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映画『金髪』岩田剛典×坂下雄一郎監督 立ち位置と評価の関係「確固たるものを持てると無敵になれる」【独占インタビュー】

  • 2025.11.15

岩田剛典が、自分がおじさんになったことに気づいていない中学校教師・市川を演じる映画『金髪』。その設定とともに、「よりによって自分のクラスでこんなことが起きるとは、今月の私のサービス残業の時間を教えてあげたいくらいだ」とトレーラーでも流れる岩田の心の声・高速しゃべりが痛快だ。市川は彼女・赤坂(門脇麦)から「正直、そこまで若者じゃない。おじさんになってきてるのに、おじさんじゃなくて、若いふりして受け入れられてないっていうのがなんか見てらんないんだよね」と現実を突きつけられ狼狽する。そんなシュールな応酬や展開が続き、市川が自分と向き合う物語だ。

その一挙手一投足にほくそ笑みながらも、「明日は我が身」と突き付けられもする本作。今の自分自身が「見てらんない」立ち居振る舞いをしていないか戦々恐々としてしまい、脚本も書いた坂下雄一郎監督からのメッセージとして胸に刺さる。

FILMAGAでは、大人になりきれない痛さをはらむ市川を絶妙に演じた岩田&経験即からくる様々なことを脚本につめこみ、岩田に託した坂下監督の二人にインタビューを実施。撮影の裏話とともに、二人の「自分の立ち位置の確かめ方や気づき方」についても話してもらった。

岩田:監督とツーショットは初かもしれないですね!

坂下監督:そうですよね。よろしくお願いします。

ぜひよろしくお願いいたします。岩田さんが演じる市川が痛快でした。役はすんなりつかめたのでしょうか?

岩田:取材を受けていると、記者の皆さんから「市川を演じたのが意外!」みたいな声をいただくことが多いんです。けど、自分としては意外とすぐに演じるイメージがついていました。僕も表には出さないだけで、市川のような心の声はあったりします。本音と建前のような部分も共感できるし、「わかるな~」と思うこともありました。作品の大筋の狙いたい方向性みたいなことは、脚本を読んで想像できていたと思います。

坂下監督は岩田さんと初タッグです。どのような印象があり、期待を持ちオファーとなったんですか?

坂下監督:まずは「市川役に岩田さん、いいと思います」と推薦いただいたんです。プロデューサーが『死刑にいたる病』で岩田さんとご一緒していて、その演技がとても素晴らしかったので、というところからでした。

『死刑にいたる病』(白石和彌監督)のときとはまったく違う役どころですよね(笑)。

岩田:全然違います(笑)。

坂下監督:「今回もハマると思います」と。岩田さんの当初のイメージは、本当に一視聴者として見ていただけなので、ダンスやアーティストなどいろいろな分野をやられていますし、いわゆる好青年的で笑顔が爽やかな人だと思っていました。でも、意識して見るようになったとき、何となく笑顔の裏というか、中身の得体の知れなさみたいなものを少し感じた気がしたんです。『金髪』の内容的にも、外面での振る舞いと内面のギャップがあるキャラクターなので、ちょっとこれはハマるかもしれないと思っていました。それで「お願いしてみたいです」と伝えた感じでした。

岩田:いやあ、ありがとうございます。

得体の知れなさを感じられた、岩田さんがお話されていた心の声が少し透けて感じられたんでしょうか?

坂下監督:実は心の中では何を考えているのか、ちょっと掴みどころがないイメージが出てきました。

岩田:ああ~。

坂下監督:そういう部分は、このキャラクターと重なるところもあるかもしれないと思っていましたね。

坂下監督について物静かな印象を受けていますが、現場ではどのように演出をされていたんですか?

