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「ひとりぼっち」の年末年始も怖くない。禅僧・枡野俊明さんが教える「禅」と心の拠り所の作り方

  • 2025.11.15

「ひとりぼっち」の年末年始も怖くない。禅僧・枡野俊明さんが教える「禅」と心の拠り所の作り方

今回の相談は、30代で離婚してひとり暮らしをしてきたという女性。自分の好きなようにできる生活が気に入っている一方、世の中が華やぐ年末年始に強い孤独を感じるそう。孤独との向き合い方について、禅僧・枡野俊明さんに伺いました。

門を開けば

「開門福寿多(門を開けば福寿多し)」
自ら門を開くことで福を招き入れようという禅の言葉です。

今回は「世の中が華やぐ年末年始に強い孤独を感じる」という方からの相談です。枡野さんのアドバイスは?

<今月のテーマ>
「たまに、強い孤独を感じます。」

30代で離婚して、ひとり暮らしで子どもはいません。収入は多くないながらも、何とかやりくりはできていて、少しは蓄えができました。普段は、自分の好きなようにできるこの暮らしが気に入っているのですが、街が賑やかになる季節など、たまにどうしようもなく孤独を感じることがあります。

ひとりぼっちではない もうひとりの自分がいる

30代で離婚を経験され、それからずっと自分の人生をご自身で支え、生きてこられたのですね。文面からもその自負と満足感が伝わってきます。

ひとりで生きるのは自由で、楽しいことも多かったことと思います。一方で、ときにたまらなくさびしくなる気持ちも、人間として当たり前の感情ではないでしょうか。

特にクリスマスや年末年始は家族で過ごす人も多いため、「自分はひとりぼっちなんだ」と痛感する……そのお気持ちはとてもよくわかります。でも、あなたはけっしてひとりではありません。

「把手共行」という禅語があります。手に手をとって、ともに歩いていくという意味です。心の拠り所のような存在をあらわす言葉でもあります。

相談者さんは「私にはそんな相手はいない」と思うかもしれませんが、そうではありません。手を取りともに歩く相手は、自分自身です。

誰しも心の奥底には、一点の曇りもない清らかな心があるのです。禅ではこれを「本来の自己」と呼びます。意識するしないにかかわらず、私たちはずっと「自分の心」と一緒に生きてきたのです。そしてこれからは、ことあるごとに「自分の心」に問いかけ、対話し、生きていくことをおすすめします。そうすれば、自分はけっして孤独ではないと気づくことでしょう。

一人であっても一人ではない——の考え方は仏教には常にあるものです。四国のお遍路さんの菅笠(すげがさ)や白衣(びゃくえ) には「同行二人(どうぎょうににん)」と書かれていますが、これは「私は一人ではない。弘法大師とともに歩いている」という意味です。

心の中にはいつも弘法大師がいると思えば、お遍路の旅もさびしくないし、怖くないと思えるのです。

心に問いかけながら自分らしい答えを探す

私たちの人生の旅も同じです。「自分の心」という相棒と手を取り合って、語りかけながら日々を過ごしていけばいいのです。

たとえば夜眠る前に、「今日はこんなことがあって楽しかった。ありがとう」と声に出して話しかけてみてはいかがでしょう。あるいは「あのとき自分はこういう行動をとってしまったけれど、あれでよかったのだろうか」と問いかけてみると、「次はこうしたほうがいいね」と自分の中で自然に答えが出てくるかもしれません。ときには「いや、私は悪くなかったよ。気にしなくても大丈夫」と慰めてくれるかもしれませんね。

声に出すのではなく、日記のようなものをつけるのもいいと思います。一日を振り返り、よかったことも悪かったことも書いてみて、検証する。そういう習慣をつけることで「自分の心」はより身近になっていくはずです。

それまで気づかなかった自分の、新たな面を発見することもあるでしょう。この古くて新しい相棒と、どうぞ仲よくなってください。

把手共行——はしゅきょうこう

手をとり合ってともに歩いていくのは
心の奥底にある一点の曇りもない自らの心。
本来の自分は、ずっとそばにいます。

ひとりだから楽しめる年末年始の過ごし方も

12月や1月になると孤独を感じる、ということですが、ふさぎこんでいてはもったいないと思います。自分の心と「同行二人」で出かけましょう。

この季節はイベントも多いので、気になるものをのぞいてみるといいですね。イルミネーションを見に行ったり、年末年始の街の風景を眺めたりしてみませんか。コロナ禍が明け、除夜の鐘撞きを一般に開放しているお寺もあります。順番待ちの長い列に並ぶのも、ひとりだからこそ気軽にできるかもしれません。

逆に、「何もしない」と決めるのもよい選択だと思います。私たちの日々は、常にやるべきことに追われています。世間があわただしく動いているこの時期に、あえて何もしない。やるべきことから解放されて過ごすのです。「世の中は大変そうだけど、私たちは自由だね」と、心に語りかけながらのんびり過ごすのはいかがでしょうか。新年を迎えたら、ぜひとも初詣にお出かけください。身体健全の御祈祷をしてもらうのもいいと思います。

日本に住んでいれば、たいていの場所に寺や神社があります。頻繁に催しをしている寺社もあるでしょう。年齢を重ねて遠くまで出かけられなくなっても、身近な場所で心を清め、祈りをささげることはできるのです。

今年もまた新しい年を迎えることができたことへの感謝をこめて、参拝しましょう。清らかな心とともに。

アドバイスいただいたのは

枡野俊明さん
曹洞宗徳雄山 建功寺住職
1953年神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山 建功寺第18世住職。庭園デザイナー。多摩美術大学名誉教授。「禅の庭」を通して国内外から高く評価され、2006年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に。『悩みを手放す21の方法』(主婦の友社)など著書多数。

取材・文/神 素子

※この記事は「ゆうゆう」2025年12月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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