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【温泉が恋しい季節到来】温かいお湯とごちそうが待っている! 『おいしいひとり温泉はやめられない』から、今週末は温泉賢者が指南する名湯・名宿へGo

  • 2025.11.18
野沢温泉の源泉。

朝夕の寒さが身に沁みる今日このごろ。猛暑だった今年はなおのこと、冷たい風に身も心も凍えます。温泉はいつ訪れても心地の良い癒しの場ですが、秋から冬にかけては特に、冷えた体を芯から温めてくれてありがたい存在。熱いお湯に浸かって土地のおいしいものを食べる喜びは何ものにも代えがたい!

温泉エッセイストの山崎まゆみさん著『おいしいひとり温泉はやめられない』には、「ひとり」で楽しめる魅力的な温泉宿と地域ごとの美味、自身が20年以上にわたって国内外1000カ所以上の温泉を訪れた経験から見出した旅のノウハウがギュギュッと詰まっています。「すぐに温泉へ行きたい」という方はもちろん、「いつか行きたい」と望む方も楽しめる魅惑のエッセイから一部抜粋してご紹介します。

温泉は動物的本能を覚醒してくれる

野沢温泉の名物、きのこたっぷりの蕎麦。

――温泉地で目覚める朝は、爽快だ。この日も、心身共にすっきりとしていた。入浴は体力を使う。その疲れも手伝って、コトンと眠りに落ちる。まして寝る前に温泉に入って身体の隅々まであったまれば、深い睡眠が得られる。眩しい光がカーテンから漏れる。そのカーテンを開けると、くっきりとした青空に山の稜線が浮かんでいた。あぁ……、外の空気が吸いたい。コートを羽織って外に出ると、吐く息が白く、キーンと張り詰めた空気で頬がヒンヤリとした。(中略)

――外湯(共同湯)を見つけた。朝湯に入ろう。洋服を脱いで「どっぼーん」。「ひゃあ、熱い!」と思わず声が漏れる。全身がピリピリする。高温のお湯で目がぱっちりと開いた。心と身体を目覚めさせてくれた。今日も私は元気だ。2024年の晩秋、長野県野沢温泉での朝――。

野沢温泉の共同浴場、大湯。

とある仕事で、野沢温泉が掲げるサステナブルな体験について調査をするために、女性数名で現地を訪れた山崎さん。

――今回の仕事の目的は、野沢村に滞在して入浴し、野沢産の食事を摂り、そして仕事に励むという旅行商品が販売に足るかどうかを検討することだった。

「野沢温泉はひとりでいるのに、ひとりじゃない。地元の人たちとの交流が楽しくて、私は人見知りなのに、たくさんお喋りしました」

「よく眠れた~」

「朝食で食べたきのこはしっかりと味がして、その味の強さにびっくりして目が覚めた。ぜひ山菜の時期にまた来て、自分で山菜を採って自分で調理したら、おいしいだろうな……」(中略)

――普段の彼女たちは日々の出来事に忙殺され、感覚が閉じてしまっているかも。私は心の中で呟いた。

「目覚めよ、乙女の本能! ホンモノの温泉で己を覚醒させるのだ!」

感覚を研ぎ澄ませて欲しい。本来、人間に備わった五感を眠らせておくのはもったいない。(中略)

――現代はストレスの嵐である。誰だって、ひずみを抱えているし、悩みのない人なんていない。だから、どうか温泉を頼って欲しい。温泉は動物的本能を覚醒させてくれる。特に「ひとり温泉」は内省するのに最高の旅のスタイルであり、ホンモノの温泉で、自身の本来備わっている力を呼び戻すことができるから。これが世にいう「整う」だ。(後略)

長年にわたって日本のみならず世界の温泉を経験してきた山崎さんの「どうか温泉を頼ってほしい」という言葉は説得力大。では、どこの温泉宿を選べばいいの?という問いに本エッセイでは、「絶対に外さない宿選びのコツ」を指南してくれます。

例えば「素泊まり」「イチアサ(一朝・1泊朝食付き)」「安価」をキーワードに探してみる、週末や繁忙期に空いている「シングルルーム」を探してみるなど。こんな風に、ひとり温泉デビューの方にも温泉に通い慣れた方にも役立つ、山崎さんが太鼓判を押す「通年でひとり温泉歓迎」の宿が25軒も紹介されています。

