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時代遅れの「男らしさ」はもういらない。 40代テレビマンがロールモデルと推す小説家・燃え殻が体現する“しなやかな大人の余裕”とは?

  • 2025.11.23

「男としてのかっこよさ」というものは、この数十年で様変わりしたように感じる。渋さとか、ハードボイルドなんて言葉は今や死語に近くなっていて、今は「男らしさ」という言葉を口にするだけでも、ネットで論争になりかねない時代だ。

しかし、そんな現代に「しなやかな男らしさを体現している人がいる」……そう教えてくれたのは、現場一筋・テレビ業界に20年以上身を置いている40代の男性。

「イケメンの本棚」をのぞき見していく本連載で今回紹介したいのは、本を勧めてくれた彼と同じく、テレビ業界出身の小説家・エッセイスト、燃え殻さんの新刊『これはいつかのあなたとわたし』(燃え殻著・新潮社)だ。

燃え殻これはいつかのあなたとわたし』の読みどころ

  • 活字慣れしていない人にも親しみやすい短編エッセイ
  • 昭和〜平成的な男らしさから解放される「抜け感」のある文体
  • 何かを批評しないでことの大切さが学べる

「なんでもない日々」を受け入れる度量が自分にあるか

43歳で作家デビューした燃え殻さん。今やいくつものメディアでエッセイやコラムの連載を持つ人気作家だ。

「彼の本を初めて読んだとき、テレビ業界という、男臭さを煮詰めた業界に長く身を置いていて、こんなに柔らかく、精神的余裕を感じさせる文章を書ける人がいるのかというカルチャーショックを受けました」……そう話してくれたのは『これはいつかのあなたとわたし』をおすすめしてくれた40代テレビマンの男性だ。

これはいつかのあなたとわたし』は、週刊新潮に掲載されていたエッセイをまとめたもので、一編がとても短く、読みやすい。単行本にして、1遍のエッセイがだいたい4ページ。普通の本のように一気に読まずとも、気が向いたときにちょっとずつ読み進められる気軽さがいい。

「内容は、一言で言うと燃え殻さんの“なんでもない日々についてのアレコレ”といったところです。幼少期から大人になった今までの、くだらない1日の話や、ちょっとした知り合いとのよもやま話。オチなんて特にない話も多いんですが、そこがいい。燃え殻さんのエッセイには、彼の人間性や人生感が色濃く反映していると思うんですが、試しに彼女や、女友達にもおすすめしてみたところ、女性にもウケがいいようです」

テレビマンの言う通り、燃え殻さんのエッセイの文体は、どこか「やれやれ感」というか、諦観のようなものを感じる。日々の出来事を「あるがままに」捉えているように思える文章は、ネットの発展もあって、人の目が気になりすぎる時代を生きる現代人の肩の荷を、そっと下ろしてくれる。

「他の本もそうなんですが『これはいつかのあなたとわたし』の中にも、男っぽい視点の話もあるんですよ。学生時代のバカな男友達の話や、男ならではの不器用な恋愛の話。だけど、燃え殻さんの文章にはいい意味で、男の矜持みたいなものがあまり感じられないんですよ。

誰でも一定、あるじゃないですか。男としてこう見られたいとか、男なんだからこうしようとか。燃え殻さんも、エピソードの中では“仕方なく”そう振る舞っているように見える瞬間もあるんです。だけど、頑張りすぎていない。本の中で最も印象的だったエッセイに“勝つことにも負けることにも慣れてきた”という一文がありました。男って、何歳になってもうまく諦めるのが苦手な生き物だと思うんで、この一文を見たときに、彼が僕のロールモデルになったんですよね」

本音を口にしないのも「大人の余裕」

「まさに令和的な大人の余裕を学べる本」、とテレビマン。たしかに、くだらない日々をあるがままに語る燃え殻さんの文体には、何かを批評してやろうという力みも感じられない。「あの日行ったラブホの、毛玉だらけの赤い絨毯」とか、他人からすればなんでもないような情景が、上げるでも下げるでもなく書かれている。

「その、上げるでも下げるでもないというのが、普通に生きていると案外難しい。みんな、誰かに話したくなるような出来事には“オチ”をつけたくなるじゃないですか。オチを際立たせるために、誰かを必要以上に下げたり、批判したりしてしまうもの。『これはいつかのあなたとわたし』を読んでいると、自分もフラットな視点に戻れる気がするんです。

話しているときは楽しいんだけど、誰かや何かの肩を持ったり、妙に敵対したりするのって、結果的には疲れることだと思うんですよね。分かっているのに、ネットを見てたり、酒飲んでたりするとくだを巻いて批評したくなっちゃうんですよ。そう考えると、燃え殻さんの文体は超低燃費。この本を読んでつまらなかったと思う人がいたとしても、誰も燃え殻さんを嫌いになったりはしないと思うんですよね」

「嫌われる勇気を持とう」なんて本が平成の後期に流行したが、本書から垣間見える燃え殻さんの生き方はもっとナチュラルで「言わぬが仏」を本気で体現しているような感じだ。

「本人視点のエッセイだから、思ったことを思ったままには伝えていないのが、文章を通して分かる。それが燃え殻さんの処世術なのかなって感じます。僕なんてバカだから、よく思ったことをそのまま言って、彼女とも友達とも、大ゲンカになるんです。僕のこの性分は治らないかもしれないけど、燃え殻さんのエッセイから学べる謙虚さを参考にしたいとは思うんです。

エッセイのエピソードを読んでみると、燃え殻さんはきちんと、仕事の中で男のコミュニケーションをこなしていると思うんですよ。周囲にバカな人がいれば、朝まで飲み会に付き合ったりもするし、頼まれごともちゃんと請け負う。だけど本音は言わないし、スマート風を装っているのに、本の中ではクローズドに、愚痴っているんですよ。ある意味しなやかだし、したたかでもありますよね。そこがいいなって思うんです」

忙しい現代人によく効く“活字サプリ”

燃え殻さんのことも『これはいつかのあなたとわたし』も、大絶賛のテレビマン。しかし、何よりメリットを感じているのは、もっと即物的な部分らしい。

「仕事的に日夜問わず働いているんで、昔は本が好きだったのに全然読めなくなっていた。だけどこの本、とにかく読みやすいんですよ。1遍5分くらいで読み終わるんで、仕事の空き時間なんかに読んだりしてたんですが、後輩の女の子から声をかけられるんですよ。『燃え殻さんの本好きなんですか?』って。スマホばかりいじっているより、本読んでるほうが、女の子にモテますね」

本好きの男性が全女子にモテるかは定かではないが、燃え殻さんの本が女性にもかなり親しまれているのは確かだ。活字に触れ始めると、語彙力が増えたり、ちょっと頭がよく見える……というメリットもある。普段はあまり書籍を手に取らないという人も、実物を買って電車内やオフィスで気取ってみてはどうだろうか。

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