「担任の教育が悪い」と学校に怒鳴り込む親。あるプリントを見せた結果、親が言葉を失った理由【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

私は小学校の教員です。これは数年前に起きた、ある母親との忘れられない出来事です。

その母親は、事あるごとに学校へクレームを入れることで有名な方でした。

ある日の放課後、静まり返った職員室に、母親のヒステリックな怒号が響き渡りました。

「ちょっと！担任はどこ！出しなさいよ！」

鬼のような形相で、母親が学校に乗り込んできたのです。

私の姿を見つけるなり、母親はデスクに詰め寄り、唾が飛ぶほどの勢いでまくし立てました。

「うちの子、最近家で乱暴な言葉を使うようになったのよ！学校でどういう教育してるわけ？担任の教育が悪いのよ！」

教頭先生が割って入り、なだめようとしましたが、母親の興奮は収まりません。

「教育委員会に言いつける」「精神的苦痛を受けた」と、理不尽な言葉を浴びせ続けます。母親は、息子の変化はすべて学校と私の指導力不足のせいだと信じて疑いませんでした。

私は一度深く息を吐いて心を落ち着かせ、机の引き出しから一枚のプリントを取り出しました。それは先日行った国語の単元テストでした。

「まずはこちらをご覧いただけますか」

私は努めて冷静に、そのプリントを母親の目の前に差し出しました。

それは、指定された言葉を使って短文を作るという、ごく一般的な国語の問題でした。母親は乱暴にプリントをひったくりましたが、ある回答を見た瞬間、その動きがピタリと止まりました。

問：『相変わらず（あいかわらず）』を使って短文を作りましょう。
答：【ママは、相変わらず学校への文句ばかり言っている】

問：『態度（たいど）』を使って短文を作りましょう。
答：【先生からごめんなさいの電話がくると、ママの態度は急によくなる】

「……息子さんは、授業中に『ママを見て思いついた！』と、自信満々に書いていたんです。お子さんは、親御さんの背中を本当によく見ています」

私が静かにそう告げると、母親はサッと青ざめていきました。家庭での普段の会話や、親の裏表のある姿が、そのまま子供の学習成果として筒抜けになっていたのです。

「ぐ……あ、あの……」言葉に詰まった母親は、パクパクと口を開閉させた後、逃げるように職員室を出ていきました。

「子供は親の鏡」とはよく言ったものです。まずはご自身の振る舞いを見直してほしい、と切に願った出来事でした。

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