山梨・西山温泉、ギネス最古の宿と「どんぐり蕎麦」

飛鳥時代(705年)に開業した、西山温泉「慶雲館」。

――この晩は飛鳥時代(705年)に開業した西山温泉「慶雲閣」に宿泊。山間の渓谷の狭間にぽつんと建つこの宿は、2011年に「世界で最も古い歴史を持つ宿」としてギネスに認定され、こぞって外国人がやってくる。スタッフにも流暢に日本語を話すベトナム人女性がいた。笑顔が可愛らしく、着物がよくお似合いだ。

内風呂は古代檜を使用した大きな湯船――。

「慶雲閣」の内風呂。古代檜を使っている。

――ひと足入れただけで、「ざばざば~~~っ」と、お湯が溢れる音が浴場にこだまし、湧出量が豊富だとわかる。毎分1600リットルという湯量は、ドラム缶8本に相当する。新鮮な源泉はあせも疲れも凝りも流し出し、心もほぐれる。とろりんとお湯が肌を転がる。水素イオン濃度(pH)9.1ゆえ、まろやかな肌触り。(後略)

「慶雲閣」のような秘湯の宿の場合、山の幸を中心とした素朴な食事を連想しますが、しっかりとした会席料理だそう。その中でも「どんぐり蕎麦」は心に残った料理のひとつ。奈良から取り寄せたどんぐりで作られていて、深い茶色の麺で、つるんと口に入れて噛みしめると、「香ばしさでパット花が咲いた」と山崎さん。

こよなく愛する由布院「STAY玉の湯」

大分の由布院にある「STAY玉の湯」は山崎さんがこよなく愛する宿。遠くに由布岳がくっきり。

――雑木林の中に離れ形式の客室がゆったりと佇む。小林秀夫や池波正太郎、大林亘彦らに愛された文化的な匂いがそこはかとなく漂い、それは暖炉のあるラウンジで特に感じる。棚には古い雑誌や良書が並び、蓄音機もある。「玉の湯」の好きなところを挙げたらきりがないが、名物「クレソンと鴨の鍋」も再訪の動機になる。(中略)

そんな「玉の湯」が新しい宿「STAY玉の湯」を2024年1月にオープンさせた。泊まった翌日、目覚めて最初に目に入ってきたのは、青空にくっきりと浮かび上がる由布岳だった。雲ひとつない空によく映えていた。前夜、遅くに宿に入ったから、この光景は見えなかった。ベッドから眺める至福の時に、笑みが浮かんだ。(中略)

「STAY玉の湯」の客室のひとつ。ひとり温泉にぴったりのミニマムなつくり。

ロビーには由布院で評判のベーカリーのもちもちとしたパンが並び、辰巳良子さんレシピのスープに果物、お菓子も少々。十分満足。

料理研究家の草分け的存在、辰巳良子さんレシピのスープ。

そもそも由布院の町づくりは、昭和40年代に溝口薫平さん(「玉の湯」会長)をはじめとする当時の若手旅館経営者たちが、ヨーロッパの温泉保養地を訪ねたことに始まる。この頃からの夢だった滞在型の宿を「STAY玉の湯」で実現したのだそうだ。素泊まりで1泊18,000円から。先述のような軽い朝食が付き、客室にはレンジ、共有スペースにはランドリーなどもある。(後略)

本エッセイではこのほかに、ひとり温泉で楽しめる「おいしい朝ごはん」、「おいしいお土産」、日本各地の温泉ルポやポルトガルでの温泉体験などが紹介されています。大人の旅のひとつの在り方として「ひとり温泉」は定着し、もしかしたら旅の主流になっていくかもしれない、と語る山崎さん渾身の1冊。ぜひあなたも自分にとってちょうどいい「ひとり温泉」を見つけてみてはいかがでしょう。

おいしいひとり温泉はやめられない

著者 山崎まゆみ
定価 946円(税込)
河出書房新社

文=CREA編集部
写真=山崎まゆみ

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