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【ばけばけ】「抱きたいでしょ!」と詰め寄るフミ(池脇千鶴)。涙の告白から、ドタバタ喜劇への転換が絶妙![写真多数]

  • 2025.11.17

【ばけばけ】「抱きたいでしょ!」と詰め寄るフミ(池脇千鶴)。涙の告白から、ドタバタ喜劇への転換が絶妙![写真多数]

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

ついにきたかとドキッとするが

日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と、その妻・セツをヒロインとした髙石あかり主演のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第7週「オトキサン、ジョチュウ、OK?」が放送された。

内容に則したストレートなサブタイトルである。現代では一部をのぞき「お手伝いさん」「家政婦」といった呼称のほうが一般的であるが、ヒロインのトキが英語教師ヘブン(トミー・バストウ)のもとで女中として働くかどうか、「女中」として求められているものは何なのかというものを軸としてストーリーが展開した。

銀二郎(寛一郎)との離婚後、松江に戻りしじみ売りとして地道に働くトキのもとに、あるとき錦織(吉沢亮)からヘブンの女中としての口を紹介される。異人であるヘブンの元へ行くということは、当時の感覚としてはラシャメンになること、すなわち愛人のような役割も求められるということとなる。月に20円という破格すぎる待遇が提示されたが、当然トキはその打診を断る。しかし、最終的に女中となることを決意する。その背中を押したのは、生みの親であるタエ(北川景子)が路傍で物乞いをする姿を目撃してしまったからである。

ある意味決死の思いでヘブンのもとを訪れたものの、当のヘブンはトキを見て鼻で笑うような失礼なあしらいをする。ルッキズムに対する感覚が変化し定着した現在ではありえないが、ヘブンはトキの脚を見せろ、腕を見せろと要求し、「ウデフトイ、アシフトイ」と切り捨てる。しかし、錦織がトキはヘブンに「ペリー、覚悟!」とばかりに木刀を振りかざした〝ラストサムライ〟の孫だと説明すると態度を急変、女中として採用される。

さて松江に来るまでは鬼か妖怪のような想像をされたり、ラシャメンとして家事以外のことも覚悟しなければならないなどといった異人との生活は、トキたちの緊張とヘブンが実際に求めるもののギャップがどこかすれ違いコントのような描かれ方で展開していく。

松野家の面々には、花田旅館が繁盛したからそこで女中をすることになったと、心配をかけさせないよう嘘をつく。花田旅館側はその事情を理解したうえで口裏を合わせるとともに、旅館の女中であるウメ(野内まる)ができるだけ二人きりにさせないようヘブン宅に滞在するよう仕向ける。ヘブンがもともとウメを気に入ってることで違和感もあまり生じないといういい采配だ。

しかし、それでもウメだってずっといられるわけもない。二人になったときにトキが緊張するなか「フトン」と言われたり「オフロ、ドウゾ」と言われ、ついにきたかとドキッとするが、どれも肩透かしのように、布団をたたんでおいてくれ、お風呂に普通に入りなさいというだけのことで、それ以上のことは何も求めない。入浴後相当ドキドキするものの「キョウ、オワリ」と解放されるだけ。視聴者側はそうだろうと思いながら見ているわけで、このちょっとした笑いは、本作の大切なエッセンスとなっている。

前週で触れられていたが、新任教師の給金が月に4円、そしてウメはわずか90銭である。そんななかでの20円は、あまりにも高額だ。先払いでこのお金を手にしたトキは、夜遅くにも押しかけるしつこい借金取りに5円を渡すなどする。

それはそれで、自尊心がどこか傷つく

そして、自身の貞操を犠牲にする可能性も抱えながらも大きな決意をした一番の理由であるタエを窮地から救いたいという思い、そこから三之丞(板垣李光人)に給金の半分、10円を渡す。ここでも「花田旅館の女中」という嘘に続き、生前よくしてもらっていた三之丞の父でもある傳(堤真一)から預かったものだと嘘をつく。

よく言う「やさしい嘘」という綺麗なものではないかもしれないが、このトキの自己犠牲精神、急に手にした大金で欲しかったものを買ったり大盤振る舞いをするなどせず、誰かを助けるために使うというヒューマニズムが現れるところはトキの人間性を象徴するようで、これからの展開にも関わってくる人物像なのだろう。

元織物工場の経営者として活躍した雨清水家の転落は、格好の下世話なニュースではあるだろう。現状を知った記者の梶谷(岩崎う大)がタエを直撃取材をこころみて困らせる。どの時代もどの作品も、記者やカメラマンはこういう役どころに置かれることが多いが、三之丞がそこに割って入り、梶谷に金を握らせ追い払う。タエには社長になったと悲しい嘘をつくところも、板垣の表情豊かな演技力も相まって、なんともいえない切なさを感じる。

母のフミ(池脇千鶴)がヘブンの動向を伝える新聞記事を目にしたことをきっかけに、結局トキの嘘は知られるところとなり、松野家の怒りが爆発、家族総出でヘブンの家に押しかけ詰め寄る。これ以上嘘を押し通すこともできないと観念し涙ながらに真実を伝え始める。するとヘブンが声を荒げ、こう主張した。
「オトキサン、ラシャメン、チガイマス!」

ヘブンが求めるものは妾的なものではなく、純粋にウメのような女中なのだと。まさに、「オトキサン、ジョチュウ、OK?」そのもの。これはトキ自身も聞きたくても聞けなかった真相であり、ずっと引っ張ってきたすれ違いコントの〝ネタバレ〟のような状況に、責め立てられるトキ自身も安堵の表情を浮かべることとなる。

すっかり安心とはいえ、ハッキリと女性としてのトキを求めていないことが判明すると、それはそれで、自尊心がどこか傷つく。辞書を引きながらきっぱり「ダキタクナイ!」と言われると、
「それはそれで失礼でしょ!」(トキ)
「抱きたいでしょ!」(フミ)
とヘブンに詰め寄る。

結局、ラストサムライ・司之助が「ペリー、覚悟!」とまた斬りかかろうとするなど、お金を何に使ったかの涙の告白から一転、ドタバタ喜劇に転換する。この涙と笑いのバランスと切り替えの絶妙さが本作の大きな魅力である。この真実のネタバレドタバタのあとに、今度は三之丞の再生を涙ながらに叱咤激励、軌道に乗るまでお金を渡し続けると宣言するトキの強さも、とてもインパクトある描き方だ。

司之助に木刀を預けられようとするくだりなどで笑いに変えながらもヘブンの女中生活は軌道に乗り始める。

そんな「オトキサン、ラシャメン、チガイマス!」と宣言された状態から、この先二人の距離や関係性はどのようなやりとりを経て変化していくのか。期待はますます高まる。

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