「お茶汲みは女の仕事」と笑う部長。だが、女性社員全員のある行動に、職場の空気が一変【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

私の職場は、いまだに昭和の空気を引きずっているような古い体質の会社です。

「おい、お茶」

午前10時と午後3時、決まった時間に部長の声が響くと、女性社員の誰かが慌てて給湯室へ走る。それが当たり前の光景でした。

ある繁忙期のことです。私は締め切り間近の資料作成に追われていました。そこへ例のごとく部長が通りかかり、デスクに座ったままの私を見てニヤリと笑いました。

「気が利かないなぁ。お茶汲みは女の仕事だろ？男が淹れるより、君たちが淹れたほうが美味いんだよ」

悪気のない笑顔。それが一番、私の神経を逆なでしました。

その日の昼休み、給湯室に女性社員全員が集まりました。怒りで震える私を見て、先輩が静かに言いました。

「もう、終わりにしようか」

その一言に、全員が深く頷きました。私たちはその場で、ある「ささやかな、しかし徹底的な反乱」を計画したのです。

翌日、会社にとって非常に重要な取引先の役員が来社されました。応接室に入った部長から、内線がかかってきます。

「お茶、4つ。特上のやつな」

私は受話器を取り、これまでで一番明るい声で答えました。

「申し訳ありません部長。現在、女性社員全員が緊急業務に対応しておりまして、手が離せません。また、先日の『働き方改革』の一環で、給湯室の茶葉と急須はすべて撤去いたしました」

電話の向こうで絶句する部長の気配が伝わってきます。実は昨日、私たちは示し合わせて茶葉をすべて処分し、急須も棚の奥深くへ封印していたのです。

「おい、どういうことだ！」と怒鳴る声が聞こえましたが、私は「失礼いたします」と静かに電話を切りました。

結局、部長は顔を真っ赤にして自ら自動販売機へ走り、冷えたペットボトルのお茶を出す羽目になったそうです。取引先の方は今の時代の空気を読む方だったらしく、「合理的でいいですね」と逆に好印象だったとか。

この一件以来、職場の空気は一変しました。お茶は完全セルフサービスになり、部長は自分のマグカップを自分で洗うようになりました。

「女の仕事」なんて言葉は、もう二度と聞こえてきません。私たちが勝ち取ったのは、お茶汲みの廃止ではなく、プロとして扱われるための尊厳だったのだと思います。

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