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75歳を機に、熊本に移住した【姜尚中さんの終活】「妻が毎朝作ってくれます」健康維持の秘密とは?

  • 2025.11.21

75歳を機に、熊本に移住した【姜尚中さんの終活】「妻が毎朝作ってくれます」健康維持の秘密とは?

今年75歳を迎えた、政治学者・姜尚中さん。著書『最後の講義 完全版 政治学者 姜尚中』で、「乱気流の時代」と語る姜さんは、日々の健康をどう守り、どんな思いでこれからを生きようとしているのでしょう。東京を離れ、夫婦で熊本へ移住した今、その暮らしぶりは? ゆうゆうtimeの読者目線で身近な疑問に答えていただいたインタビュー第3回をお届けします。

女性に負担がかかりがちの介護問題。韓国や中国と比べて日本は進んでいる?

——介護の問題について伺います。日本では60代くらいまでは、親の老後は子どもが見るものと考えている方も多いです。一人で抱え込む人、仕事をあきらめなければいけない人は少なくありません。韓国や中国も比較的、そういった意識の方が多いと聞いています。

姜尚中さん(以下、姜尚中) 介護についてはいろいろ問題がありますが、韓国や中国と比べると、日本は進んでいますよ。老人の貧困化というのはものすごく大きなテーマ。1人当たりのGDPは日本を抜いたといわれる韓国も、介護保険制度や年金などの制度設計は少し遅れています。ただ、市民社会の取り組みはかなり進んでいます。

日本はいろいろな介護の問題が出てきていますが、介護をひとりで抱え込むことはよくないと思います。自宅で親をみている人には、訪問介護を充実させなきゃいけない。介護のエキスパートの話を聞く限り、個人でなんとかできるというのは間違い。専門家の意見を聞きながら、人の助けを借りる。他力が必要ということです。

しかし、それにしても、介護に従事する人たちの賃金水準があまりに低い。人材育成をやらなきゃいけないけど、まだ足らないんですよ。だから結局、介護の問題を家族や個人の問題に還元してしまう。国や自治体がしっかりセーフティーネットを作って人材を育成していかなくてはいけない。

では今具体的にどうするかということが差し迫るわけですが、介護のために女性が消耗して大変な目に遭うという例は、私もたくさん知っています。どんなに男女平等といっても。結局女性に負荷がかかる。

悩み相談でよくあるのですが、60歳の女性が自分のお父さんとお母さんの介護を一生懸命やってきたけれども、疲れ果てて、それで施設に入れたら、「親不孝」ってののしられてね。で、「私は悪いことしてるんでしょうか」——という典型的な悩みです。
1週間のうち1日でも2日でもいいから自分のところに引き取って、また施設に入ってもらうなど行ったり来たりして、その間は訪問介護に来てもらう——。たとえばそういったことを充実させて、できる限り負担を軽減していくしかないでしょうね。

終のすみかとして熊本に移住。「程よい加減で生きるのが一番」の意味とは?

——故郷でもある熊本に、2023年に移住されました。ご著書でも「自分は幸せな着地点を見つけ出したのではないかと思っています」とおっしゃっています。暮らし心地はいかがでしょうか。ゆうゆう世代で移住を考えている方へのアドバイスはありますか。

姜尚中 軽井沢に約10年ぐらいいて、それから箱根に2年半ぐらいいて、共通しているのは“ネオンがない世界”でした。年齢的な問題やいろんなことがあったので、自分にとって心地よいというか、熊本に移ることにしました。

今、私のいるところは、漱石の『三四郎』に出てくる竜田山(立田山)という、標高150メートルくらいの山で、そこの中腹に家があるんですよ。半分高原のような場所で、半分は夜、ネオンが見えるんです。

さっき70歳になって「自分自身はちょっと吹っ切れた感じ」という話をしましたけど、私たちが若い時は、やや左翼がかったリベラルとか、そういうのに憧れたし、そういう人になりたいと思ったりした。でもそれはまあ、ある意味では若気の至り。

『ショーシャンクの空に』という映画を観たことがありますか。モーガン・フリーマンが演じるレッドという受刑者が、仮釈放ができるかどうかで、何度やってもリジェクトされるでしょう。最後に認められた、その時の彼のセリフがですね。「あの時のあいつに会ってたら怒鳴りつけてやりたい」と。なんであんなことしでかしたのか、とね。でも「あの時のあいつ(自分)」は今はいないということを率直に言うシーンなんですよね。ちょっとそれに近い。あの時の自分に会えばね、怒鳴りつけてやるなな、と。もういないし。人間は変わるわけだ。

今は、程よい加減で生きるのが一番。ゆうゆう世代は、それが一番いいんじゃないかな。そうすると、何か「このミッションがなければいけない」とか、「こうでなければいけないのか」ということから少し切り離されて、生きる。

高原の中腹なので静かだし、でも昼間は市中のいろんな雑音が聞こえる。そして西の空を見ると、山が見える、そういう場所に住んでるんですよ。もっとも最初は別の場所に住む予定だったけど、しっくりといかないと思っていたときにサイトを見たらこの物件があってね。これにしよう!と。そんな感じで決めたんですよ(笑)。

