1. トップ
  2. 舘ひろし×藤井道人監督の再タッグ作は「想像の50倍よかった」…誰かのために生きる男を描く『港のひかり』が観客の心に刺さる理由とは?

舘ひろし×藤井道人監督の再タッグ作は「想像の50倍よかった」…誰かのために生きる男を描く『港のひかり』が観客の心に刺さる理由とは?

  • 2025.11.13

日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した『正体』(24)をはじめ、『余命10年』(22)など意欲作を次々と発表してきた藤井道人監督が、名キャメラマンの木村大作と初タッグを組んだ『港のひかり』(11月14日公開)。北陸の港町を舞台に、過去を捨てた“元ヤクザ”の男と目の見えない少年との十数年にもわたる友情を描きだす。

【写真を見る】舘ひろし&眞栄田郷敦が、尾上眞秀を優しいまなざしで見つめる東京プレミアの一幕

今回MOVIE WALKER PRESSでは、公開に先駆けて本作の試写会を開催。参加者から「圧巻!あっという間の2時間でした」(50代・女性)、「想像の50倍よかった」(40代・男性)、「善悪の本質に迫った作品」(50代・男性)、「ハイライトが何度もある感動作」(40代・男性)など絶賛の声が相次いだ作品の魅力を、感想コメントとあわせてひも解いていく。

「声のトーンでいろいろな気持ちを表現していた」…舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀らの存在感

元ヤクザの三浦は、日本海の小さな漁村で漁師として細々と暮らしていた。そんなある日、同級生たちに笑い者にされる少年、幸太を見かける。弱視を患う幸太は両親をヤクザ絡みの事故で亡くしており、引き取り先の環境も最悪な状態。孤独な幸太に自分を重ねた三浦は、彼と交流を重ね、しだいに友情を深めていく。自分のことを一人の人間として接してくれる幸太に救われた三浦は、彼の目を治療するためヤクザの金を盗み、刑務所へ収監される。なにも知らずに目の治療を受けた幸太は、一通の手紙を残して遠くへ行ってしまった三浦の姿を見ることなく、孤児院へ入所するのだった。

元ヤクザの漁師・三浦と目が見えない少年・幸太、孤独者同士の2人は絆を築く [c]2025「港のひかり」製作委員会
元ヤクザの漁師・三浦と目が見えない少年・幸太、孤独者同士の2人は絆を築く [c]2025「港のひかり」製作委員会

主演の舘ひろしは、多くを語ることはないが、憂いを帯びた佇まい、所作の一つ一つから三浦の人となりや苦悩を唯一無二の存在感で体現。『ゴールデンカムイ』(24)でも舘と共演している眞栄田郷敦が幸太の青年期を、少年時代の幸太を本作が映画デビュー作となる尾上眞秀が演じており、三浦を真っ直ぐに慕い続ける姿を自然体で表現し、観客の目に焼き付ける。感想コメントで特に多く見られたのも、彼ら3人に言及する言葉だった。

「舘さんの全体を通しての演技に惹きつけられました」(50代・男性)

「(互いに呼び合うシーンでは)声のトーンでいろいろな気持ちを表現していた」(50代・女性)

「幸太の子ども時代、そして大人になってからの目がとても印象的でした」(50代・女性)

「少年時代の幸太への温かい眼差し、ヤクザから足を洗ったけれどどこか寂しげなところ…ただただ舘ひろしがかっこいい」(50代・女性)

「眞秀くんの演技に心が洗われる思いでした」(50代・女性)

「言葉にならない思いを伝え合っている」…十数年にも及ぶ歳の離れた友情に胸が熱くなる

両親を失い孤独に生きる幸太に自らを重ねる三浦は、優しい言葉をかけたり、船に乗せて海風を一緒に浴びたりと気づけば幸太のことを放っておくことができなくなる。一方の幸太も自分に優しくしてくれる三浦を“おじさん”と呼び慕うようになっていく。血のつながりはないが、彼らは揺るぎない絆で結ばれており、美しい港町を舞台に紡がれる、十数年にも及ぶ2人の想い合いが観客の心に強く訴えかけてくる。

「三浦が幸太のために人生を捧げてまで支えようとする姿に感動した」(40代・男性)

「なにも求めないで生きてきた2人にとってお互いが光だった」(50代・女性)

「孤独な2人が徐々に心を通わせていく過程がよかった」(50代・女性)

「利害も損得勘定もなく、純粋な心で結ばれたおじさんと幸太が互いを思いやる気持ちに心動かされた」(50代・女性)

特に印象に残ったシーンとして挙がっていたのが、刑期を終えた三浦が、大人になり刑事となった幸太と玄関のドア越しに向き合い、思い出のキーホルダーの鈴を静かに鳴らす姿。このキーホルダーはかつて2人で遊びに出かけた際に、幸太が三浦に贈ったプレゼント。幸太の幸せを願って二度と会わないと胸に誓いながらも、自身を訪ねてきた歳の離れた友人をそのまま追い返すことができず、鈴を鳴らすことでなにかを伝えようとする三浦の葛藤と喜びが混ざり合った複雑な心境を感じさせる。

「鈴を鳴らすシーンは、言葉にならない思いを伝え合っているようで印象に残った」(50代・女性)

「目が見えず音が頼りだった幼いころのこと、言葉はなくてもわかり合えることが伝わるすてきなシーンだった」(50代・女性)

「思い出の鈴を2人ともずっと持っていて、彼らにしかわからないやりとりで伝える姿が心に響いた」(40代・女性)

「2人にしかわからない合図のようなものが、2人の絆を表していて感動した」(40代・女性)

