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名作の宝庫!?『TOKYOタクシー』から『タクシードライバー』、「TAXi」、『ナイト・オン・ザ・プラネット』まで多彩なタクシー映画たち

  • 2025.11.24

山田洋次監督の最新作『TOKYOタクシー』(公開中)。倍賞千恵子と木村拓哉が共演し、タクシー運転手と一人の乗客との出会いによって巻き起こるささやかな奇跡が描かれる。知らない者同士が狭い空間で居合わせるタクシーは、創作物においていくつものドラマチックな名場面を生んできた舞台装置の一つ。そこで感動作からアクション、コメディ、サスペンス、歴史的事件を扱った実話まで多種多様なタクシー映画を紹介したい。

【写真を見る】タクシードライバーと殺し屋のせめぎ合いを描くトム・クルーズ主演のサスペンス『コラテラル』

鬱々とした日々を送るタクシー運転手と終活に向かうマダムの交流を描く『TOKYOタクシー』

家族のため、日々の仕事に打ち込むタクシー運転手の宇佐美浩二(木村)。しかし、車検や家賃、娘の受験費用など厳しい現実に頭を悩ませていた。そんなある日、浩二は85歳の高野すみれ(倍賞)を東京の柴又にある自宅から神奈川県の葉山の高齢者施設まで送り届ける仕事を請け負う。これが見納めと東京を惜しむすみれの希望で、高速道路は使わずに思い出の地を巡りながらタクシーが進むなか、彼女は自身の壮絶な過去を語り始める。

悩み事が尽きず、毎日休みなく働いているタクシー運転手の宇佐美浩二(『TOKYOタクシー』) [c]2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
悩み事が尽きず、毎日休みなく働いているタクシー運転手の宇佐美浩二(『TOKYOタクシー』) [c]2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会

移動する車中で、年齢も暮らしもまったく異なる2人がいつしか絆で結ばれていく山田監督の最新作は、ワケあり老婆としがない中年男のロードムービーだ。言葉のキャッチボールをしながら2人の距離がぐんぐん近づいていく様に、観ている側もどんどん引き込まれていく。名所巡りのルートもランドマークが網羅され、東京を知っていればより楽しめるのもポイント。原作はフランス映画『パリタクシー』(22)なのだが、単にローカライズしただけでなく、2人以外の登場人物をしっかり立たせ、ウィットに富んだ語り口、「男はつらいよ」シリーズの倍賞と『武士の一分』(06)の木村、「家族はつらいよ」シリーズの蒼井優をはじめとするおなじみの配役など、しっかり“山田映画”になっている。

2人でディナーを取るなどいつしかかけがえのない絆で結ばれていく(『TOKYOタクシー』) [c]2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
2人でディナーを取るなどいつしかかけがえのない絆で結ばれていく(『TOKYOタクシー』) [c]2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会

孤独な青年の姿を通して社会の闇を描いていく『タクシードライバー』

タクシー映画と聞いて、最初に『タクシードライバー』(76)を思い浮かべる人は多いはず。監督マーティン・スコセッシ、脚本ポール・シュレイダー、主演ロバート・デ・ニーロによる本作は、70年代を代表するアメリカ映画の1本だ。不眠症に悩む元海兵隊の青年トラヴィス(デ・ニーロ)は、タクシー運転手として走り回るうちに猥雑なNYの街に嫌悪感を抱いていた。彼は大統領候補の選挙事務所で働くベッツィ(シビル・シェパード)にふられたのを機に、“街の掃除”に傾倒。銃を手に、彼女が支援する候補者の狙撃を計画したり、13歳の娼婦アイリス(ジョディ・フォスター)を救出しようとする。

猥雑なNYの街に嫌悪感を抱くタクシー運転手のトラヴィス(『タクシードライバー』) [c]Everett Collection/AFLO
猥雑なNYの街に嫌悪感を抱くタクシー運転手のトラヴィス(『タクシードライバー』) [c]Everett Collection/AFLO

