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名台詞と細田守監督の創作熱意を、『時をかける少女』から最新作『果てしなきスカーレット』までたどる【スタジオ地図「A to Z」連載最終回】

  • 2025.11.18

『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)、『未来のミライ』(18)、そして『竜とそばかすの姫』(21)。これまでに国内外の数々の賞に輝き、日本のみならず世界中の観客を魅了し続けているアニメーション映画監督、細田守。そんな細田監督が“生きる”という壮大なテーマに挑んだ最新作『果てしなきスカーレット』が11月21日(金)に公開される。

【画像を見る】クジラに乗って登場する歌姫のベル(『竜とそばかすの姫』)

MOVIE WALKER PRESSでは、スタジオ地図の作品の魅力をA~Zのキーワードからひも解き、細田監督のこだわりと哲学に迫る連載を5回にわたりお届けする。アクションや入道雲など、細田作品の世界観を象徴する要素にフィーチャーした第1回、家族や成長、ヒロインの姿をテーマに解説した第2回、騎士やロケーション、師弟関係といった物語を支える舞台と人物の関係に迫った第3回、どのように“現実”を物語に落とし込み、キャラクターのリアリティを生み出しているのかをキーワードでひも解く第4回。そして、最終回となる第5回では、創作の原点にある“情熱”を起点に、細田監督がこれまで描いてきた「人間」へのまなざしや映画づくりへの想いを掘り下げていく。この連載を読みながら、『果てしなきスカーレット』の公開を心待ちにしてほしい。

U…Unite【団結力】

美大では油絵を専攻し、一人でものづくりをしていた経験を踏まえ、映画づくりの楽しさは共同作業であるところだと明言する細田守監督。その信条が反映しているのだろうか、細田作品では団結力が家族や仲間が困難に立ち向かうなかで自然に生まれる絆として描かれ、個の力を超えた家族や仲間との絆が物語の核心を成していることが多い。

陣内家の大家族は団結して危機に立ち向かう(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
陣内家の大家族は団結して危機に立ち向かう(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

『サマーウォーズ』では仮想空間<OZ>の危機に対し、陣内家の大家族が一致団結して世界を救う。『おおかみこどもの雨と雪』では、母子が自然の中で支え合いながら生きる姿を通じて、静かに家族の絆が表現される。『バケモノの子』では、人間界とバケモノ界を行き来する少年・九太が、師弟関係や仲間との絆を通じて成長する。『竜とそばかすの姫』では、心を閉ざした主人公・すずが、他者との共感と協力といった団結によって自己を回復する過程が描かれる。『果てしなきスカーレット』では、復讐に燃えるスカーレットが共感と信頼を通じて他者とつながり、団結していくことで成長して行く。

母の花はこどもたちと自然のなかで支え合う(『おおかみこどもの雨と雪』) [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
母の花はこどもたちと自然のなかで支え合う(『おおかみこどもの雨と雪』) [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

細田作品に共通するのは、世代や立場や出自などを超えて協力し合う信頼や共生の姿が、団結力の象徴として描かれている点だ。細田監督は、その力を繊細かつ力強く表現している。

V…Voice Act【声優】

細田守作品のアフレコは「抜き録り」(スケジュールの都合などで声優が個別に録音すること)を使わず、同じシーンに登場するボイスキャストが同席して録音するスタイルで、しかも物語の進行に合わせて収録される順録りが多い。アニメーションには珍しい実写映画のお芝居のようなアフレコだが、これは声優のキャスティングに、役者本人とキャラクターの個性の合致を重視した結果である。人と人が一緒にいる「場」の空気、有機的な関係性を醸成するための大切なこだわりなのだ。なお、最新作『果てしなきスカーレット』では初めてプレスコ(音声収録を先にすること)を採用し、映像表現と共に新しいチャレンジをしている。

W…Whale【クジラ】

細田守監督の映画にはクジラが頻繁に登場する。『サマーウォーズ』では仮想空間<OZ>の守り神として、ジョンとヨーコという名前のクジラ型のアバターが登場。夏希に幸運のアイテムを授ける存在として描かれ、強運や守護の象徴とされる。

【画像を見る】クジラに乗って登場する歌姫のベル(『竜とそばかすの姫』) [c]2021スタジオ地図
【画像を見る】クジラに乗って登場する歌姫のベル(『竜とそばかすの姫』) [c]2021スタジオ地図