2人の再会シーンは、多くの観客の涙を誘った [c]2025「港のひかり」製作委員会
2人の再会シーンは、多くの観客の涙を誘った [c]2025「港のひかり」製作委員会

「伝えたいことをストレートに届ける」…葛藤する人々に寄り添ってきた藤井道人監督

港町で漁師として静かに暮らしていた三浦 [c]2025「港のひかり」製作委員会
港町で漁師として静かに暮らしていた三浦 [c]2025「港のひかり」製作委員会

藤井監督といえばこれまでに、自らの余命がわずかと知りながら懸命に生きた女性を描く『余命10年』や、現代社会におけるヤクザたちの生きづらさを捉えた『ヤクザと家族 The Family』(21)、閉鎖的な村で生きる青年が負のスパイラルから抜けだそうともがく『ヴィレッジ』(23)など、恋愛から社会派まで様々なジャンルを手掛け、困難に直面する人々の葛藤や心情の変化を丁寧に描写してきた。『ヤクザと家族 The Family』以来となる舘を主演に迎えた本作では、“誰かのために”生きようとする孤独な男、三浦の人物像を共に作り上げ、その愚直な生き様を、藤井ならではの視点でありありと映しだしている。

「藤井監督の冷静な視線が感じられる作品」(60代・女性)

「藤井監督の作品は、画面がシンプルで見やすい印象。伝えたいことがストレートに届くイメージがある」(50代・女性)

「藤井監督の作品は、長い年月をずっと追いかける作品が多い印象があります。今回フィルムで撮影したことで心のなかにあるモヤモヤや後ろめたさ、海の街ならではの湿度を感じました」(40代・女性)

両親を事故で亡くし、叔母に引き取られて孤独に暮らす弱視を患う幸太 [c]2025「港のひかり」製作委員会
両親を事故で亡くし、叔母に引き取られて孤独に暮らす弱視を患う幸太 [c]2025「港のひかり」製作委員会

コメントにもある通り、フィルム撮影であることも見どころである本作を担当したのは、これまでに『八甲田山』(77)や『鉄道員(ぽっぽや)』(99)といった名作に携わり、『劔岳 点の記』(09)など監督としても手腕を振るってきたキャメラマンの木村大作。全編35mmのフィルムカメラで撮影されたその映像美はとにかく圧巻。時に吹雪が吹き荒れる港町の体の芯まで凍えるような寒さ、三浦と幸太が食事をする居酒屋の暖かさがスクリーン越しにも伝わってくるだけでなく、2人の心情の機微までもが丁寧に捉えられている。

「フィルムで撮影されているからか、はじめのほうは懐かしく温かい感じがしたが、最後はせつなさを感じた」(50代・女性)

「ざらついたフィルムの感触が人間の情念をより感じさせてくれるような気がする」(50代・女性)

三浦を慕い、危機を知らせる大塚(ピエール瀧) [c]2025「港のひかり」製作委員会
三浦を慕い、危機を知らせる大塚(ピエール瀧) [c]2025「港のひかり」製作委員会

「不変で哲学的なメッセージを受け取りました」…誰かのために生きる“自己犠牲”の尊さ

本作が描くのは、現代社会で日に日に希薄になってきた、誰かのために生きる“自己犠牲”の尊さについて。縁もゆかりもなかった幸太の目の治療費を手に入れるため、三浦は自らの破滅も顧みない行動を起こす。成長した幸太も孤独だった自分にとってヒーロー的存在であった“おじさん”のように生きたいと願い、刑事として職務に当たっている。このような三浦と幸太の真摯な姿や想いについて、「私にはないけど、こういう生き方もあるんだな、と思った」(50代・女性)、「昔もいまも人を思いやり支え合っていくのが人間の美しさだと感じた」(50代・女性)と語る感想も確認できる。

大人になった幸太は刑事となり、麻薬捜査を担当している [c]2025「港のひかり」製作委員会
大人になった幸太は刑事となり、麻薬捜査を担当している [c]2025「港のひかり」製作委員会

「人間のなかの善と悪について考えさせられた」(50代・女性)

「自分ではなかなかできない行動だが、小さなことからなら始められるかなと思った」(50代・女性)

「誰かのために生きるとは『生きるための力』だと思う」(50代・女性)

「自分の顔は他人からしか見えないという不変で哲学的なメッセージを受け取りました」(50代・女性)

「若い世代へなにが残せるのかを考える契機に」…劇場で見届けたい強いメッセージを帯びた友情の物語

舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀らキャスト陣による重厚なドラマ、思わずスクリーンに釘付けになってしまう映像美。そして、“誰かのために生きる”という強いメッセージが大勢の心に確かな軌跡を残す『港のひかり』。最後に、試写会参加者が本作を通して受け取ったものを紹介したい。

「互いを支え合うことの重要性を受け取った」(40代・女性)

「自分もこれからの若い世代へなにが残せるのかを考える契機になりました」(40代・男性)

「今夜はゆっくり自分を見つめ直そうと思いました」(50代・男性)

「余生を捧げる実直さがよかった。子どもを抱きしめたくなりました」(40代・男性)

幸太のために罪を犯し、刑務所へ収監される三浦 [c]2025「港のひかり」製作委員会
幸太のために罪を犯し、刑務所へ収監される三浦 [c]2025「港のひかり」製作委員会

血がつながっていなくても、歳がどれだけ離れていても、確固たる絆で結ばれた三浦と幸太。そんな彼らの十数年にわたる信頼と友情の物語を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

構成・文/平尾嘉浩

元記事で読む
の記事をもっとみる