姜尚中さんの終活とは? 体調を悪くして始めた「野菜スープ」と筋トレ

——終活の準備を奥様とされているということですが、具体的にはどんなことをなさっていますか。

姜尚中 終活なんて口では言ってるんですけど、何かをやるというわけでもないんですよ。伴侶のうちどちらかが先に逝くか、それはわからないよね。だから極力一緒の時間を作ろうということになった。いいパートナーであったかどうかはわかんないけど(笑)。なんとなしに共通している気持ちはとにかく一緒にいる時間をたくさん作る、ということ。

だから今は2人でよくジムに通ってる。1時間ちょっとぐらいかな。その前にジョギングで有酸素運動をして、今度は筋肉をつけなきゃいけない。そういうのはどちらかというと妻が詳しいんですよ。「金」と筋肉の「筋」は絶対裏切らない——確かにその通りですね(笑)。

どうしても足腰が弱っていくんですよ。そのためには下半身と体幹を強くしなくては。昔は野球をやっていたんですが、その後は運動からちょっと離れていたし、継続的な運動はやっていなかった。最近はずっと継続しています。今日もホテルでスクワットをしてきました。妻の話では、60歳か50歳ぐらいから筋肉が確実になくなっていって、そのことが老化につながる。だから筋力さえしっかりしていればね。

あとは私が体が悪くなった時があったので、熊本大学の前田浩先生が考案した野菜スープを飲んでいます。基本的に、すべて悪いのは「炎症」だそうです。癌も炎症のひとつ。野菜には、その炎症を防ぐ力があるんですね。煮沸すると栄養素が一部逃げるかもしれないけど、それでも吸収がよくなる。私はそういうことには無頓着だったけど、妻が詳しいので、前田さんのスープ療法を実行しています。

朝は温かいスープを飲む。野菜を煮て、それをミキサーにかけて。野菜はキャベツ、ニンジン、玉ねぎ、かぼちゃ、季節の野菜でブロッコリーとかね。そして味付けをして、朝必ずそれをお腹の中に入れます。

朝食のメニューですか? まず温かい野菜スープ。それから、純度の高いトマトジュース。タンパク質を取らなきゃいけないので、一番いいのは卵です。有精卵がいいそうです。それから私はパンが好きだったけど、できるだけグルテンフリーがいいということで、おじやとかご飯、和食にしたりね。そういうふうにいろいろ工夫をしながら、必ず朝はしっかり食べています。

それからオートファジーがないとね。オートファジーっていうのは、掃除の時間。お腹に何も入れない時間ですね。理想は16時間とかいうけど、それはできないから、前みたいに昼間も一生懸命食べなきゃいけないということはなくなりました。

あとは私は甘党だから、もっと砂糖入れてくれっていう話になるんですね。そうなると、時々妻と口喧嘩になる(笑)。

熊本行って良かったのは、最近のことなんですけど、1週間に2回魚屋さんが車で来てくれるんですよね、新鮮な魚、近海もの、青物が体にいいわけですよね。九州はだいたい青物が多いわけです。アジとかサバとかね。コノシロもそう。1週間に2回ぐらいは魚を食べていますね。食事は可能な限り多品種で少量で食べる。

——最後にゆうゆうtimeの読者、50代60代女性に伝えたいことがありましたら教えてください。

姜尚中 私がこの書籍で言いたかったことなんですが、女性は多分これまで、日本を含めアジアの中ではなかなかうだつが上がらなかった。そういう時代を生きた人が多いと思うんですよ。このインタビューの最初で自己肯定感が乏しいと言われたこともそうですね。

それが急速に変わっていって、この世代はその変化についていけなかった人もいる。あるいはその変化があるがゆえに、自分も何かできるんじゃないかと期待を持っている人もいる。そういう点では同じ悩みを持っている人が、日本だけでなく、近くのアジアの国にいる——。そういう人たちのことを知るというのがいい。視野狭窄の中で生きているところから解き放たれて、視野を広げてほしいと思います。

視野が狭いと、選択肢がここしかないと思ってしまう。視野が広がると、楽になるんですよ。そういう点では、自分と同じようなことに悩む人たちが、韓流ドラマやいろんなところにいるということを見たり聞いたりして、わかってきた。そういう時代が来てるし、今までとはまた違う世界が見えてくると、ものすごく、ある種の開放感があると思います。

何も学術的なことじゃなくても、ドラマとかエンタメとか、いろいろなことを通じて、これからもっともっとアジアのことを、お互いに共有し合える時代がくるといいですね。

姜尚中さん プロフィール

かん さんじゅん●1950年生まれ。政治学者。東京大学名誉教授、鎮西学院学院長、熊本県立劇場館長。著書に100万部を超えた『悩む力』、『続・悩む力』『心の力』『母の教え 10年後の悩む力』『朝鮮半島と日本の未来』『在日』『母—オモニ—』『心』『アジアを生きる』(すべて集英社)など。『アジア人物史』(集英社)では総監修を務める。近著に『生きる証し』(毎日新聞出版)。

撮影/佐山裕子

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