったとか。子どもたちがさまざまな「○○てる」の案を出し合う場面もありました。

「?と!のえほん」シリーズの原点になったという「えー!?」という作品のラフも公開。2枚の絵の組み合わせで、1枚目にちょっと気になる絵があり、2枚目で意外な場面が展開するという仕掛けです。その展開に、子どもたちは「え〜っ!?」と驚いたり、「そうなるんかい!」とツッコんだりと大盛り上がり。

「1枚描いて、そのあとにどうなるのか、自分なりの回答を出します。言ってみれば、絵がボケで、読む人がツッコミ。作家が描いたものに読む人が入り込み、“ここおかしくない?”と想像して面白がれるのが絵本の良さ。コミュニケーションツールになるような絵本を作りたい」と、制作のこだわりについて語りました。

鈴木さんが考える面白い絵本とは、「読者が面白がれること」だと言います。「『大ピンチずかん』なら、読みながら『ぼくは経験あるよ』とか『まだ経験ないな』とか、読んでいる人が自分に重ねられるようなフックをちりばめます。お話が面白いだけじゃ、面白くならない。作家の意図と関係なく、読者が絵本に入り込んで楽しみ尽くしてもらえるのが、面白い絵本だと思っています」。

のりたけ流絵本を100倍楽しむ方法

「絵本を100倍楽しむ方法を教えて」という質問では、楽しみ方の例として、あるゲームが紹介されました。内容は「他の人が描いた絵に名前をつける」というもの。ひとりで考えるとすぐに話が完結してしまうので、誰かと一緒に遊んで考えることが大切だと言い、自宅では3人のお子さんと一緒にこうしたゲームをしているそうです。

「何でも面白がると、絵本の楽しみが広がる。読む人がどれだけ絵本を自分事にできるか。絵本を読みながら面白い空気を作れるように、いつもこんなふうに訓練をしています」と語りました。

鈴木のりたけさん、おすすめの絵本は?

おすすめの絵本を挙げるコーナーでは、鈴木さんが自宅で読んでいる絵本を紹介。1冊目に挙がったのは『かさぶたくん』(やぎゅうげんいちろう/福音館書店)です。「『?』と『!』で進む典型的な絵本。この2つがどこにあるのか、考えながら読むと面白いですよ。読み込みすぎて、うちの本にはだいぶ落書きがされています」。

1966年に刊行された、加古里子さん作のベストセラー『かわ』(福音館書店)もおすすめだとか。雪解け水や雨から生まれた小さな流れは、谷川となり、ダムに貯められて発電所で電気を起こしたり、岩を砕いて小さな石ころにしたり…。「本を閉じたあとに『かわってすごいな』と思える一冊」。

『かっぱ印 川あそびブック』(阿部夏丸/ブロンズ新社)という絵本は、読み聞かせでお子さんたちに喜ばれた一冊だそう。「絵本というより図鑑。『今日は、この本のなかからウナギとモズクガニを読んで』とリクエストがあり、ウナギを読むならナマズも読んで…など、いつも交渉から読み聞かせが始まっていました」。

他にも、松岡達英さんの絵本などを、どんなふうに読んだら楽しめるのかを含めて紹介してくれました。

「たとえ読んでみてつまらなかったとしても、『つまんない!』と、そのこと自体を面白がることだってできる。どうやったら面白くなるか考えてみて」と、どんな絵本でもかならず面白がれるポイントがあることを教えてくれました。

絵本を通じて読者とリアルに対話

トークショーのあとは、『きれてる』のモチーフであるロールケーキの制作に鈴木さんが挑戦。「堂島ロール」を生み出したメーカー、モンシェールさんのパティシエによる指導のもと、通常の1.5倍もあるというスポンジに大量の生クリームを伸ばし、巻いていきます。できあがると、会場から大きな拍手が! 『きれてる』にちなんでカットにもチャレンジ。子どもの顔ほどもある大きなロールケーキを、来場者に振る舞いました。

大注目の絵本作家である鈴木のりたけさんのトークに、ロールケーキのカットの実演と、盛りだくさんとなったイベント。どの場面でも、子どもたちとの対話を楽しむ鈴木さんの姿がありました。一方通行ではなく、作者と読者、そして読む人と聞く人の間に会話を生み出す鈴木さんの絵本。それは「絵本」という名の体験でもあり、子どもたちにとって、親子にとって、何事にも代えがたい時間となっています。今後も「?と!のえほん」シリーズにますます注目が集まりそうです。

取材・文=吉田あき 撮影=島本絵梨佳

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