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物語は実体験から生まれた?キーワードで細田守監督作品の“現実性”と魅力をひも解く【スタジオ地図「A to Z」連載第4回】

  • 2025.11.15

『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)、『未来のミライ』(18)、そして『竜とそばかすの姫』(21)。これまでに国内外の数々の賞に輝き、日本のみならず世界中の観客を魅了し続けているアニメーション映画監督、細田守。そんな細田監督が“生きる”という壮大なテーマに挑んだ最新作『果てしなきスカーレット』が11月21日(金)に公開される。

9歳でバケモノの世界に迷い込み、熊徹から「九太」と名付けられた少年(『バケモノの子』)

MOVIE WALKER PRESSでは、スタジオ地図の作品の魅力をA~Zのキーワードからひも解き、細田監督のこだわりと哲学に迫る連載を5回にわたりお届けする。アクションや入道雲など、細田作品の世界観を象徴する要素にフィーチャーした第1回、家族や成長、ヒロインの姿をテーマに解説した第2回、騎士やロケーション、師弟関係といった物語を支える舞台と人物の関係に迫った第3回。今回となる第4回では、個人情報や実体験、口げんか、脚本をキーワードに、細田守監督がどのように“現実”を物語に落とし込み、キャラクターのリアリティを生み出しているのかをひも解いていく。この連載を読みながら、『果てしなきスカーレット』の公開を心待ちにしてほしい。

P…Personal Information【個人情報】

『バケモノの子』の九太の本名は蓮。だが熊徹に名前を訊かれた時、「個人情報だから」と拒み、年齢が9歳だから、との単純な理由で熊徹から九太と命名された。

9歳でバケモノの世界に迷い込み、熊徹から「九太」と名付けられた少年(『バケモノの子』) [c]2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
9歳でバケモノの世界に迷い込み、熊徹から「九太」と名付けられた少年(『バケモノの子』) [c]2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

この個人情報が流出する危険性というテーマは、インターネット世界を題材とした『サマーウォーズ』と『竜とそばかすの姫』で強く打ち出されている。『サマーウォーズ』では仮想空間<OZ>のセキュリティによって守られていた個人情報が、ハッキングAIであるラブマシーンに乗っ取られる。『竜とそばかすの姫』では、竜というアバターの正体が虐待を受ける少年・恵であることを主人公・すずが知り、彼女は恵を守るためにアバターであるベルの状態から、自らの素顔を仮想空間<U>で公開する。この勇気ある行動は、個人情報を晒すことのリスクと背中合わせだ。細田監督はデジタル社会における個人情報の在り方やプライバシー、あるいは匿名性の功罪について問い直し、現代的な問題を浮き彫りにしている。

すずは少年の恵を守るため、自ら素顔を仮想空間<U>で公開する(『竜とそばかすの姫』) [c]2021スタジオ地図
すずは少年の恵を守るため、自ら素顔を仮想空間<U>で公開する(『竜とそばかすの姫』) [c]2021スタジオ地図

R…Real Experience【実体験】

細田守作品には監督自身の実体験を反映したパーソナルな側面が色濃くある。例えば、親戚の大家族に触れ合ったことが、『サマーウォーズ』の栄おばあちゃんを中心とする大家族の設定につながった。また結婚後、周囲に子育てする友人が増えたことで『おおかみこどもの雨と雪』が生まれ、男の子が誕生したことで『バケモノの子』や『未来のミライ』に結実した。

大家族の長で、夏希の曾祖母である栄おばあちゃん(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
大家族の長で、夏希の曾祖母である栄おばあちゃん(『サマーウォーズ』) [c]2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

個人的な日常の変化…つまり自分史の変遷を映画作りに込める細田監督。それゆえ彼のアニメーションには世界中のどこでも起きている、等身大の生活者としての実感が備わるのだ。

Q…Quarrel【口げんか】

いきいきした会話も細田守作品の魅力。『バケモノの子』では師弟関係にある熊徹と九太が何度も激しく口げんかするが、2人のテンポの良い掛け合いは、むしろ熱い絆を感じさせるものだ。最初に熊徹が九太を気に入ったのも、九太がひるまず言い返したから。各所の賢者を訪ねる旅でも、2人の口げんかは相変わらずで、「おまえたち、いがみ合う体力だけは尽きないな…」と百秋坊に呆れられる。

熊徹と九太は常にぶつかり合いながらも、強い絆を育んでいく(『バケモノの子』) [c]2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
熊徹と九太は常にぶつかり合いながらも、強い絆を育んでいく(『バケモノの子』) [c]2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

細田作品における口げんかは、登場人物の生々しい感情や本音の発露そのもの。『サマーウォーズ』では陣内家の親戚たちが意見をぶつけ合う場面があり、『未来のミライ』では幼いくんちゃんが家族に対して不満をぶつける。こうした口げんかは、単なる対立や確執ではなく、関係性の再構築や絆の確認につながるものとなる。『果てしなきスカーレット』で、率直に怒りや葛藤を言葉として表出するスカーレットの姿も然り。細田作品では言葉の応酬に人間らしさが宿っており、感情のぶつかり合いを通じてキャラクターの奥行きを表現しているのだ。

率直に怒りを表出する王女、スカーレット(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図
率直に怒りを表出する王女、スカーレット(『果てしなきスカーレット』) [c]2025 スタジオ地図

S…Scenario【脚本】

『時をかける少女』と『サマーウォーズ』の脚本は、実写とアニメーションの垣根を超えて活躍する脚本家、奥寺佐渡子が手掛け、『おおかみこどもの雨と雪』は細田と奥寺の共同脚本である。ちなみに初期短編の『デジモンアドベンチャー』(99)『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(00)2作の脚本は吉田玲子が担当した。

細田守と奥寺佐渡子が共同脚本を務めた『おおかみこどもの雨と雪』 [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
細田守と奥寺佐渡子が共同脚本を務めた『おおかみこどもの雨と雪』 [c]2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

そして『バケモノの子』からは、細田監督が脚本を執筆するようになる。当初「僕にとっても修行のつもりでした」と細田監督は語っていたが、以降も『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』『果てしなきスカーレット』と、すべての物語をオリジナル脚本で制作している。

細田守が監督・脚本を務めるスタジオ最新作『果てしなきスカーレット』 [c]2025 スタジオ地図
細田守が監督・脚本を務めるスタジオ最新作『果てしなきスカーレット』 [c]2025 スタジオ地図

T…Triennially【3年ごと】

細田守監督は14年間勤めた東映アニメーションを退社して、独立してからの長編第1作『時をかける少女』は2006年公開されて以降、ちょうど3年ごとのスパンで新作を発表し続けてきた。2009年に『サマーウォーズ』、2012年に『おおかみこどもの雨と雪』、2015年に『バケモノの子』、2018年に『未来のミライ』、2021年に『竜とそばかすの姫』を公開してきた。このサイクルは意識的に取られたものなのか?ともあれ創作ペースの安定ぶりには驚かされる。

『果てしなきスカーレット』の制作背景には、世界各地で起こった戦争や不穏な社会情勢がある [c]2025 スタジオ地図
『果てしなきスカーレット』の制作背景には、世界各地で起こった戦争や不穏な社会情勢がある [c]2025 スタジオ地図
『果てしなきスカーレット』は11月21日(金)公開 [c]2025 スタジオ地図
『果てしなきスカーレット』は11月21日(金)公開 [c]2025 スタジオ地図

文/森直人

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