1. トップ
  2. 2025年は4本映画出演!『ショウタイムセブン』『アフター・ザ・クエイク』『見はらし世代』『平場の月』怒涛の出演で見せた井川遥の新境地

2025年は4本映画出演!『ショウタイムセブン』『アフター・ザ・クエイク』『見はらし世代』『平場の月』怒涛の出演で見せた井川遥の新境地

  • 2025.11.16

2025年は女優、井川遥の新たなる始まり、かつ快進撃を知らしめた記念すべき当たり年であることは誰もが認めるだろう。そんな充実の年を締めくくるにふさわしい、『平場の月』が11月14日より公開中だ。まさに井川の新境地と言っても過言ではない本作は、酸いも甘いも知った大人たちの胸をせつなく揺さぶって、むせび泣かせるはずだ。“こんなにも大切な恋だった…”と噛み締めさせながら。

【写真を見る】惹かれ合い仲を深めていく2人は、未来についても語るようになるが…(『平場の月』)

【写真を見る】惹かれ合い仲を深めていく2人は、未来についても語るようになるが…(『平場の月』) [c]2025映画「平場の月」製作委員会
【写真を見る】惹かれ合い仲を深めていく2人は、未来についても語るようになるが…(『平場の月』) [c]2025映画「平場の月」製作委員会

井川は近年、しばらく俳優業が控えめな印象があった。勝手な邪推として述べるが、およそ11年間に渡って某ウイスキーのCMを勤め上げた陰には、「日本全国の疲れた人々を癒し続ける存在」としての並々ならぬ自覚と努力があったのだろう。それゆえ、ある程度の役幅に限定せざるを得なかったのではないだろうか。そんななか、今年の井川の活躍には目を見張るものがある。映画に限っても『ショウタイムセブン』(25)、『アフター・ザ・クエイク』(公開中)、『見はらし世代』(公開中)、『平場の月』と4本が公開。そして、そのどれもが、「井川遥ってこんな役もやるんだ」とか「こんな井川遥、見たことない」といった感慨を抱かせるのである。なかでも、堺雅人と共にW主演を務める『平場の月』は、ドキリとするほど“ミドルエイジの実情”にいろいろな側面で踏み込んだ意欲作かつ感動作であり、井川演じる須藤の佇まいからは“挑んだ”感も感じられた。

日本を牽引する映画監督作に次々と出演し存在感を発揮

思い起こせば、映画初出演にして主演作『目下の恋人』(02)で、すでにその好演は高く評価されていた。妊娠するも、DJの恋人との子どもか愛人である既婚男性との子どもかわからないなか、愛を渇望して揺れる女性を繊細に演じ、早くもグラビアアイドルから脱皮し本格的な女優として認知されるように。青木ヶ原樹海を舞台にした4つのエピソードからなる『樹の海』(04)では、元ストーカーで駅の売店員をしながらひっそりと生きる女性を演じ、日本映画批評家大賞を始め複数の映画賞で助演女優賞を受賞するなど順調に実績を重ねる。さらに翌年2006年には、朝ドラ「純情きらり」で個性豊かな3姉妹の次女としてヒロインの宮崎あおい扮する妹を思いやる女性を好演し、その人気を全国のお茶の間へと広げた。

また、黒沢清の『トウキョウソナタ』(08)、西川美和の『ディア・ドクター』(09)、青山真治の『東京公園』(11)など、日本映画界を牽引する作家たちの作品でもキラリと光る存在感を示してきたことにも、改めて気づかされる。そんな井川自身が、「それまで演じたことのない役」と語ったのがドラマ「流星ワゴン」だ。重松清の原作を読んだファンは、「夫婦関係に倦怠した、あの古女房を井川遥が演じるのか?」と衝撃を受けたに違いない。もちろん、そこは地上波ドラマ、かつ井川のイメージが損なわれすぎる判断も働いたか、衝撃的な設定には変更が加えられている。とはいえ“夫婦のすれ違い”で大きな孤独を抱える妻、美代子を、複雑でリアルな情感を湛えて演じ、むしろ世の女性たちの共感を誘った。ちなみに夫役は西島秀俊。

その後、本人役でカメオ出演したドラマ「拾われた男」では、“癒しキャラ”を求められすぎるゆえの苦悩やストレスをコミカルに演じてみせた井川。もしかするとそのあたりから、再び女優として体当たりできる役を求めていたのかもしれない。そんな予感をさせながらも、ドラマ「持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲」では、ヒロインの父親が恋をする整形外科医を好演し、“世間が求める理想の女性像”をやっぱり魅力的に体現。続く、草なぎ剛演じる主人公の妻を演じた「罠の戦争」では、置かれた場所から一歩踏みだす女性を華麗に演じた。