『バケモノの子』では米文学の偉大な金字塔、ハーマン・メルヴィルの海洋小説「白鯨」が重要なアイテムとなる。自分の片足を奪った白鯨に復讐しようとする主人公のエイハブ船長について、楓は「主人公は自分自身と戦っているんじゃないかな。つまりクジラは自分を映す鏡」と語り、九太は難解な「白鯨」を読みこなすため猛烈に勉強して知識を広げていく。『竜とそばかすの姫』では仮想空間<U>で、ベルが巨大なクジラに乗って登場する冒頭シーンが印象的。クジラはステージのような存在で、夢や希望、歌の力を象徴。現実世界でも、友人のノートには潮を吹くクジラのイラストが描かれているなど、複数の形で登場する。

『未来のミライ』に登場するお菓子もクジラの形 [c]2018 スタジオ地図
『未来のミライ』に登場するお菓子もクジラの形 [c]2018 スタジオ地図

また『時をかける少女』では最初のタイムリープのシーンで、生命の歴史を象徴するような映像の中にクジラらしき存在が登場。『おおかみこどもの雨と雪』では絵本の表紙に描かれていたり、『未来のミライ』ではミライちゃんの顔に置かれたお菓子がクジラ型だったり、さまざまな形で登場している。細田監督はクジラやオオカミといった存在が置かれた境遇に関心があり登場させることもあるようだ。

X…X【未知なるもの】

細田守作品の核にあるのは、未知なるものに懸けるマインド。言い換えれば「人の可能性を信じること」だ。主人公たちの成長や選択を通じて、この主題が表現されており、現実と仮想、過去と未来といった境界を越える物語構造が象徴的な役割を果たしている。

数学が得意な健二は驚異的な計算能力を見せる(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
数学が得意な健二は驚異的な計算能力を見せる(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

『サマーウォーズ』では内気な性格の理科系男子・健二が仮想空間<OZ>で起こった世界の危機という未知の領域に飛び込み、自分の特技を活かして世界を守ろうとする。『竜とそばかすの姫』では、主人公・すずが仮想空間<U>で歌姫ベルとして自己表現に挑む姿を通じて、自分自身と向き合う勇気が描かれる。細田監督はこれらの作品でインターネットやSNS社会における現代的なテーマで作品を制作する可能性を探っている。

「人間か、おおかみか」という生き方の選択に対面するこどもたち(『おおかみこどもの雨と雪』) [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
「人間か、おおかみか」という生き方の選択に対面するこどもたち(『おおかみこどもの雨と雪』) [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

『おおかみこどもの雨と雪』では、人間と狼の二面性を持つ子どもたちが自らの生き方を選ぶ姿を通じて、親が子どもの可能性を信じて見守る姿勢が感動的に描かれる。『未来のミライ』では幼いくんちゃんが未来の妹と出会い、家族の歴史を旅することで、自らのルーツと向き合い成長し、アイデンティティを確立していく姿が描かれている。

復讐の戦いに身を委ねながら、≪死者の国≫で旅を続けるスカーレット(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図
復讐の戦いに身を委ねながら、≪死者の国≫で旅を続けるスカーレット(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図

『果てしなきスカーレット』では、≪死者の国≫を舞台に、生と死という根源的な未知に向き合う物語が展開される。監督自身、「先行きの見えない世界でも前を向いてほしい」と語り、先行きが不透明な世の中を生きる観客に寄り添い希望のある映画にしたい、という想いで制作した。

なにより人間の内面や社会の変化に根ざした物語を創造し続ける、細田監督の創作姿勢こそが、我々観客の未知への想像力と可能性を信じるものなのだ。

Y…Yell【エール】

映画という大きな公共性を帯びる作品の形を、細田守監督はしっかり背負っている。だからどんなに困難な現代の問題を扱っても、必ず人間や世界を力強く肯定する。セリフにも観客にエールを贈るような珠玉の言葉がいっぱいあふれている。それは決してお説教臭いものではなく、後ろ向きな気持ちになっている人の背中をそっと押してくれるような、人生を豊かに生き抜くためエールに聞こえる。

細田作品に刻まれた名言の数々を繰り返し味わいたい。

●『時をかける少女』

「未来で待ってる」という千昭のセリフが印象的(『時をかける少女』) [c]「時をかける少女」製作委員会 2006
「未来で待ってる」という千昭のセリフが印象的(『時をかける少女』) [c]「時をかける少女」製作委員会 2006

「待ち合わせに遅れてきた人がいたら、走って迎えに行くのがあなたでしょ?」(和子)

「未来で待ってる」(千昭)

●『サマーウォーズ』

戦国時代から数百年以上続いている陣内家16代目の当主、陣内栄(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
戦国時代から数百年以上続いている陣内家16代目の当主、陣内栄(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

「家族同士、手を離さぬように。人生に負けないように。もし、辛い時や苦しい時があっても、いつもと変わらず、家族みんなそろって、ご飯を食べること」(栄)

「あきらめたら、解けない。答えは出ないままです」(健二)