岩田:最初ホン読みをした後に、もう1回板緑役の白鳥(玉季)ちゃんと、この作品の芯になるような市川と板緑の会話の部分だけ、何パートかリハーサルを重ねたんです。そのときにやっぱりコメディというのもあり、シーンを作る上でのテンポや台詞回しをすごく重要視していらっしゃることを、お話いただきました。だから、その時点で作品のテイストも、着地点みたいなものも、僕らもイメージしやすくなりました。実際、現場に入ってみて、動きを「ああしてください」と言われたことはなかったです。

岩田さんの持ってきたままと言いますか。

岩田:そう、持ってきたまま。もちろん現場で変えることもありましたけど、「全然違う」みたいなことはない印象でした。スムーズに淡々と進んでいった感じがしますよね。

坂下監督:そうですね。基本、僕はあまり現場ではそんなに言うタイプではないんです。そもそも演技が達者な方に来てもらっていることが多いので。岩田さんがお話したように、ホン読みやリハーサルでやっていただいて、ある程度方向性みたいなものは決まりつつあったと思います。あとは現場で、ちょっと違うかなというのを微調整くらいでした。

坂下監督は脚本も書いていらして、だからこそ岩田さんに「こんな感じでお願いしたい」など、お話されたのかと想像していました。そうではなかったんですね。

坂下監督:具体的には、ないと思います。今回のシナリオではあらかじめ「このとき、この人物はこう思っています」というような補足情報を、自分なりにちょっと多めに書いていたんです。シナリオは基本的に映らないことは書いてはいけない、みたいなルールのようなものもあるんですが、僕は現場で無口なほうだったりするので、補足という形で先にいろいろと伝えておきたいなと思い、事前に書いて読んでもらいました。

それは岩田さんにとってすごく助けになりましたか?

岩田:おかげで迷わなくて済みました! でも、そういう思いで書かれていたんだというのを、今知りました(笑)。

ちなみに、印象的な市川の心の声、トレーラーでも見られる高速しゃべりがありますが、あれらはどう出来上がっていったんですか?

坂下監督:撮影の前にガイド用として仮で録ってはいて、そのときに何となくスピード感を決めて、やっていただいた感じでした。「なるべく早くしゃべってください」と(笑)。

岩田:そうですね。監督のイメージを共有していただいて、「なるべく早くしゃべろう!」という思いでやっていました(笑)。

共感度が高く演じられていたという岩田さんですが、特にリアルだなと共感しながらやられていた場面はどこでしたか?

岩田:おじさんの、でかいくしゃみ(笑)。みんなが思うことですよね。けど意外とそれを風刺する映画の1シーンは、観たことなくないですか? だからこそ、あれは思わず笑っちゃいました。あと、若者の群衆の中に市川が突っ込んでいくシーンがありますよね。あれはいまだに、どういうところで着想を得て監督が撮ろうと思ったのか、気になるので聞きたいです(笑)。あんな人、います? どーんと突っ込んで、気にせずそのまま歩いて行っちゃうみたいな。

坂下監督:ネットニュースで「ぶつかりおじさん」の問題がありましたよね。それに着想を得たんです。

岩田:あ~!そういうことなんだ! やばいやつですね(笑)。面白い。

坂下監督:前に邪魔な人がいてよけたくない、みたいなやつです。道もふさがれているし、こっちは悪くないからぶつかってちょっとどかしてやろう、みたいな。ぶつかりおじさんは、文字通りおじさんなので、男性で、あまり若者というイメージもない気がしたんです。ちょっとだけ通ずるものがあるのかなあと。

それを非常にナチュラルに岩田さんがやられていたという。

岩田:いやあ、坂下さんはアンテナの張り方がやっぱりすごいですね。面白いなあ~。

坂下監督:ネタ帳みたいなものはないんですけど、今回のキャラクターを考える上で、世の中でおじさんたちの発言が炎上したり、普段の生活でも「ちょっとどうなの?」みたいなことを言っているのを聞く機会が企画開発の期間によくあって。そういうのを見ているときに、その人たちは炎上したくて言っているわけではない。無意識、何だったらうける、面白がられると思って言っているんだろうなと思ったんです。ということはもしかしたら、どれだけ気をつけても自分にもそういう時期がきてしまうかもしれない、と思ったんですね。無意識に自分が言ってしまうかもしれない恐れみたいなものが、根底のテーマになっています。そこからくしゃみとか、ぶつかること、若い頃聞いていた音楽を語っちゃうなどなど、考えていきました。

まさに、そのテーマにつながるところの質問です。市川は今回の事件や恋人のつっこみによって自分の立ち位置を理解し受け入れることができましたが、通常なかなか自分の立ち位置がわかるようなことは難しいと作品を見て痛感します。お二人は周囲や世間との温度差について、どう判断したり自分を改めたり見極めたりしていますか?