孤独な青年トラヴィスの姿を通し、ベトナム帰還兵のPTSDや治安の悪化、少女売春、作られた英雄像など社会の闇が描かれ、『ファイト・クラブ』(99)や『ジョーカー』(19)など多くの犯罪映画に影響を与えた衝撃作。タクシーから夜のNYを捉えた妖しげな映像も多くの映画に受け継がれている。33歳のスコセッシは本作でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールほか、批評家賞を中心に数多くの賞を受賞。デ・ニーロやシュレイダーの名を世界に知らしめた。

トラヴィスの姿を通して社会が抱える闇を映しだしていく(『タクシードライバー』) [c]Everett Collection/AFLO
トラヴィスの姿を通して社会が抱える闇を映しだしていく(『タクシードライバー』) [c]Everett Collection/AFLO

スピード狂のタクシードライバーとドジな刑事のバディが様々な事件解決に挑む「TAXi」シリーズ

タクシーを使ったアクション映画の代表作が、リュック・ベッソンの製作&脚本で1997年に第1作が公開された「TAXi」シリーズ。フランス南部の都市マルセイユを舞台に、スピード狂のタクシードライバーが大活躍する痛快作だ。飛ばし屋ドライバーのダニエル(サミー・ナセリ)は、スピード違反を見逃してもらう代わりにドジな刑事エミリアン(フレデリック・ディーファンタル)の捜査に協力。過激なドライビングテクニックを駆使して連続銀行強盗犯を追い詰めていく。

飛ばし屋ドライバーのダニエルとドジな刑事エミリアンがタッグを組む(『TAXi 2』) [c]Everett Collection/AFLO
飛ばし屋ドライバーのダニエルとドジな刑事エミリアンがタッグを組む(『TAXi 2』) [c]Everett Collection/AFLO

本作の魅力はなんといってもカーアクション。ボタン操作で高速仕様に変形するプジョー 406の改造タクシーを駆るダニエルが、ドイツ人強盗団のメルセデス・ベンツ 500Eと市街地でデッドヒートを展開する。路地裏の爆走や逆走、信号無視が当たり前なスリル満点の走りのほか、相手を挑発するダニエルのマシンガントークも楽しめる。映画は大ヒットし、ダニエルが日本でヤクザに立ち向かう『TAXi2』(00)、雪山チェイスを繰り広げる『TAXi3』(03)、過去作のキャラが集結した『TAXi4』(04)も公開。ダニエルの甥っ子が登場するスピンオフ『TAXi ダイヤモンド・ミッション』(18)や、NYで女性運転手が大活躍するリメイク『TAXI NY』(04)と計6作が製作された。

ド派手なカーアクションが見どころ!(『TAXi 2』) [c]Everett Collection/AFLO
ド派手なカーアクションが見どころ!(『TAXi 2』) [c]Everett Collection/AFLO

冷徹な殺し屋と忙しない日々にただ流されるだけだったタクシー運転手との戦いを描く『コラテラル』

『コラテラル』(04)はタクシードライバーと殺し屋のせめぎ合いを描く、トム・クルーズ主演のサスペンス。独立して起業する日を夢見ながら真面目に働くロサンゼルスのタクシー運転手のマックス(ジェイミー・フォックス)は、ある晩、ヴィンセント(トム・クルーズ)と名乗る客から、朝までに5か所を回る貸し切りの仕事を高額で請け負うことにする。ところがヴィンセントは冷徹な殺し屋で、マックスもその片棒を担がされてしまう。

冷徹な殺し屋ヴィンセント(『コラテラル』) TM & [c] 2004 DREAMWORKS LLC AND PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. TM, [R] & Copyright [c] 2012 by Paramount Pictures. All rights Reserved.
冷徹な殺し屋ヴィンセント(『コラテラル』) TM & [c] 2004 DREAMWORKS LLC AND PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. TM, [R] & Copyright [c] 2012 by Paramount Pictures. All rights Reserved.

