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“失敗の先にある成功”を語る。桜井博志会長『獺祭 経営は八転び八起き』出版会見レポート

  • 2025.11.20

山口県岩国市の小さな酒蔵から世界へ挑み続ける「獺祭」。その原点と歩みをまとめた新刊「『獺祭 経営は八転び八起き』~美味しい酒を造りたい、ただそれだけを追いかけてきた~」(桜井博志著/西日本出版社)の出版記念記者会見が開かれた。会場にはメディア関係者が集まり、株式会社 獺祭の会長 桜井博志さんがこれまでの歩みと、新刊に込めた思いを語った。

「『獺祭 経営は八転び八起き』~美味しい酒を造りたい、ただそれだけを追いかけてきた~」の著者、桜井博志会長
「『獺祭 経営は八転び八起き』~美味しい酒を造りたい、ただそれだけを追いかけてきた~」の著者、桜井博志会長

“八転び八起き”の名に込められた、失敗と再生の記録

新刊『獺祭 経営は八転び八起き』は、桜井会長が初の著書から10年の歩みを自らの言葉で振り返る1冊。潰れかけの酒蔵を継ぎ、「美味しい酒を造りたい」という信念だけを頼りに挑戦を重ねてきた軌跡がつづられている。

新刊の「『獺祭 経営は八転び八起き』~美味しい酒を造りたい、ただそれだけを追いかけてきた~」(左)と、前著『獺祭 天翔ける日の本の酒』(右)
新刊の「『獺祭 経営は八転び八起き』~美味しい酒を造りたい、ただそれだけを追いかけてきた~」(左)と、前著『獺祭 天翔ける日の本の酒』(右)

この本が生まれたきっかけは、前著『獺祭 天翔ける日の本の酒』の存在にある。かつてジャーナリストの勝谷誠彦さんが桜井会長の酒造りに惚れ込み、情熱的に描いた1冊だ。桜井会長は「勝谷さんは本質をつかむのが鋭い人だった。彼が亡くなってから、“続編を話したほうがいいんじゃないの?”という、そんな勝谷さんの声が聞こえてきて、この本を出すことにしました」と語る。その思いが、今回の“八転び八起き”というテーマにつながっている。

勝谷さんのことがすごく好きだったと語る桜井会長。『獺祭 天翔ける日の本の酒』という本の存在が、今回の出版につながった
勝谷さんのことがすごく好きだったと語る桜井会長。『獺祭 天翔ける日の本の酒』という本の存在が、今回の出版につながった

本書で特に印象的なのは、成功の裏にある数々の失敗談だ。西日本大水害では、蔵が水没し「朝外に出たら、目の前の県道が川になっていた」と語るほどの被害に見舞われた。泥まみれになりながらも、社員と共に片付けに奔走し、そこから再び酒造りを始めた記録がリアルに描かれている。

また、製品回収を余儀なくされた“虫の混入事件”も隠さず収録。「虫の混入でNHKの朝ニュースにデビューした」と苦笑しながらも、信頼を取り戻すまでの苦闘が赤裸々に記されている。誠実に対応し続ける姿勢が、いかにブランドを支えたかが伝わってくる内容に。

失敗と成功の繰り返しの歴史を、穏やかに熱く語った桜井会長
失敗と成功の繰り返しの歴史を、穏やかに熱く語った桜井会長

さらに、海外進出での挑戦も本書の大きな柱。アメリカでの酒蔵建設は、当初30億円の予算が最終的に95億円まで膨れ上がった。それでも「ここであきらめたら終わり」と立ち止まらず、文化や法律の壁を越えて完成させた過程が丁寧に語られる。新ブランド“獺祭 BLUE”の誕生は、まさに挑戦の象徴だ。

桜井会長は会見で「この本は、私が不定期で書いてきた蔵元日記を整理してまとめたものです。失敗も成功もそのまま書いています」と話し、さらに「多くのビジネスマンに読んでもらいたいと帯には書いてありますが、何のことはない、私の失敗談です。笑いながら気楽に読んでもらえたら、それが一番うれしい」と静かに思いを述べた。

“獺祭 BLUE”で乾杯。拍手と笑顔に包まれた会見

会見では、司会を務めた松井康真さん(元テレビ朝日アナウンサー)が、西日本出版社の内山正之代表の「思ったことはやっていったほうがおもしろい。そんな獺祭の姿勢を本書を通じて伝えたい」というメッセージを紹介した。

記者会見の司会を務めた、元テレビ朝日アナウンサーの松井康真さん
記者会見の司会を務めた、元テレビ朝日アナウンサーの松井康真さん
「よその版元さんと比べて厚みが違うと思います」と、自信をもってアピールした西日本出版代表の内山正之さん
「よその版元さんと比べて厚みが違うと思います」と、自信をもってアピールした西日本出版代表の内山正之さん