●『おおかみこどもの雨と雪』

母と子の13年間にわたる感動の物語を描く『おおかみこどもの雨と雪』 [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
母と子の13年間にわたる感動の物語を描く『おおかみこどもの雨と雪』 [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

「元気で、しっかり生きて!」(花)

「みんながおおかみが嫌っても、お母さんだけは、おおかみの味方だから」(花)

●『バケモノの子』

九太と熊徹の師弟関係と絆が熱い(『バケモノの子』) [c]2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
九太と熊徹の師弟関係と絆が熱い(『バケモノの子』) [c]2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

「忘れないで。私たち、いつだって、たった1人で戦ってるわけじゃないんだよ」(楓)

「あいつの胸ん中の足りねえものを、俺が埋めてやるんだ…。それが半端者の俺にできる、たったひとつのことなんだよ!!」(熊徹)

●『未来のミライ』

4歳のくんちゃんと、未来からやってきた妹のミライに導かれ、時をこえた家族の物語へと旅立つ(『未来のミライ』) [c]2018 スタジオ地図
4歳のくんちゃんと、未来からやってきた妹のミライに導かれ、時をこえた家族の物語へと旅立つ(『未来のミライ』) [c]2018 スタジオ地図

「君は1人じゃない。みんなが君を見守っている」(未来のミライちゃん)

●『竜とそばかすの姫』

すずにとって相棒のような存在である別役弘香(『竜とそばかすの姫』) [c]2021スタジオ地図
すずにとって相棒のような存在である別役弘香(『竜とそばかすの姫』) [c]2021スタジオ地図

「<U>じゃ嘘のない賛否両論が、本物を鍛え上げるんだよ」 (別役弘香/ヒロちゃん)

「すず…君は、母さんに育てられて、こんなに優しい子になったんだよ」 (すずの父)

●『果てしなきスカーレット』

スカーレットは現代からやってきた看護師の青年・聖と出会い、心動かされ変化していく(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図
スカーレットは現代からやってきた看護師の青年・聖と出会い、心動かされ変化していく(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図

「君は傷ついている。だから、俺がそばにいる」(聖)

「スカーレット、生きろ」(聖)

「愛について…」(スカーレット)

Z…Zeal【熱意】

誰も観たことのない新しいアニメーション映画を作りあげること…。この巨大な使命に全力を尽くす細田守監督。映画づくりに懸ける彼の情熱を『果てしなきスカーレット』についてのコメントから感じてほしい。

「『果てしなきスカーレット』のテーマは『生きる』。 『人は何のために生きるのか?』という問いを軸に、観客と共にこの大きなテーマを考える骨太な映画を目指して、本作は2022年3月頃に構想が始まりました。

『果てしなきスカーレット』ではストーリー、映像表現共にこれまでにない新境地へ [c]2025 スタジオ地図
『果てしなきスカーレット』ではストーリー、映像表現共にこれまでにない新境地へ [c]2025 スタジオ地図

2021年のコロナ禍では、世界が一致団結してウイルスに立ち向かっていたように感じていました。しかし2022年、パンデミックが収束し始めた矢先に戦争が勃発し、日常が崩れていく様子を目の当たりにしました。平和がいかに脆く、危ういものであるかを痛感し、『平和ではない世界をどう生きるべきか』という問いが、世界中の人々の切実な関心事になっていると感じました。

その中で、復讐と報復の連鎖が止まらない現実に直面し、『復讐の物語』を描くことを決意しました。ただし、単なる復讐劇ではなく、“赦し”というもう一つの要素を加えることで、これまでにない新しい映画を目指しました。

復讐に燃えるスカーレットと心優しい看護師の青年、聖は対照的のような存在(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図
復讐に燃えるスカーレットと心優しい看護師の青年、聖は対照的のような存在(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図

主人公スカーレットと聖の設定には“対比”を重視しました。王女と看護師という異なる立場を描くことで、それぞれの魅力を際立たせています。また、従来の“守られるプリンセス像”ではなく、自ら道を切り開く新しいプリンセス像を表現しました。

世界には今も苦しんでいる子どもたちが多くいます。彼らがこの世界に絶望せず、希望を持てるように――そんな願いを、一人の親として、一人の社会人として込めました。

アニメーションの世界は表現の自由度が高く、無限の可能性を秘めています。今回、シェイクスピアやダンテの作品をモチーフにするとは思っていませんでしたが、それほどにアニメーション映画は新しい挑戦ができる場だと感じています。これからも、おもしろく、心に響く作品を生み出していきたいです」。

※本コメントは公式コメントと公式記者会見リリースより構成。

『果てしなきスカーレット』は11月21日(金)公開 [c]2025 スタジオ地図
『果てしなきスカーレット』は11月21日(金)公開 [c]2025 スタジオ地図

文/森直人

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