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人を怖がらないクマ 異変はなぜ起きたのか…専門家に聞きました。

  • 2025.11.16

クマによる被害が相次いでいる2025年。何がこれまでと違うのか。2025年9月に日本クマネットワーク代表で東京農工大教授の小池伸介さんへのインタビューを掲載しましたが、その後、クマの被害が急増したことを受け、改めてお話をうかがいました。

警戒心が低下、市街地を落ち着いて歩くクマが増加

――秋になってなぜ被害が急拡大しているのでしょうか?
今、多数のクマが人里に出没している直接の原因は、どんぐりの凶作です。まだいくつかの県で発表してないのでわからないのですが、おそらく2023年に秋田県で起きたような複数種のどんぐりの凶作が起きて、クマの行動が変容した。特に岩手県と秋田県です。ただ、盛岡市の街中とか、市街地に出てくるクマが非常に多く、その様子が落ち着いているところが、今までにはなかった気がします。
海外では、人間が住む場所の周辺には親子のクマが多いという報告もあります。親子のクマにとっての天敵はオスのクマです。そして、オスの方が警戒心が強いので人前にあまり出てこない。それで親子のクマたちは、オスが寄りつかないように、あえて人の近くで子育てをするという構造です。そこで育ったクマは母親からどんぐりがないときは集落に行って柿を食べればいいんだよと教わったりするかもしれない。それが何代も何代も続くと、人間への警戒心が低下したクマが徐々に増えていくことは十分に考えられます。これが日本でも起きていて、今年のどんぐりの凶作で表面化したのかもしれません。今後、検証していく必要がありますが、可能性としてはあると考えています。

人とクマ…緊張関係の再構築を

――どうしたら良いのでしょうか?

もともとクマは人への警戒心が強く、積極的に危害を加えるのは一部の問題個体だけだとされていました。けれども、人への警戒心が低下したクマが多数いるとなると、失いかけた人間とクマとの緊張関係を再構築していかなければなりません。
具体的には、今までのような特定の問題個体を排除するという管理ではなく、集落周辺にいるクマの密度を一気に抑えるぐらい捕っていく必要があります。ただし、将来的には今までのように罠を置いて捕るんじゃなくて、追いかけ回して捕るような捕り方をして、以前はあったような緊張関係を構築していくことが大事です。

冬眠をしないクマはいる?

――クマの出没件数は例年、12月から翌年3月までは激減しています。例えば出没の多かった2023年をみると、全国の出没件数が10月に5983件だったのが、12月は805件、翌年1月は190件、2月127件、3月152件でした。クマは冬には冬眠すると思っていたのですが、冬眠しないクマもいるのでしょうか?

クマは寒いから冬眠するのではなくて食べ物がないから冬眠するのです。だから動物園のクマは冬眠しません。けれども、現状で、日本にいるクマはヒグマもツキノワグマも北海道から中国四国地方までどこにいても冬眠します。個体や地域によって短い長いはあるけども冬眠はするんですね。集落内に柿がまだいっぱいあるなど、食べ物が残っている場合は、冬眠の開始が遅れる可能性はあります。
冬眠中に穴を替えるクマもいます。私たちが山の中のクマを追跡していても、一定の割合で穴を替えています。寝心地が悪いとか、近くが騒がしいといった理由なのでしょう。その途中で目撃されることがしばしばあります。
あと、冬眠の仕方がわからなくてふらふらしていた子グマが過去に1例見つかっています。結局冬に死んでしまい、遺伝情報を調べたところ、母グマが秋に駆除されていました。

■2023年度のクマ出没数

――母グマが駆除されたことと、冬眠しないことに関係があるのでしょうか?
クマは冬眠中に生まれ、翌年にもう1回、母グマと冬眠して、その年の夏に親と子が別れます。冬眠する場所の見つけ方や冬眠の仕方を母グマから教わる前にはぐれてしまうと、冬眠の仕方を学んでいないクマが出てくるという可能性は考えられます。
――クマが出没する地域の人はどうしたら良いのでしょうか?
今までの常識では通用しないような事態が起きているので、注意深く見ていく必要はありますが、やはりクマの出没は秋がピークになると思います。あと1か月か1か月半、人の住むところにクマが出没している地域の方は、ヘルメットにクマ撃退スプレー、鈴をつけるなどして、車で外出するなど、大変ですがしばらくはクマの遭遇に警戒しながら生活していただくしかないと思います。