客さばきがうまく機転の利くマックスは、その資質を見込まれて死体運びを手伝わされ、ヴィンセントになりすまして依頼者から標的のデータを受け取るように命令されるなど、いつしかヴィンセントと運命共同体になっていく。常に何手も先を読むヴィンセントと接するうちに、自分は日々流されていただけだと気づき覚醒するマックス。初老の殺し屋を演じたクルーズと、本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたマックス役ジェイミー・フォックスによる、敵対しながらも師弟のようでもあるかけ合いには手に汗握るものがあり、見応えも十分。監督はアクション、サスペンスの名手で映像派としても知られるマイケル・マン。おもな舞台はタクシーの中だが、多彩なカメラワークや幻想的なロサンゼルスの景観などビジュアルの美しさにも酔いしれる。

ヴィンセントを乗せてしまったマックスは彼の仕事を手伝わされることに(『コラテラル』) TM & [c] 2004 DREAMWORKS LLC AND PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. TM, [R] & Copyright [c] 2012 by Paramount Pictures. All rights Reserved.
ヴィンセントを乗せてしまったマックスは彼の仕事を手伝わされることに(『コラテラル』) TM & [c] 2004 DREAMWORKS LLC AND PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. TM, [R] & Copyright [c] 2012 by Paramount Pictures. All rights Reserved.

在日コリアン二世のタクシーの運転手が自身のアイデンティティに思いを馳せる『月はどっちに出ている』

東京でタクシーの運転手をする在日コリアン二世の日々を描いた、梁石日の長編小説「タクシー狂躁曲」を映画化した『月はどっちに出ている』(93)。ボクサー崩れやヤンキー上がり、出稼ぎイラン人など雑多な同僚に囲まれたタクシー運転手の神田忠男こと姜忠男(岸谷五朗)は、フィリピンパブで働くコニー(ルビー・モレノ)と出会い恋に落ちる。彼女と暮らす日々のなか、忠男は自身のアイデンティティに思いを馳せる。

資金難にあえぐ会社との軋轢や客とのけんか、無銭乗車した男との追走劇、人種差別…。“人種のるつぼ”東京の片隅で生きる人々をコメディタッチで映しだしていく。「月はどっちに出ている」というタイトルは道に迷ったドライバーに帰り道を教える時の常套句で、人生に迷った人々を象徴するフレーズでもある。監督はのちに梁石日の「血と骨」も映画化した崔洋一で、本作でブルーリボン賞や毎日映画コンクールほか多くの賞で作品賞や監督賞を獲得した。

東京でタクシー運転手をする在日コリアン二世の日々を描いた『月はどっちに出ている』 DVD 発売中 価格:4180円 発売元:オデッサ・エンタテインメント [c]『月はどっちに出ている』製作委員会
東京でタクシー運転手をする在日コリアン二世の日々を描いた『月はどっちに出ている』 DVD 発売中 価格:4180円 発売元:オデッサ・エンタテインメント [c]『月はどっちに出ている』製作委員会

光州事件にタクシー運転手とその乗客となったドイツ人記者の姿を通して迫る『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』

ソン・ガンホがそそっかしくて気が短いタクシー運転手を演じた韓国映画で、実話に基づく社会派『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(17)。1980年、軍事独裁政権を敷く朴正煕大統領の暗殺を受け、韓国では「ソウルの春」と呼ばれた民主化の機運が高まっていた。しかし、光州では軍が武力で民主化運動を抑圧し、通信や交通も厳しく規制されてしまう。ドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)は、光州を取材するため身分を偽り入国。行先の実情を知らないソウルの貧しいタクシー運転手マンソプ(ガンホ)は高い報酬に目がくらみ、強引に運転手を買って出るのだが…。

光州事件をタクシー運転手と乗客のドイツ人記者との交流を通して描く『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』 [c]Everett Collection/AFLO
光州事件をタクシー運転手と乗客のドイツ人記者との交流を通して描く『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』 [c]Everett Collection/AFLO

