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鍋といえばタラとブリしか知らない人は人生大損している…元水産庁職員が伝授「お得でうまい鍋向き魚」の名前

  • 2025.11.29

鍋の季節がやってきた。メイン具材のバリエーションを増やすにはどうすればいいか。ライターの大宮冬洋さんが「鍋に合うお勧めの魚」について元水産庁職員の上田勝彦さんに聞いた――。

加熱してもかたくならない魚が鍋に合う

暑くて長い夏が嘘だったかのように肌寒い季節が到来している。手軽で美味しくて体が温まり、野菜もとれる料理を家で食べたい。鍋ものしかない!

「魚の鍋ではタラちりやブリしゃぶをすぐに思いつきますよね。実は、鍋に向いた魚は他にもたくさんあるんです。サワラや新鮮なイワシ、タイ類、キンメダイなど、加熱しても身がかたくならない魚です。しゃぶしゃぶ、鍋、その間のバリエーションとして『煮食い』という食べ方もあります」

ここは鎌倉の住宅地にある「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」。鹿児島県阿久根市の漁港などから新鮮な魚介類を毎日仕入れて、丸ごと一匹食べることを推奨しているユニークな鮮魚店だ。鍋ものを食べたい筆者に企画・広報担当の狩野真実さんは慣れた様子で答えてくれるが、この手はあなたの近所にある鮮魚店でも使える。今日の気分と予算を伝えて、それに向いた魚を勧めてもらうのだ。

今回取り上げるのはハガツオ。鍋に合う、お買い得の魚です
今回取り上げるのはハガツオ。鍋に合う、お買い得の魚です

「今日の魚で鍋をするならハガツオがいい。見かけはカツオだけど、身はサワラに近い。うまみが強くてきめの細かい白身で、加熱しても硬くならないところもサワラに似ている。今年は魚の味が良くなるのが全体的に遅れているけれど、ハガツオはすごく良くなってきたね。刺身はもちろん、鍋に向いているし、あらの味噌汁がこれまたうまいんだな」

ハガツオの魅力を熱く語ってくれるのは、元水産庁職員でマルカマのアドバイザーを務める上田勝彦さん。あらゆる魚の美味しい食べ方を提案・指導し、日本の食卓と漁業の現場をつなぐ活動を続けている。「魚の伝道師」とも呼ばれている水産界のレジェンドだ。

表面は煮えて温かく、中は半生でもっちり

さばくときに注意したいのは口。その名の通り、歯が鋭いのだ。キツネのような歯をしているのでキツネガツオという地域もあるらしい。筆者は安易に口元を触ってしまい、もう少しで流血するところだった。上田さんによれば、上あごから包丁を入れて口の周りを切り取ってしまうのが安全らしい。無理をせず、鮮魚店で三枚おろしにしてもらってもいい。あら(頭と骨)を持ち帰るのも忘れずに。

キツネガツオの異名を持つハガツオを持つ上田さん。魚のことなら何でも気さくに教えてくれます
キツネガツオの異名を持つハガツオを持つ上田さん。魚のことなら何でも気さくに教えてくれます

上田さんが教えてくれるのは、ハガツオの「煮食い」。しゃぶしゃぶよりも厚く切ることでボリューム感が出て、中心は生だが温まった状態(レアステーキ)で味わえるのが特徴。完全に煮てしまうのとは違う。

他にもサワラや新鮮なイワシ、タイ類、キンメダイ、など加熱しても身が硬くならない魚に合う。しゃぶしゃぶ、鍋、その間のバリエーションとして加えたい。お吸い物ぐらいに味をつけただし汁に厚めにそぎ切りにしたハガツオを入れ、表面が完全に白くなったら引き上げて、ポン酢で食べる。しゃぶしゃぶとは異なる料理だ。しゃぶしゃぶのように薄く切らず、7~8ミリぐらいに揃えるのがポイント。

まずは昆布を多めに入れた水を加熱し、沸騰したら昆布を取り出して塩で味付けをし、薄口醤油で調える。8等分にした豆腐を入れたら鍋の準備は完了。30度ぐらいの角度で斜め切りした長ネギも好きなだけ用意して、ハガツオと交互に入れて火の通り加減に注意して食べる。煮過ぎたり煮足りなくて失敗しても、あれこれ言い合えるのが楽しい。しゃぶしゃぶと同じく、エンターテインメント性がある鍋だ。

「表面は煮えて温かく、中は半生でもっちりしている。その両方を味わう料理だからね。一味か七味の唐辛子を入れてもいいよ」

うまみが出て臭みのない味噌汁

あらは適当な大きさに切り分けて、味噌汁に使う。他の魚のあらにも共通するが下処理が大事。さばくときに内臓と血をきちんと洗い流したつもりでも、あらには骨のすき間などに血や汚れが溜まっている。水を張ったボウルに入れてかき回して洗うと濁ってくるので一目瞭然だ。濁らなくなるまで水を替えながら洗って、ザルに上げて水を切れば下処理完了。