有効な中長期的対策とは

――警察官がライフル銃で駆除ができるようになり、秋田、岩手県警に他県警などの機動隊員が特別派遣されました。秋田では自衛隊が箱わなの運搬などクマの捕獲作業に協力しています。
クマの正確な生息数はわかりませんが、毎年数千頭も捕獲しているのに出没件数が減っていないことから考えても、右肩上がりでずっと増えてきているのだと推測できます。まずはクマの数を減らし、クマの分布を山側に押し戻さなければなりません。その意味で、警察や自衛隊の協力は良いことだと思います。
ただ、この後、クマが冬眠して事故が減ると一気に世の中の関心が遠のき、もう終わったかのようになってしまうことは避けなければなりません。どんぐりの不作はまた何年後かにどこかで起きますし、何もしなければ今後も同じようにクマの被害が多発するでしょう。今のうちにクマ出没に対する中長期的な対策をしっかりと立てておくことがとても重要です。

――中長期的な対策とは?
クマが多数出没する背景には、中山間地の人口が減少して、人がいなくなった場所にクマやイノシシ、シカ、サルなどが住み着いて、人口と反比例して野生動物が増えている状況があります。
被害を根本的に減らすには、クマの住む場所と人の住む場所を分離し、間にバッファー(緩衝地帯)を作ります。そして、バッファーにはクマが定着しないように、ヤブを刈り払って見通しのいい状態にする、あるいはスギやヒノキの人工林にしてクマの食べ物が無い状態にするなどして、バッファーをクマの生息に適さない環境に整備し、その状態を維持していく必要があります。
さらに、バッファーにクマが来たら、捕獲したり、犬を使って追い立てたりして、バッファーは居心地が悪い場所であることをクマに学ばせることも重要です。特にメスのクマは、一生の間であまり移動をしませんので、人間は嫌な存在であることを学習した賢いクマを、クマの住む場所の最前線に配置するイメージです。
ベアドッグというクマの匂いや気配を察知する訓練を受けた犬もいますが、昔から狩猟で犬を使っていますので、ベアドッグ以外の狩猟に使うような犬でも役割を果たすことができるでしょう。

市街地に出没した時だけでなく、恒常的に人とクマの住む場所を分離するため、バッファーでクマの捕獲や監視にあたる、専門知識を有した人材も必要です。集落側も耕作放棄地をなくし、人間の活動する領域と森林との境界線を明確にしていくことも大切ですね。

ガバメントハンターの確保

――自治体が職員として雇う「ガバメントハンター」の確保に向けた議論も始まっています。
ガバメントハンターの議論はようやく始まったという感じです。今年9月に市町村の判断で特例的に市街地での猟銃の使用が認められる「緊急銃猟」制度が導入されましたが、捕るのは主に猟友会の人たちで、ほぼボランティアベースですし、高齢化も進んでいます。行政の仕事として捕獲に従事する人を組み入れていかないといけないということは以前から言われていました。捕獲従事者の育成にはそれなりの時間がかかります。

20年後を見据えた対策を

――クマの被害も深刻ですが、シカやイノシシ、サルなどの野生動物による農作物の被害もあります。人と野生動物の住む場所を分離していくのは、農作物の被害対策にも役立ちそうですね。
かつて集落に住んでいた方々がされていたような里山の管理はもはや望めません。そうなると、人とクマの住む場所を分離できるように公共事業として森林の管理をしていくのは一つの形だと思います。この対策はクマだけでなく、シカやイノシシ、サルなどの他の野生動物の対策にもつながります。野生動物の管理は環境省、森林の管理は林野庁、農作物の被害対策は農水省の所管です。また、野生動物は河川敷を伝って市街地に移動していくことが多いのですが、河川の管轄は国土交通省です。10年後、20年後の国土デザインの中に野生動物の問題を位置づけ、どのように獣害を防ぐか、政府が省庁の垣根を越えて総合的に対策を考えていただければと思います。

<防災ニッポン編集部> 館林牧子

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