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柴咲コウ、“律する”という意識が強くあった時代を経て「ここらへんでまた爆発したい」

  • 2025.11.23
柴咲コウ クランクイン! 写真:小川遼 width=
柴咲コウ クランクイン! 写真:小川遼

マイペースな兄に振り回され続ける妹・理子。映画『兄を持ち運べるサイズに』で、家族という厄介で愛おしい関係性の中に生きる女性を繊細に演じた柴咲コウ。社会的な役割を意識し、自らを律してきた時代を経て、柴咲は今、パブリックイメージという名の鎧を脱ぎ捨てようとしている。保守的な自分を壊し、「また爆発したい」。その言葉は、スクリーンで魅せた理子の人間味とも響き合いながら、彼女の新たな幕開けを静かに、しかし力強く宣言している。

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■監督の「こだわり」が引き出した、誰も見たことのない表情

映画『兄を持ち運べるサイズに』で柴咲が演じるのは、自分勝手な兄(オダギリジョー)に振り回されてきた主人公・理子。家族という普遍的なテーマだからこそ、その捉え方は千差万別であることに、柴咲は改めて気づかされたという。

「私の中では『家族というのはこういう感じ』というものがあったのですが、それが他の人に通用するかと言えば、実は全然違うのかもしれない。“かぞく”と三文字で言いますけれど、本当にたくさんの形があるのだなと気づかされる作品でした。ですから、私なりの解釈と理子がうまく溶け合って、今回の役を演じられればいいかなと思いました」。

理子の「隠し事はしたくない」という明け透けな部分は、自身と重なるところでもあった。だが、その正義感が、かえって見えなくさせていたものもあった。

「近いからこそ言い過ぎてしまう部分はあるけれど、言わないよりはいい、という部分があります。反面、言葉にできない感情とか、出せない自分の弱さというものがあるじゃないですか。家族だからこそ自分の弱い部分は見せたくない、という人もいる。理子も私もそれで少し成長させられたのかな、と思いを馳せました」。

そんな理子の複雑な人間味をスクリーンに焼き付けたのが、中野量太監督だ。そのこだわり抜く演出スタイルは、柴咲にとって心地よいセッションの時間となった。

「中野監督のこだわり方が私は好きでした。『僕の思う、いま撮りたい理子はこういう感じ』と、諦めないで丁寧に説明してくださるんです。本当に、ばか正直みたいなところがあって(笑)。カットの声がすごく生き生きしていたら、『ああ、いいのが撮れたんだ、うれしい』となりますし。本当に少年のような方でしたね」。

中野監督は「今まで見たことのない柴咲さんを見せたい」と力説したという。その言葉に応えるように、柴咲はただ身を委ねた。完成した作品を観た時、技術的な後悔がよぎることの多い普段とは違い、驚くほど客観的に物語に没入できた。それは監督の確かな手腕の証でもあった。

■いにしえの縁を感じる満島ひかりと、憎らしいほど見事な兄を演じたオダギリジョー


マイペースで自分勝手、しかしどこか憎めない兄を演じたオダギリジョー。その存在が、理子の内に渦巻くコンプレックスを鮮やかに浮かび上がらせた。

「うまいこと憎たらしいんですよね(笑)。親が死んだ時にゲームをピョコピョコやって、ケロッとタバコを吸ってみたいな。腹立ったわーって。演技の枠を超えていたかなって思うんですけど。そういうのを自然に表現されるオダギリさんはすごいなと。妹としての立場の弱さとか、どこか兄ちゃんはキラキラしているところもあって勝てないってずっと思っている。そしてまたお金を貸してしまうという(笑)」。

そしてもう一人、柴咲が絶大な信頼を寄せるのが、兄の元妻・加奈子を演じた満島ひかりだ。普段は人に頼ることがなく、むしろ頼られることの方が多いという柴咲が、唯一「寄りかかってしまう」特別な存在。

「満島さんの存在にめちゃくちゃ助けられて、なんならかなり寄りかかっていました。年下なのに(笑)。めちゃくちゃ心強くて。スーパー自立しているし、自分の意見をしっかり持っている方なので居心地がいい。私は普段人に甘えられないのですが、彼女には甘えられる。本当に珍しいです」。

その関係性は、単なる共演者という言葉では言い表せない、もっと深い部分で繋がっている感覚がある。

「なんというか、いにしえからの縁を感じるんですよね。何千年前ぐらいの、前世ぐらいからの。でも、そういう人ほどベタベタしないんですよ。頻繁に連絡取ったりはしないタイプ。成熟した魂って感じです、彼女は」。

■パブリックイメージを壊して、もう一度「爆発」する


『バトル・ロワイアル』の鮮烈な登場から時を重ね、俳優として、アーティストとして、常に一線を走り続けてきた。そんな柴咲に自身の「現在地」を問うと、意外なほど軽やかな答えが返ってきた。

「俳優業に特別執着しているわけではないのですが、やはり物作りが好きなので、やめる気は特にないです。その年齢でできることを楽しんでやれたらいいかなって。ただ、巡り巡って二巡ぐらいして、その『バトル・ロワイアル』をやっていた時ぐらいの、もっとツンツンしたものを外側に出していきたいっていうのはあるかもしれない」。

大河ドラマ『おんな城主 直虎』をはじめ、数々のドラマや映画で主演を務めるなど、自然と社会的な責任を意識した行動をするようになっていったという柴咲。しかし今は、新たな表現への渇望が芽生え始めているという。

「前は、律するっていうのが強くあったかなと思うんですけど。なんかもう、ここらへんでまた爆発したいみたいな(笑)。役的にも、刺激的なものもやりたいなあって思うんです」。

そこには、これまで自身を縛っていたかもしれない、ある種の「守り」からの脱却があった。

「これまでどこか保守的なところが私もあって。求められてなんぼなところがあるから、それはそのまま維持するムードだったんですけど。いまは『ちょっと待てよ』ってモードなのかもしれない。ライフスタイルの話をしていても『自分に対して誠実でいてほしい』とメッセージを発するけれど、自分にもそれは跳ね返ってきて。人に合わせちゃったり、世の中に合わせちゃったりすることが私ですらあるから。率先してそこを壊していきたいなあとは思います」。

都合や計算ではなく、心が「楽しそう」と赴くままに。その純粋な衝動こそが、これからの柴咲コウを突き動かす原動力となっていく。「また爆発したい」と語った柴咲のキラキラした目は、今後の大活躍を予感させるような輝きだった。(取材・文:磯部正和 写真:小川遼)

映画『兄を持ち運べるサイズに』は、11月28日全国公開。

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