前半は言葉が通じない2人のかみ合わないやり取りや、検問をかいくぐるドタバタ道中が展開するが、光州入り後はテイストが一変。並み居るデモ隊に軍が容赦なく攻撃を加える様がドキュメンタリータッチで描かれる。軍情報部がピーターに目を付けて以降は、死と隣合わせのスリリングな展開に。ケガ人を病院に移送するなどデモ隊の足となるタクシー運転手たちの活動を含め、実話ならではの重さを持つ作品だ。

大金につられ、身分を偽って入国したドイツ人記者ピーターを乗せたタクシー運転手のマンソプ(『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』) [c]Everett Collection/AFLO
大金につられ、身分を偽って入国したドイツ人記者ピーターを乗せたタクシー運転手のマンソプ(『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』) [c]Everett Collection/AFLO

地球上の5つの都市で、同じ時間にタクシーの中で起きる「ちょっといい話」を描く『ナイト・オン・ザ・プラネット』

『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)はロードムービーの名手ジム・ジャームッシュがタクシーをテーマに撮った5本の短編からなるオムニバス。ロサンゼルスの午後7時7分、NYの午後10時7分、パリの午前4時7分、ローマの午前4時7分、そしてヘルシンキの午前5時7分。地球上の5つの都市で、同じ時間にタクシーの中で起きる「ちょっといい話」が描かれる。どれも運転手と客として出会った他人同士が、移動中に心を通わせていく立派なロードムービー。最初はぎこちなかった2人がしだいに相手に興味を抱き、別れ際には互いに大切な存在になっていく様が心地よい感動を呼ぶ。

ジム・ジャームッシュがタクシーをテーマに撮った5本の短編からなるオムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』 [c]Everett Collection/AFLO
ジム・ジャームッシュがタクシーをテーマに撮った5本の短編からなるオムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』 [c]Everett Collection/AFLO

『TOKYOタクシー』の原作となったフランスのヒューマンドラマ『パリタクシー』

『パリタクシー』は『TOKYOタクシー』の原作であるフランスのヒューマンドラマ。シャルル(ダニー・ブーン)は借金を抱えたうえ、免停寸前という切羽詰まったパリのタクシー運転手。ある日、92歳のマドレーヌ(リーヌ・ルノー)を介護施設に送り届ける依頼を受けたシャルルは、パリの各所を巡るなかでしだいに彼女と心を通い合わせていく。

『TOKYOタクシー』の原作となったフランスのヒューマンドラマ『パリタクシー』 [c]Everett Collection/AFLO
『TOKYOタクシー』の原作となったフランスのヒューマンドラマ『パリタクシー』 [c]Everett Collection/AFLO

施設に入るマドレーヌにとってこれが最後のパリ。思い出の地を巡りながら、彼女は暴力的な夫との暮らしや復讐劇など壮絶な人生をシャルルに語る。マドレーヌにとってシャルルは自分を肯定してくれた数少ない男性となり、家庭に問題を抱えたシャルルにとっても彼女の語る過去が大きな気付きになり、やがて奇跡のような結末が訪れる。基本的な構成は『TOKYOタクシー』に引き継がれているが、シャルルがシリアスな問題を抱えたオリジナル版は山田版よりハードな印象。『戦場のアリア』(05)や『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』(09)など実話系作品で注目されたクリスチャン・カリオン監督らしい、シリアスな感動作になっている。ぜひ、両者を観比べてみてほしい。

交流を重ねるうちにお互いがかけがえのない存在になっていく(『パリタクシー』) [c]Everett Collection/AFLO
交流を重ねるうちにお互いがかけがえのない存在になっていく(『パリタクシー』) [c]Everett Collection/AFLO

ほかにもタクシーを題材にした映画には、飼い猫を助手席に乗せたのを機に再生していく中年男を描いた『ねこタクシー』(10)、イランのジャファル・パナヒ監督自身がタクシー運転手となって乗客と会話しながらこの国が抱える問題を浮き彫りにするモキュメンタリー『人生タクシー』(15)、運転手と乗客の会話を通した人生賛歌『ドライブ・イン・マンハッタン』(23)など多彩な作品がそろっている。この機会にお気に入りの1本を見つけてほしい。

文/神武団四郎

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