「台風？電車は動いてるから出勤」とLINEを返す店長。必死に出勤した私が見た最悪の光景【短編小説】

※本記事はフィクションです。創作コンテンツとしてお楽しみください。また物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

台風でも出社させる店長 

「台風？電車は動いてるから出勤で」

スマホの画面に踊る店長からのLINEに、私は目を疑いました。
窓の外は、看板が飛びそうなほどの暴風雨。
テレビでは避難勧告のテロップが流れています。

「ニュースでも外出は危険だと言っています。お店も暇でしょうし、今日は休みにしませんか？」
私は必死に食い下がりました。
しかし、店長からの返信は非情なものでした。
「甘えないで。俺はもう家を出たよ。他のスタッフも来るって言ってるから、君だけ特別扱いはできないよ。遅れず来てね」
「俺も行く」と言われてしまえば、平社員の私が断れるはずもありません。
私は覚悟を決め、家を飛び出しました。

一歩外に出た瞬間、強風で傘は「バキッ」と音を立てて無残に折れ曲がりました。
横殴りの雨が全身を打ちつけ、駅に着く頃にはプールに落ちたかのようにずぶ濡れです。
電車は遅延と混雑で地獄絵図。
湿った服の不快感と、殺気立つ乗客の圧力に耐えながら、通常1時間の道のりを3時間かけて、なんとか店に辿り着きました。

店に到着すると…

「遅れてすみません……！」 息を切らしてバックヤードの扉を開けると、そこには私と同じようにずぶ濡れになり、タオルにくるまって震えている同僚の姿がありました。
「あれ？店長は？」 私が聞くと、同僚は青ざめた顔で首を横に振りました。
「まだ来てないんです。鍵も開いてないから、ずっと外で待ってて……」

嫌な予感がして、私が店長の携帯に電話をかけると、数回目で繋がりました。
受話器の向こうからは、なぜかお煎餅をかじる音と、のんきなバラエティ番組の音が聞こえてきます。 「あ、もしもし？お疲れー。着いた？」
「着きましたけど……店長はどこですか？私たち、店の前で待ってるんですけど」 すると、店長は悪びれもせず衝撃の一言を放ちました。

「いやー、駅まで行こうとしたんだけどさ、風強すぎて無理だったわ。危ないから俺は今日休むことにした。鍵の場所教えるから、君たちでお店開けといて」

私の中で、何かが「プツン」と切れました。
スピーカーから漏れた声を聞いていた同僚も、絶望と怒りが混ざった表情をしています。
私は深呼吸をして、冷静に、しかしドスの効いた声で告げました。

「分かりました。では、鍵は開けません。私たちも今から帰ります。そしてこの電話をもって、二人とも辞めさせていただきます」
「は？えっ、ちょっ、待っ……」 慌てる店長の声を遮るように通話終了ボタンを押し、私は同僚と顔を見合わせてニッコリと笑いました。
「帰ろうか」「はい、美味しいものでも食べて帰りましょう」 外はまだ嵐でしたが、私の心は不思議と晴れやかでした。

 

 

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