岩田:表舞台に出る人間は、結局どうしても第三者の評価で自分の立ち位置が決まったりするし、それがすべてみたいなところもあるんです。この世界は浮き沈みがすごく激しいので、いいときもあれば悪いときもあるのが普通なんですよね。そういう中にいると、自分の存在意義みたいなことをすごく悩むことが、僕に限らず皆さんあると思うんです。例えば、このままでいいのかとか、方向性とか、いろいろなことを。

そうなると、人の評価ばかりを気にして本当の自分を見失いそうにもなるんですけど、今の年齢だからこそ感じるのは、自分の気持ちや心がときめく瞬間はこの業界に入るきっかけになったはずだし、そこに答えがあると思っています。数値化されたものだけで、自分の立ち位置が決まっていくんじゃないと。自分の人生の価値観、自分がときめくものはこれなんだ、これに対して自分は自信を持って生きていくんだと、自分の心の中で持てると表舞台に立っているときは無敵になれるというか。人が何て言おうと、俺が好きだからやっているし、俺がやりたくてやっているしとなれるので、自分を嫌わずに済むのがあると思います。

一個、確固たるものを持っていると、そう思えるのですね。

岩田:立ち返れる、というのかな。もちろん他人が決める評価で実際キャリアは決まっていきますけど、困ったときや悩んだときは、そもそも自分は何なのかと知っている人のほうが立ち直れるし、立ち返れるし、自信を取り戻せるのがあると僕は思っています。

一方、プライベートでは岩田さんご自身、市川的な視点で言うと自分はおじさんなのか、そうでないのかは、どう感じていますか?

岩田:僕らの仕事は特殊だと思います。だから正直言って、あまりおじさんと思っていないんです。おじさんと思っちゃうと、きっとおじさんになっていくんですよ(笑)。おじさんっぽい発言をしていくわけで、おじさんっぽく出てくるでしょ、するとおじさんのイメージになってくる。自分でイメージを作っている結果になると思うので……僕は今のところはそういうブランディングをしていないです(笑)。言っていないし、本当に思っていないし、という感じです。

プライベート・仕事など関係なくそう思われるんですね。

岩田:「僕、おじさんなんで」と言うと、それはおじさんの始まりですからねえ。おじさんと言うと、関わらなくていいので守れるじゃないですか。それをやると死ぬまでずっと言い続けることになるので、今はそっち側に行くか、行かないかの瀬戸際です(笑)。

坂下監督は、テーマに関していかがでしょうか?

坂下監督:監督という立場は、権力を持っていると錯覚しがちなポジションだと思うんです。権力構造ではないですけど、撮影では自分が「こういうものをやります、こういう風にしてください」と言って、どんどんみんなが動いていくので。油断すると、ちょっと自分が偉くなっているかのように思ってしまうポジションなので、そうじゃないぞ、と。勘違いをすると、立場を利用したことに繋がってしまうのではないかと思うので、気をつけるようにはしています。心がけるしかないんですが、いつも不安に思いながらやっています。

岩田:いやいや、坂下さんはそんな感じのタイプじゃないですよね! 僕が言うのもなんですけど、大丈夫です(笑)。

坂下監督:いやあ、気をつけます。

最後に、FILMAGAは映画好きが集まるメディアです。お二人が最近観て印象に残った作品は何でしょうか?

坂下監督:この夏に公開されていた大作の中では、一番良かったのは『ジュラシック・ワールド/復活の大地』でした。

岩田:えー、本当ですか! 少し携わっているので、うれしいです(※日本語吹替版キャスト:ヘンリー・ルーミス博士を担当)。僕はこの夏は『国宝』になるかもしれない。これだけ話題になっているので、遅まきながら最近ようやく観に行ったんです。観客もぱんぱんで、びっくりしました。長さを感じないぐらい見ごたえがありました。とにかく画が綺麗だったなあ。様々なテーマと要素を入れている作品で、すごく考えさせられました。

(取材、文:赤山恭子、写真:You Ishii)

映画『金髪』は、2025年11月21日(金)全国公開予定。

出演:岩田剛典、白鳥玉季、門脇麦
監督・脚本:坂下雄一郎
公式サイト:https://kinpatsumovie.com/
(C) 2025「金髪」製作委員会

※2025年11月14日時点の情報です。

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