多種多様な魚を扱い、好奇心旺盛な子どもにも大人気のサカナヤマルカマ。美味しく楽しく食育ができる店です
多種多様な魚を扱い、好奇心旺盛な子どもにも大人気のサカナヤマルカマ。美味しく楽しく食育ができる店です

「阿久根の魚を使うんだから、味噌は九州特産の麦味噌を使ってほしいね。マルカマでも扱ってるよ」

商売上手でもある上田さんに勧められるままに麦味噌も購入してしまった。でも、見るからにうまそうなので損はないだろう。

その味噌は、鍋に入れた水に、あらかじめ薄めの濃さで溶いておくのが上田さん流だ。これに下処理したあらを入れて火にかけると、魚の旨みをじっくり引き出しつつ臭みを含んだタンパク質はアクとして凝固するという。そのアクを取り除けば翌朝も生臭さはない味噌汁にありつける。詳しくは、上田さんの著書『旬を愉しむ魚の教科書』(宝島社)を参照してほしい。

野菜を入れたければいちょう切りの大根や斜め切りの長ネギが合う。火が通ったら醤油もしくは味噌で味を調えたら完成。

カツオに適した料理はハガツオには合わない

1.2キロのハガツオ(一尾2800円)を購入し、40代女性の友人宅に持ち込んだ。中3、中1、小1の三人娘を育てているらしい。さらに会社同期の女性とその娘(3歳)も招待したという。育ち盛りを含む女性6人を満足させられるだろうか。緊張する。ハガツオのうまみが溶け込んだだし汁はうどんが合うらしいので、うどんを多めに買っていけば空腹だけは避けられるだろう。

鮮度抜群のハガツオ。鍋をする前に、ちょっと刺身でも食べてほしい。上田さんの著書『ウエカツの目からウロコの魚料理』(東京書籍)に「カツオのつかんまぜ」という料理があったのを思い出した。一口大に手でちぎったカツオに大根の千切りと塩を加えて混ぜ、酢をかけ回して食べる。味噌汁用の大根があるのでちょうどいい。

あれ? 味見するといつものつかんまぜとは違う。ちょっと物足りない。あの料理はカツオの「清々しい血を含んだルビー色の肉の香り」と「深くかつキレのよいうまみ」(ともに上田さんの表現)を味わうためのものなのだ。友人たちは喜んで食べてくれたが、筆者はカツオとハガツオがまったく違う魚であることを思い知らされて立ちすくんだ。

ハガツオのつかんまぜと大根の皮の塩もみ。味はいまひとつですが、さっぱりした前菜にはなりました
ハガツオのつかんまぜと大根の皮の塩もみ。味はいまひとつですが、さっぱりした前菜にはなりました
鍋の素は必要なし、魚のうまみってすごい!

鍋と味噌汁は大成功だった。友人は子どもたちがよく食べたことが何より嬉しかったようだ。

「血生臭いイメージがあるカツオは特にNGなんです。このハガツオは全然臭くないのでパクパク食べていました。普段は鍋の素に味付けを頼っていますが、まったく必要がないこともびっくりです」

友人の言葉を証明するかのような勢いで食べてくれた次女さん(中1)は油絵に打ち込んでいる芸術家肌。「煮食い」という食べ方にとりわけ興味を持ったらしい。

「外は火が通っているのに中は刺身なのが面白かった。みんなで魚を入れたので、汁の味もちょっとずつ変わっていった」

だし汁の変化にまで気づくとはすごい。締めのうどんも競うようにして食べてくれた。友人の同僚も「家でやる鍋とは違って、味を濃くしなくてもいいんですね。魚の旨みってすごい!」と絶賛。いつもは自分が家族のために料理しているからこそ、他の人が作った料理はとりわけ美味しく感じるのかもしれない。

鍋も味噌汁も旨すぎて盛り上がり、写真を撮り忘れました。締めのうどんを慌てて撮影。各年代の女性たちに喜んでもらえた夜でした
鍋も味噌汁も旨すぎて盛り上がり、写真を撮り忘れました。締めのうどんを慌てて撮影。各年代の女性たちに喜んでもらえた夜でした

そして味噌汁。本当は翌日の温め直したものがうまいらしいのだが、友人は作りたての味噌汁でも「麦味噌にハマりそう」とつぶやいた。香ばしく甘い香りが魚の味を優しく包み込み、体にしみわたるのだ。

魚代は2800円。昆布や野菜、うどんを含めても4000円もしない。これで大人3人と子ども4人が楽しく温かく健康的にお腹を満たせる。外食することと比べると格段に安くつくし、魚の豊かなうまみは調味料のそれとはまったく違う。子どもにもぜひ知ってほしい。この冬は鮮魚店イチオシの魚で「煮食い」を試してみよう。

大宮 冬洋(おおみや・とうよう)
フリーライター
1976年埼玉県所沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。著書に『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せの見つけ方~』(講談社+α新書)などがある。2012年より愛知県蒲郡市に在住。趣味は魚さばきとご近所付き合い。

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