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出会い系サイトの話(後編)/絶望ライン工 独身獄中記 第58回

  • 2025.11.26

『絶望ライン工 独身獄中記』を読む

マッチングアプリは退屈である。

写真を見ていいねを送り合い、気が合えば連絡を取ってデートをする。

事務的で機械的で、創作されたフィクションのドラマ、虚構の恋愛であると感じる。

それは私の過去の体験のせいだ。

出会い系サイトで出会った、見知らぬオッサンたち。

当時サクラバイトとして熱心に業務にあたっていた自分は、艶めかしいプロフィール画像で女性に成りすましていた。

ヒリヒリする緊張感、吐き気を催す程純真で邪悪な欲望。

気持ち悪いオッサンどもから剥き出しの感情をぶつけられ、それに全力で応えるのが私の仕事である。

業務内容については前編に詳しいので、そちらも併せてお読みください。

出会い系サイトに群がる中年の弱者男性たちと数カ月やり取りを続け、当初は同情的であった私の心持ちは180度反転した。

こいつらは救いようのないクズだ。

身勝手で気持ち悪く、孤独で貧乏で攻撃的な加害性の塊である。

それも、自分より弱い者に対してだけ加害性を持つのだから性根から腐りきっている。

同情の余地はなく、地獄へ堕ちるは宇宙の采配である。

タイトル:エリです☆彡 @username さん、明日の夜暇ですか?

本文:私は仕事です♪

@usernameと打つと送信相手のニックネームが出る仕組みだ。

エリに騙されている50人のオッサンどもの名前が本人にのみ表示される。

本文を読むにはポイントを消費する必要があるので、気になって本文が読みたくなるような釣りタイトルで課金させるのが大事である。

クズどもには制裁を。彼らは法で裁けないのだから、こうして罰を与えてやる必要がある。

これは世の中のためだ、世の中のために貴様らはこの俺に騙されるのだ。

さぁ今すぐコンビニへ走れ。振り込みをして来い。金がないなら借りて来い。

借金してでもポイント買って返信メールを打って来い——

日に日に私の送信内容は容赦のないものとなり、一部のオッサンはパンクしてポイントが買えなくなった。

その結果多くの退会者を出すことになったが、売り上げは面白い程に上がる。

脱落者が出たら補充すればいい。世に弱者男性は掃いて捨てる程溢れているのだ。

業者から買ったカモリストのメールアドレスをコピペし、一斉にメールを飛ばす。

どれくらいかかるかな?また搾り取ってやる。

もはや罪悪感は消え去り、私はこの仕事を心の底から楽しんでいる。

そうして仕事に慣れてきた頃、私が操作する「エリ」はこんな返信を受け取った。

タイトル:Re:エリです☆彡1000万円受け取って欲しいです♪

本文:

こんにちは わたしは しょうがいしゃなので あまり へんしん できません

えりさんきれいなので ともだちになりたいです あえるひとですか

パソコンを操作する手が止まった。

手足の先が冷たくなっていくのを感じる。身体も心も凍えてしまって動けない、もう何もできないし考えられない。

昼飯を買ってきます、と言い部屋を出て、そのまま戻ることはなかった。

それでこの仕事は終わりだった。

それから色々とあって、ちょうど20年が経つ。

渋谷にあった例のオフィスビルは取り壊されて今はもうない。

あの時の出来事を今もたまに思い出す、どうするのが正解だったのだろう。

女性のフリをして夢を見続けさせてあげることが救いなのか

真実を伝えて出会い系サイトを辞めさせることが救いなのか

皆さんはどう思いますか。

本稿は上記1行で終わりであり、書籍化にあたりこのまま校正に出している。

実に後味が悪く、読んだことを後悔する方もいらっしゃるかと思うが、実際の出来事とその時に感じた心の移ろいをそのまま残すのが自身への戒めになると考え、敢えてこの内容になった。

読者へ告解することで罪が軽くなるとは思わぬが、この話には事実と少し異なる部分があります。

席を立って出ていく前に、私は彼に返信をした。

おぼろげだが、それは確かこんな内容だった──送信ログは運営元に監視されているので、メールを打ち終えた私は席を立つしかない。

重大な守秘義務違反を犯したのだから。

返信ありがとう。ごめんなさい、貴方には会えないです。

このサイトは嘘つきばかりだから、お金を大事にしてね。エリ

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