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子どもがイライラして怒りっぽい。何を疑う?診療現場での経験を精神科医飯島先生にお伺いしました

  • 2025.11.13

最近子どもの元気がない、食欲も落ち気味だし、どこかイライラしているし・・・これって最近よく聞く季節性うつ病?うつ病とどう違うものなの?そんな疑問について、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生からお話を伺いしました。

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子どものうつ病と冬季うつ病:秋冬の心の変化を見逃さないために

「最近、なんだか元気がないな」と感じたら
「朝、なかなか起きられなくなった」「好きだったゲームにも興味を示さなくなった」「些細なことでイライラして怒りっぽい」

学童期の子どもの約1~2%、思春期では2~5%がうつ病を経験するという研究報告があります。40人クラスで考えると、正式な診断基準を満たすレベルのうつ病を抱えているのは1~2人程度ですが、診断には至らない軽度の落ち込みや抑うつ気分を感じている子どもを含めると、もう少し多くなる可能性があります。

さらに、日照時間が短くなるこの時期特有の「季節性うつ病(冬季うつ病)」は、大人だけでなく子どもにも起こることが分かってきました。今回は、子どものうつ病、そして見落とされがちな冬季うつ病について、診療現場での経験をもとにお話しします。

子どものうつ病は「見えにくい」のが特徴です

「悲しい」とは言わない子どもたち
大人のうつ病といえば、「気分が沈む」「悲しい」といった感情が思い浮かびますね。ところが、子どものうつ病はまったく違う顔を見せることが多いのです。

診察室で子どもたちに「悲しい?」と聞くと、首をかしげることがよくあります。「大人はこういうとき、悲しいって言うの?」と逆に聞かれることもあるほどです。男の子の場合は「くやしい」と表現することが多く、本当は理解してもらえなくて悲しいのに、その感情を言葉にすることに慣れていないのです。

身体の症状として現れる「仮面うつ病」

「仮面うつ病」とは、気分の落ち込みなどの精神症状が目立たず、頭痛や腹痛などの身体症状が中心となるうつ病です。子どものうつ病の中でも最も見落とされやすいタイプといえます。

「頭が痛い」「お腹が痛い」「気持ち悪い」、こうした訴えで小児科を受診しても、検査では異常が見つかりません。でも、これは決して仮病ではないのです。お子さんは本当に痛みを感じています。ストレスや不安、精神疾患が身体症状として表れる「身体化(somatization)」であり、子どものうつ病では非常によく見られる現象です。
そんな子どもたちに診察室でよく確認するのが「疲れやすさ」です。

「最近、疲れを感じたり、体が重かったり、だるかったりしないかな?」
この問いかけに、多くの子どもが「いつも疲れてるしだるいよ、でもお母さんに言っても『そんなはずないでしょ』って言われるから黙ってるんだ」と答えます。この「易疲労感(疲れやすさ)」は、子どものうつ病でほぼ必ず見られる重要なサインなのです。

思春期は「イライラ」と「怒り」で表れます

9歳以降の思春期になると、うつ病の現れ方がさらに複雑になります。大人のような「悲しみ」ではなく、「イライラ」や「怒りっぽさ」として出現することが多いのです。

親の何気ない一言に激しく反発したり、きょうだいとのけんかが増えたり、物に当たったり。こうした様子を見ていると「反抗期」「性格の問題」と思われがちですが、実は脳の機能が一時的に低下している状態で、本人も「なぜこんなにイライラするのか」と苦しんでいることが多いのです。

学業面では集中力の低下が目立ちます。これまで良好だった成績が急に下がったり、提出物を忘れることが増えたりします。「やる気がない」「怠けている」と見えるかもしれませんが、本人は必死で頑張っているのに、頭が働かない状態なのです。

「頭が曇った感じ、もやもやした感じがしてスッキリしない感じはある?」

このように尋ねると、「そう!まさにそれ!」と多くの子どもが答えます。この「ブレインフォグ(思考抑制)」も、子どものうつ病を見分ける大切なサインです。

秋冬に強まる「季節性うつ病」を知っていますか

日照時間の減少が子どもの心に与える影響

秋が深まり、朝晩の冷え込みが厳しくなるこの季節。実は、日照時間の短さが子どもの心に大きな影響を与えることが分かってきました。

「季節性うつ病(冬季うつ病)」は、秋から冬にかけて症状が現れ、春になると自然に回復するうつ病です。以前は大人だけの問題と考えられていましたが、最近の研究では、9歳から19歳の子どもの約3~5%に見られることが明らかになっています。