続いて登壇した桜井会長は、会場に集まった人々へ感謝を述べながら「お酒を飲みながらゆっくりお話を聞いていただいたらと思います」と微笑みながら、乾杯の声を上げた。

松井さんが「皆さんが飲んでいるのは“獺祭 BLUE”です」と紹介。アーカンソー州で育てた米を使い、ニューヨークの酒蔵で醸したアメリカ生まれの獺祭。米の香りが立ちのぼり、口に含むとやわらかな甘みとキレのある余韻が広がる。純米大吟醸らしい透明感と、海外の水や気候がもたらす個性が重なり合った1本だ。さらに、「今日集まってくださった皆さんだけが飲める特別な獺祭です」と紹介されると、桜井会長はその横で静かにうなずき、穏やかな表情を見せた。

【写真】獺祭 BLUE 50 from NY(左)と、獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分(右)
【写真】獺祭 BLUE 50 from NY(左)と、獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分(右)

その後、モスフードサービス前会長の櫻田厚さんが登場。「桜井会長の行動力と柔軟さは経営者として尊敬しています。獺祭は日本の誇りです」と語った。さらに、漫画『島耕作』シリーズの作者で山口県出身の弘兼憲史さんからもメッセージが届いた。

株式会社モスフードサービスの前会長・櫻田厚さん。「獺祭は日本の誇りですし、メイド イン ジャパンを発信する企業の中で、獺祭が1000億円ぐらいの規模に到達する会社になることを、いつも夢見ていました」とあいさつした
株式会社モスフードサービスの前会長・櫻田厚さん。「獺祭は日本の誇りですし、メイド イン ジャパンを発信する企業の中で、獺祭が1000億円ぐらいの規模に到達する会社になることを、いつも夢見ていました」とあいさつした
「8回転んで8回起き上がった。かなり不屈の精神ですね」と動画でメッセージを届けた、漫画家の弘兼憲史さん。さらに「この言葉がこの本によく書かれています。まさにこれは櫻井さんの人生そのものだと思いますね」と本書を紹介した
「8回転んで8回起き上がった。かなり不屈の精神ですね」と動画でメッセージを届けた、漫画家の弘兼憲史さん。さらに「この言葉がこの本によく書かれています。まさにこれは櫻井さんの人生そのものだと思いますね」と本書を紹介した

「この本のタイトル“八転び八起き”は、まさに桜井さんの人生そのもの。転び方が一番大きかったのはニューヨークの酒蔵建設。予算が30億から95億まで膨らんでもやり遂げた。本当に不屈の精神です」

それを受けて桜井会長はにこやかに話し始めた。「本当に八転び。普通は“七転び八起き”ですが、私は八回、すでに転んでいる。だから九回目に起きなきゃいけないんです。まだ起きてないということですね。今から起きるべく頑張ります」と述べると、やわらかな笑いがその場を包んだ。

さらに「目標を高くすれば必ずうまくいかない。でも安全なところでやっていたら伸びない。だからこそ、アメリカに酒蔵を造る決断をしましたし、今は月で酒を造りたいと思っています」と続けた。挑戦を恐れず、失敗を糧に前進するその姿勢が、会場全体を引き込んでいった。

転ぶことを恐れずにチャレンジすることを信念とする、獺祭の姿勢をアピールした
転ぶことを恐れずにチャレンジすることを信念とする、獺祭の姿勢をアピールした

松井さんが「ちょうど先週、H3が月へ向かいましたね。向こうで造るというのは、まさに新しい挑戦ですね」と応じると、桜井会長は笑顔で「はい、そうです。だから向こうでは油井さん(油井亀美也・宇宙飛行士)が待っていて、“獺祭の製造プラントのスタートスイッチ”を押すんです。宇宙で初の杜氏は油井さんになるということですね(笑)」と答え、会場が再び笑いに包まれた。

拍手と笑顔が交錯する中、会見は温かい余韻を残して幕を閉じた。

弘兼憲史さんが、桜井会長をイメージして書いたという直筆のイラストも公開された
弘兼憲史さんが、桜井会長をイメージして書いたという直筆のイラストも公開された

『獺祭 経営は八転び八起き』は、経営者だけでなく、日々の仕事や人生で立ち止まるすべての人に響く1冊。転んでも起き上がる勇気、挑戦することの尊さが、桜井会長の言葉を通してまっすぐに伝わってくる。 一つひとつの失敗に誠実に向き合いながら、それでも前を向いて歩き続ける姿勢に、きっと心が動かされるはずだ。書店で見かけたら、ぜひ手に取ってページを開いてみてほしい。

取材・文=北村康行

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※20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています。

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