1. トップ
  2. 絶望のふちで灯る“再生”の光。てい・蔦重・源内が動き出す! 写楽誕生へ向かう物語の転換点とは【NHK大河『べらぼう』第44回】

絶望のふちで灯る“再生”の光。てい・蔦重・源内が動き出す! 写楽誕生へ向かう物語の転換点とは【NHK大河『べらぼう』第44回】

  • 2025.11.18

*TOP画像/蔦重(横浜流星) みの吉(中川翼) 貞一(井上芳雄) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

 

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第44話が11月16日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

絶望の深淵に貫く希望の光

人は絶望のどん底にいると、二度と笑えなくなるのではないか、食事も一生のどを通らなくなるのではないかと思いがちです。何十年にもわたりこうした状況が続くこともありますが、以前の生活に近い日常を取り戻し、喜怒哀楽を再び感じられるようになることも少なくありません。

 

てい(橋本愛)は生まれてくるはずだった我が子を亡くし、悲しみのあまり食事ものどを通らない日々を送っていました。たか(島本須美)の「食べないと ますます 食べられなくなっちまいますよ。死んじまいますよ!」という言葉に、ていは「あの子が…呼んでいるのかもしれませぬね…」と静かに応じていました。

てい(橋本愛) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

そんなていも時の流れとともに少しずつ癒されていきました。ふじ(飯島直子)たちがつよ(高岡早紀)や生まれてくる子も甘いものが好きだろうと差し入れてくれたお菓子の甘く優しい風味、滝沢瑣吉(津田健次郎)の入婿話、凧を背負って陽気に現れた貞一(井上芳雄)の存在がていの心を少しずつ元気にしました。

 

人は不思議なもので、“もう生きていくのはムリかもしれない”と思っていても、他者のぬくもりにふれ、日常生活の中でさまざまな刺激に触れる中で、心を持ち直せることもあります。

貞一(井上芳雄) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

上方で芝居などを書き、蔦屋に恋焦がれていたという貞一ですが、彼は源内についておどろくべき情報を蔦重に提供しました。なんと、この相良凧(さがらだこ)を作ったのは平賀源内(安田顕)だというのです。彼によると、源内は牢屋から密かに逃げ、田沼意次(渡辺謙)が治めていた相良に潜んでいたといいます。

 

蔦重(横浜流星)は貞一の話の真相を探るために動き出しました。彼が最初に話を聞いたのは現在の秋田県の藩主でもある朋誠堂喜三二(尾美としのり)。喜三二は小田野直武は不審な死に方をしており、源内を逃がしたことが関係している可能性があるといいます。

 

もう1つ、源内に関する手掛かりがありました。太田南畝(桐谷健太)は源内から蘭画を預かっていたのです。

蘭画 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

ていはこの絵を見て「もしや 絵師になっておられるということはございませぬか?」と予想。蔦重はていのこの言葉をきっかけに、源内の行方を探るため市中を駆けめぐります。

 

蔦重が“源内先生はでっけえ紙風船にぶら下がって蝦夷に行った”と三浦庄司(原田泰造)に話していたように、源内であれば空を飛んでどこかに行ったと言われても、その姿が想像でき、納得できるように思います。

 

次週のタイトルは「その名は写楽」ですが、写楽は史実においても謎多き人物です。本作において“源内=写楽”とも筆者は予想しているのですが、次週以降の展開も気になります。

 

「死を呼ぶ手袋」再び 次ページ

「死を呼ぶ手袋」再び

蔦重が源内探しに奮闘していたある日、耕書堂の店先に誰かが置いた包みがありました。その中には源内が意次を助けるために書いた源内軒と七ツ星の物語の原稿が入っていました。さらに、原稿とともに「安徳寺にお越しあるべく候」と書かれた紙が添えられていたのです。

 

蔦重は源内との久々の再会に胸をふくらませ、安徳寺を訪れましたが、そこには松平定信(井上祐貴)や高岳(冨永愛)、長谷川平蔵宣以(中村隼人)といった想定外の顔ぶれが待ち受けていました。さらに、この場には徳川家基(奥智哉)を殺した“死を呼ぶ手袋”も。