複数の研究から、日照時間が短い時期に子どもの精神科相談が増加することが報告されています。例えば、イギリスの研究では、9月から11月にかけて、子どもの抗うつ薬の処方開始やうつ病の発生率が増加するという調査結果が示されています。

「食べて寝て」の症状が特徴的

冬季うつ病の症状は、一般的なうつ病とは少し異なる場合があります。
よく見られる症状
・異常な眠気(朝起きられない、休日は昼まで寝ている)
・食欲が増す(特に甘いものや炭水化物を欲しがる)
・体重が増える
・体が鉛のように重く感じる
・イライラしやすい
・集中力が続かない

通常のうつ病では食欲不振や不眠が見られますが、冬季うつ病では「食べて寝て」が特徴なのです。このため、単なる「怠け」「甘え」と誤解されやすく、見落とされがちです。

なざ秋冬に症状が出るのか

冬季うつ病の主な原因は、日照時間の減少による脳内物質のバランスの乱れです。

セロトニンの減少
日光を浴びる時間が減ると、気分を安定させる神経伝達物質「セロトニン」の活動が低下します。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、その不足は直接的に気分の落ち込みにつながります。

メラトニンの分泌異常
睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌リズムが乱れ、朝起きられない、日中も眠いという状態を引き起こします。

ビタミンD不足
日光を浴びることにより体内で作られるビタミンDが不足します。ビタミンDはセロトニンの働きを助ける役割があるため、その不足はうつ症状を悪化させる可能性があります。

高緯度地域、特に北米やスウェーデンなど一部の地域では季節性うつ病の有病率が多いことは以前から知られていましたが、日本でも決して珍しい病気ではないのです。

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家庭でできる「冬の心ケア」

朝の光を浴びる習慣を作りましょう
冬季うつ病の対策として最も効果的なのが「光療法」です。難しそうに聞こえますが、要は「朝の明るい光を浴びる」ということです。

朝起きたら、まずカーテンを開けて朝日を浴びる習慣をつけましょう。たとえ曇りの日でも、室内の照明(300~500ルクス程度)より屋外の自然光(曇天でも5,000~10,000ルクス)の方がはるかに明るいのです。

可能であれば、朝食後に10~15分程度、外を散歩するのも効果的です。学校の登校時に少し遠回りしたり、休日の朝に公園まで一緒に歩いたりするだけでも、体内時計がリセットされ、夜の睡眠の質も改善します。

室内の照明を明るくすることも大切です。特に朝起きてから学校へ行くまでの時間、できるだけ明るい環境で過ごせるよう工夫しましょう。最近では、冬季うつ病対策用の高照度光療法器具も市販されていますが、まずは自然光を活用することから始めてみてください。

体を動かす機会を増やしましょう

寒くなると家の中にこもりがちですが、適度な運動はうつ症状の改善に大きな効果があります。複数の研究で、運動が子どものうつ症状を軽減することが実証されています。
激しい運動である必要はありません。週に3~4回、20~30分程度、少し息が上がる程度の活動で十分です。

おすすめの活動
○親子で縄跳び
○公園でキャッチボール
○自転車でのお出かけ
○ダンス動画を見ながら一緒に踊る
○家事の手伝い(掃除機かけ、窓拭きなど)

「運動しなさい」と言うよりも、家族で一緒に楽しめる活動を見つけることが続けるコツです。運動が苦手なお子さんでも、好きな音楽に合わせて体を動かすなど、遊びの延長として取り組めるものから始めてみましょう。

食事の内容を工夫してみましょう

冬季うつ病では、甘いものや炭水化物を欲しがる傾向が強まります。完全に禁止する必要はありませんが、栄養バランスを意識することで症状の緩和が期待できます。

意識して取り入れたい食品
青魚(サバ、サンマ、イワシなど)
これらに含まれるオメガ3脂肪酸は、うつ病の治療に効果があることが研究で示されています。週に2~3回は魚を食卓に並べるよう心がけましょう。魚が苦手なお子さんには、クルミやアマニ油など、植物性のオメガ3脂肪酸を含む食品も有効です。