2025年、進化して再び開花した井川遥の魅力

そうしていよいよ2025年、咲き誇るように満開状態に!韓国映画『テロ,ライブ』(13)をリメイクしたリアルタイムサスペンス『ショウタイムセブン』では、主演の阿部寛が演じる元人気キャスター、折本の盟友である記者を颯爽と演じた。生放送中に爆弾犯との交渉に臨む暴走しがちな折本や、いろいろな思惑が錯綜してみなが浮足立つなか、唯一、地に足を付けて真実を炙りだそうとする記者を、肝の据わったカッコよさと重みを感じさせる演技で魅せ、作品をキュッと引き締めた。

井川演じる母の由美子。家庭よりも仕事を取った夫、初(遠藤憲一)に愛想を尽かす(『見はらし世代』) [c]2025 シグロ/レプロエンタテインメント
井川演じる母の由美子。家庭よりも仕事を取った夫、初(遠藤憲一)に愛想を尽かす(『見はらし世代』) [c]2025 シグロ/レプロエンタテインメント

また、今年のカンヌ国際映画祭監督週間に、当時26歳の団塚唯我が日本で史上最年少監督として選出され、高い評価を得て注目を集めた『見はらし世代』では、仕事優先で家族をおざなりにする夫に対する不満と孤独に苛まれる妻で二人の子を持つ母親役を担った。子どもの前で気丈に振る舞いながらも、空虚を抱えたぼんやりした様子がリアルで、どこか漂う危うさが観る者をハラハラとさせ惹きつける。彼女は前半で亡くなってしまうのだが、その不在はその後の家族に強烈な影響を及ぼすことに。物語の主軸は疎遠になってしまった父親と二人の子どもたちの関係ではあるが、その妻/母の存在感は最後まで引っ張られる(なぜかは観てのお楽しみ)。最後には、すすり泣きを誘うほどに。夫を演じるのは遠藤憲一。

井川が新興宗教にハマる母に扮する『アフター・ザ・クエイク』 [c]2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ
井川が新興宗教にハマる母に扮する『アフター・ザ・クエイク』 [c]2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ

村上春樹の連作短編小説「神の子どもたちはみな踊る」をドラマ化した「地震のあとで」と物語を共有し、同作に新たなシーンを追加&再編集した『アフター・ザ・クエイク』。本作では、原作タイトルと同じ一篇、2020年のエピソードに登場。新興宗教にハマりこみ、息子の善也(渡辺大知)を“神の子”として育て上げようとした母親を演じている。

かつて初恋だった男女が、大人になって再び惹かれ合う

それぞれ伴侶と別れたのち、地元で再会する青砥と須藤。同級生の2人はやがて惹かれ合うように(『平場の月』) [c]2025映画「平場の月」製作委員会
それぞれ伴侶と別れたのち、地元で再会する青砥と須藤。同級生の2人はやがて惹かれ合うように(『平場の月』) [c]2025映画「平場の月」製作委員会

そうしてついに『平場の月』である。中学時代の同級生、青砥健将(堺雅人)と須藤葉子(井川)が再会。青砥は離婚して、須藤は夫と死別したあとにいろいろあって地元に戻って来た。互いの身の上話や人間ドックの話題やらで意気投合した二人は、気の置けない飲み友に。やがて“実は初恋同士だった”二人は惹かれ合っていく――。

互いを中学時代のままに「青砥」、「須藤」と苗字呼びする、そのぶっきらぼうさが逆にキュンとさせる。ようやく互いの初恋相手、そして心の奥底にずっと居続けた相手とめぐり合えたのに、苛酷な運命が襲い掛かり…。そこからが、また味わい深い。大人だからこその寄り添い方と、大切な相手だからこその判断と。しかも現代劇のラブストーリーで主演を務めるのは初という堺との組み合わせ。これまた新鮮さもあいまって、驚きと感動がさざ波のように尽きることなく押し寄せる。これ以上は野暮なので、二人の恋の行方は各人が劇場で体感し堪能して欲しい。

お互いのこれまでを明かす2人(『平場の月』) [c]2025映画「平場の月」製作委員会
お互いのこれまでを明かす2人(『平場の月』) [c]2025映画「平場の月」製作委員会

相変わらずの美しさと透明感を損なわずして、リアルな大人の女性の実情やその姿で強い共感を呼び寄せる『平場の月』の井川遥。彼女自身の代表作にして、また、大人の恋愛映画として長く記憶されるに違いない。そうして自由に羽ばたき始めた井川の新たなる快進撃の行く先を、注目しないわけにはいかないのである。

文/折田千鶴子

※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」、草なぎ剛の「なぎ」は弓へんに前+刀が正式表記

元記事で読む
の記事をもっとみる