高岳(冨永愛) 庄司(原田泰造) 蔦重(横浜流星) 平蔵宣以(中村隼人) 栗山(嶋田久作) 定信(井上祐貴) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

高岳が蔦重に話した内容によると、この手袋は高岳が意次に頼み、家基にわたったものです。しかし、高岳の手元にあったときには異変はなく、毒が仕込まれたのは家基に献上されるまでの間だといいます。高岳はこの事件の黒幕は大崎(映美くらら)とその背後にいる定信も追い落とした者だと語っていました。

高岳(冨永愛) 蔦重(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

定信らは自分たちも源内や家基を葬った者の手に傀儡(かいらい)とされ、もてあそばれていたことを認め、手を組んで仇を討つことに決めたのです。

 

前回の放送回では、老中首座の地位を自ら失うこととなり、涙を流していた定信でしたが、彼も絶望のどん底から這い上がっており、安心感を抱いたのは筆者だけではないはずです。厳しい政策により市井の人びとから疎ましがられていた定信ですが、彼は悪いやつではない…。むしろ、民の幸せを意次同様に願っていました。だからこそ、理不尽な思いをしても、自身の怒りや悲しみを不特定多数の者に向けることもなかったのです。

定信(井上祐貴) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

定信の台詞にあった「傀儡」ですが、この言葉には“あやつり人形” “転じて、人の手先となってその意のままに動く”といった意味があります(*1)。あやつり人形といえば、一橋治済(生田斗真)が思い浮かぶのは筆者だけではないはずです。治済が黒幕なのだろうか…。

 

*1 広辞苑 電子辞書第六版 岩波書店 参照

 

歌麿の“恋心”が投影された絵 次ページ

歌麿の“恋心”が投影された絵

歌麿(染谷将太)と蔦重の関係にはヒビが入ったまま。二人の心のすれ違いを大文字屋市兵衛(伊藤淳史)のように“兄弟喧嘩”という人もいるけれど、歌麿がりつ(安達祐実)の問いに「長い間には いろいろとありまして」と重い口調で答えていたように一時的な感情のもつれではないようです。

 

ていは歌麿の想いに蔦重に少しでも応えてもらおうと、蔦重が歌麿から受け取った下絵を完成させ、売り出すことを提案します。蔦重は「けど ありゃ 絵も柄も 決められてねえ 絵だし」と後ろ向きで、ていの胸の内を察することも相変わらずありません。それでも、ていは「旦那様なら 歌さんが使いそうなお色 好む柄など 手に取るように お分かりになるのではないですか?」と、蔦重を説得します。

 

蔦重は歌麿の気持ちには鈍感ですが、歌麿の意図を汲み取り、彫師に的確な指示を出す姿からは歌麿の絵への深い理解がうかがえました。歌麿にとっては自分の心を理解してくれない一方で、ビジネスパートナーとしての抜群の相性もまたもどかしさを感じる要因なのかもしれません。

歌撰恋之部 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

ちょうど同じ頃、歌麿は蔦重や吉原の女郎屋の主人に誓ったように、彼なりの方法で吉原に恩を返していました。歌麿が本屋に接待させ、“座敷で派手に遊んだ順に仕事を受ける”と乱暴に言い放つ姿におどろいた視聴者は少なくないはずです。

歌麿(染谷将太) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」44話(11月16日放送)より(C)NHK

「紙花まくやつぁ いねえのかい!?」「まかないと 何年後になるか 分かんないよ!」

 

本屋の主人たちに紙花をまくよう促す姿には苛立ちと悲しみが滲み、かつてのほんわかとした雰囲気はもはや感じられません。多くの人から絵師として賞賛され、蔦重と距離を置いても、心に平穏が戻ったわけではないようです。

 

座敷が賑わう中、鶴屋の主人・喜右衛門(風間俊介)が姿を現しました。蔦重が完成させた絵「歌撰恋之部」を歌麿に手渡しましたが、歌麿はそれを受け取ってすぐ、破り捨ててしまいました。歌麿はこの絵を見て、何かに気付いたかのように表情を一瞬変えました。自分の名前が相変わらず、耕書堂の“下”であることに気付いたのか。蔦重が絵に託した想いを拒んだのです――蔦重に期待を繰り返し裏切られてきたように…。

 

元記事で読む
の記事をもっとみる