きのこ類、卵、チーズ
ビタミンDを多く含む食品です。日本の子どもの多くがビタミンD不足の状態にあることが報告されており、特に冬季は意識的な摂取が必要です。朝食に卵料理、給食や夕食にきのこを使った料理を取り入れるなど、少しの工夫で摂取量を増やせます。

バナナ、乳製品、大豆製品
セロトニンの原料となるトリプトファンを含む食品です。朝食にバナナと牛乳、おやつにヨーグルトなど、手軽に取り入れられます。

甘いものが欲しくなったときは、完全に我慢させるとストレスになります。「おやつは午前中か午後3時まで」「一日にこれだけ」とルールを決めて、その範囲内で楽しむ方法を一緒に考えましょう。

睡眠リズムを整える工夫

冬季うつ病では朝起きられなくなることが多いのですが、夜更かしをしている場合と、十分寝ているのに起きられない場合では対応が異なります。

夜更かしが原因の場合
就寝時刻を少しずつ早める工夫をしましょう。夕食後はブルーライトを発するスマホやゲームの使用を控え、寝る1時間前からは部屋の照明を暗めにします。温かいお風呂にゆっくり入ることも、自然な眠気を誘います。

十分寝ているのに起きられない場合

無理に早起きさせようとすると、朝のバトルが激しくなり、親子ともに疲弊してしまいます。起床時刻を少し遅めに設定し、確実に起きられる時刻から始めて、徐々に早める方が現実的です。

休日も平日と同じ時刻に起きることが理想ですが、お子さんの状態によっては、休日は1~2時間程度遅めに起きることを許容し、その代わり平日は頑張る、というメリハリをつけることも一つの方法です。

こんなときは専門家に相談を

「様子を見る」と「受診する」の境界線
「病院に行くほどではないかも」と迷う保護者の方は多いのですが、以下のような状態が2週間以上続いているなら、一度専門家に相談することをお勧めします。

日常生活への明らかな支障
◎学校を週に2日以上休む
◎宿題に全く手がつけられない
◎部活動や習い事を続けられなくなった
◎友達との約束を避けるようになった
◎朝の準備に2時間以上かかる

身体症状が続く場合
小児科で「異常なし」と言われた頭痛や腹痛が2週間以上続く
食欲不振で1か月に体重が5%以上減少した(または冬季うつ病で急激に増加した)
朝起きられず、無理に起こすと激しく抵抗する

緊急性が高いサイン
「死にたい」「消えてしまいたい」という言葉が出た
自分を傷つける行為が見られる
急に持ち物を整理し始めた
「ごめんね」「ありがとう」と何度も謝ったり感謝したりする

最後の緊急性が高いサインが見られた場合は、「大げさかもしれない」と躊躇せず、すぐに専門機関を受診してください。お子さんの命を守ることが何よりも大切です。

相談先の選び方

まずはかかりつけの小児科医へ
身体的な問題がないことを確認した上で、必要に応じて児童精神科や心療内科を紹介してもらえます。普段から見てもらっている医師なら、お子さんも緊張せずに相談できるでしょう。

児童精神科・小児心療内科・小児神経科
子どものメンタルヘルスの専門家です。待機期間が長い医療機関もあるため、「様子を見よう」と思っているうちに症状が悪化することもあります。心配なときは早めに予約を取ることをお勧めします。

受診の際は、症状がいつから始まったか、どのような場面で症状が強く出るか、きっかけとなった出来事はあるか、睡眠や食事の様子など、具体的な情報をメモしておくと診察がスムーズに進みます。

効果のある治療法があります

心理療法と薬物療法
子どものうつ病治療において、認知行動療法(CBT)は効果が実証された治療法です。複数の研究で、認知行動療法を受けた子どもの多くに改善が見られ、その効果は治療終了後も持続することが示されています。

認知行動療法では、否定的な思考パターンを見つけ出し、より現実的で建設的な考え方に置き換える練習をします。子ども向けには、ゲームやロールプレイを取り入れた楽しい形式で行われることも多く、遊びながら新しい対処法を身につけることができます。

薬物療法については、中等度以上の症状がある場合や、心理療法だけでは十分な改善が見られない場合に検討します。診療現場では、極めて少量から始めて、お子さんの状態を見ながら慎重に調整していきます。

「薬に頼りたくない」と思う保護者の方は多いのですが、うつ病は脳の機能的な問題です。高血圧や糖尿病を心理療法だけで治そうとはしませんよね。同じように、必要な場合には薬の力を借りることも、お子さんの回復を助ける大切な選択肢なのです。

冬季うつ病特有の治療法

冬季うつ病には、通常のうつ病治療に加えて、光療法が特に効果的です。医療機関では、10,000ルクスの高照度光を毎朝30分程度浴びる治療を行います。

家庭でも、市販の光療法器具(2,500-10,000ルクス)を使用できますが、使い方にはコツがあります。朝起きてすぐ、朝食を食べながら30分~1時間程度、光に向かって座ります。直接光を見つめる必要はなく、視界に入る程度で十分です。

効果は通常1~2週間で現れ始めますが、症状が改善しても冬の間は継続することが大切です。光療法の良いところは、副作用がほとんどないことと、薬物療法と併用できることです。

ビタミンD補充も、特に冬季うつ病では検討する価値があります。研究では、ビタミンDを補充した子どもで、うつ症状が統計的に有意に改善したという報告があります。ただし、過剰摂取にならないよう、医師に相談しながら適切な量を決めることが重要です。

お母さん、お父さん自身のケアも大切です

子どものうつ病と向き合うことは、保護者にとって大きな精神的負担となります。多くの保護者が、お子さんの看病による疲労やストレスを経験します。

「私の育て方が悪かったのではないか」「もっと早く気づいてあげられたら」―そんな自責の念に苦しむ保護者の方は少なくありません。でも、うつ病は誰の責任でもありません。真面目で責任感が強い保護者ほど、自分を責めてしまう傾向がありますが、どうか自分を責めないでください。

保護者が心身ともに健康でいることが、お子さんの回復を支える基盤となります。

保護者自身のセルフケア

・1日10分でも自分だけの時間を持つ
・信頼できる人に話を聞いてもらう
・趣味や好きなことをする時間を意識的に作る
・完璧な親でなくていいと自分に言い聞かせる
・必要なら保護者自身もカウンセリングを受ける

また、きょうだいへの配慮も忘れないでください。うつ病のお子さんに注意が集中しがちですが、他のきょうだいも不安や寂しさを感じています。年齢に応じて状況を説明し、「○○ちゃんは今、心の病気で苦しんでいるから、みんなで支えてあげよう」と協力を求めることで、家族の絆を深めることができます。

必ず春は訪れます 回復への希望

子どものうつ病は、適切な治療とサポートにより、多くの場合良好な回復が期待できます。研究によると、適切な治療を受けた子どもの多くが、治療開始から一定期間内に症状の大幅な改善を示すことが報告されています。

冬季うつ病については、季節の変化とともに自然に症状が軽快することも多く、春の訪れとともに本来の明るさを取り戻していきます。ただし、次の秋冬に再発することもあるため、予防的な対策を続けることが大切です。

回復の過程は一直線ではありません。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ前進していきます。時には後退したように見えることもありますが、それも回復過程の一部です。焦らず、お子さんのペースを大切にしながら、家族で支え合って歩んでいくことが大切です。

診療現場で見ていると、適切な治療を始めた多くのお子さんが、半年後、1年後には見違えるほど元気になっています。「あの頃は本当に辛かったけど、今はこうして元気に学校に通えています」と笑顔で話してくれるお子さんや、「もっと早く相談すればよかった」と話される保護者の方も少なくありません。

今は暗いトンネルの中にいるように感じるかもしれません。でも、必ず出口はあります。多くの専門家、支援者、そして同じ経験を持つ家族が、皆さんを支える準備をしています。

お子さんの「今」を受け入れ、小さな変化を見逃さず、必要な時には迷わず専門家の力を借りる。この三つを心に留めて、お子さんと一緒に、回復への道を歩んでいってください。
必ず、春は訪れます。

※記事執筆の際に、生成AIを使用しています。

執筆者

プロフィールイメージ
飯島慶郎
飯島慶郎

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック 院長
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士

島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック

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