1. トップ
  2. ファッション
  3. 「やっぱりスーパーエグゼクティブな裏方で在りたい」【スタイリスト白幡啓】styling/や今後を語る

「やっぱりスーパーエグゼクティブな裏方で在りたい」【スタイリスト白幡啓】styling/や今後を語る

  • 2025.11.10

人それぞれのベクトルへ背中を押してあげたいの!

2025年秋、スタイリスト白幡啓さんが10年間務めたstyling/のディレクターを退任されました。
オトナミューズの創刊時からずっと追い続けてきた白幡さんのstyling/への想いや今後について、今回特別に語っていただきました。

That is /[thàt ìs]とは
スタイリストでstyling/のディレクター白幡啓(インスタアカウント@1030kei)が独自の視点でファッションにまつわる気になる「アレ」を取り上げる連載。あだ名はおケイ先生。ちなみに「アレ」とは白幡さんの口ぐせ。

styling/での貴重な経験は私の大切な財産に

―― まずは10年間ディレクターとして務められたstyling/について、今の率直な気持ちをお聞かせいただけますか?
白幡さん(以下K) 100%の気持ちで新たなブランドを立ち上げたい! という想いを叶えてもらったのがジャスト10年前。感謝の気持ちを持ち続けながら進んできましたが、常に100%で期待に応えられなかったことも事実で……。styling/ファンのみなさんにも申し訳なかったと思っています。
 
―― 心に残るエピソードは?
K 写真を見返していたら、ブランドお披露目のショーでシースルーのドレスでバストが丸見えのルックを作っていて(笑)、10年経った今、なんだかごめんなさいって初めて思いました。あと、ショップのオープニングスタッフ全員の私服のコーデチェックをして「この服もう着ないでね」とかガンガン言っていたのですが、当時のスタッフから「いまだにあの衝撃は忘れられないです」と言われて。なんかごめん(苦笑)。
 
―― どんなときに苦労を感じましたか?
K 忙しいことは私のベーシックだから何ともないんだけど、日本の大手アパレル会社のルーティンやスピード感はどこに向けられているのか、セール期間が一斉に決まっていることや、売れていると言われる商品がどこも似通っているという現象にも、それを時代だと言えば仕方ないことだけど、何か違うんじゃないか? と常に葛藤はしていました。
 
―― 逆に嬉しかったことは?
K styling/の前にやっていたブランドではできていなかった、店舗でお客様へのコーディネート提案ができたことは自分の財産になる経験だったな。こんな風に着てほしいと想いを込めて作ったアイテムをパーソナルに提案して、フィッティングルームから嬉しそうに出てこられるお客様を見られたことは嬉しかったわ。
 
―― お客様に次のブランドについて聞かれませんでしたか?
K 最後にイベントに立たせていただいた際、たくさん聞かれましたが、ブランド丸っと立ち上げるというのはご時世的にも一旦やらないかな。企業やブランドからアドバイスを必要とされたらお応えしましょうかね、って感じです。
 
―― スタイリストの仕事は白幡啓の源だと認識していますが、それは大丈夫ですよね?
K もちろんですわ♥ なんてことないコーディネートに皆さんがそろそろ飽きてきているんじゃないかと思うと、ウォーミングアップは完璧です。

人をもっと素敵にしたい!私にはそれができると思う

―― ディレクターを退任され、今後はどのように考えていますか?
K 自分が本当にやりたいことは何なのか? を自分のできることと並行してたくさん考えていました。スタイリストとして30年間(怖い!)積み上げてきた能力として、コーディネートを考えるのはもちろん、今目の前にある状況を、自分の直感に従い私の手でさらにイメージに近づけること=スタイリング力も鍛えてきたと自負しています。これって、流行りのAIにもまだできないだろうと(笑)。具体的に言えば、洋服とそれを着ている人の間に生まれる隙間を、目的に向けて埋めていけるのがプロのスタイリストだと思っているの。雑誌や広告の撮影のときは俳優やモデルに対して、彼女たちがいかに自信を持って表に出られるようにするのか。店頭で接客するときはお客様に対して「この服を素敵に着こなしてほしいな」という想いからアドバイスをしたりして、無意識に使っていた技なんだよね。やっぱり関わっている以上は、こんにちは! とお会いしたときより素敵にしたいと血が騒ぐんだよね。この服をあなたのものにしてあげるってね。
 
―― 雑誌や広告でのスタイリングのほかに、一般の方に対する個人的な仕事も始めるということですか?
K 今一般の方へのパーソナルスタイリストと名乗る人も多いけどさ……私がやったほうがよくない? って(笑)。実際に私ならこんなふうにしてあげられるのに、って見ていたのよね。私は本来、人に興味があるタイプでもないんだけど(やけどしたくないから)、人見知りゆえに洞察力が発達しているのかも。
 
―― 一般の方に壁みたいなものは感じませんか?
K 全くないな。スタイリングするのって全てに目的があるじゃない? 俳優やモデルなら、こういうページを作りたいとか、この商品を宣伝したいとか、イベントに合わせて……とか。その目的って誰にでもあると思っていて。服を媒介することで、私自身人として生きやすくなっているし、何より服を通すと自分の特技が発揮できる。洋服迷子とお見受けする人たちが増えているようだし、世の中に溢れかえった情報や洋服を適材適所にディレクションするのってなんだか夢のある仕事だよね。それは、表に出ていようが出ていまいが全ての人に今必要なマッチングだと思わない? 会社やチーム全員を見てあげられたりもするし。選挙に出まーす! とかいう人の依頼とか楽しそう♥ いろいろな人の〝なりたい自分〟へ導く具体的な方法だけじゃなく、人を育てるのが好きだから、この仕事に興味がある人を育てていきたいとも考えています。
 
―― ところで、よく映画鑑賞をされているのをインスタで拝見するのですが、人生に影響しているところはあるのでしょうか?
K すごくある! 最近はただただ何度でも観たい映画もできましたが、それはまた別の機会にじっくりと話すとして(笑)。その昔、一番好きな映画は何?って聞かれたことがあって。ジャンルによってそれぞれ一番があるんだけど、そのときの質問の意図がちょっと心理学的な探りだったのね。答えた後にその種明かしをされたんだけど、人は自分がなりたい人生を描いた映画が一番好きになるんだそうで。私の答えた映画はスティーヴン・ダルドリー監督の『リトル・ダンサー』。ラストシーンでプリンシパルになった主人公が、舞台袖から光がいっぱいの舞台に翼を広げて出ていく背中を見たときに、それまでずっと彼自身の気持ちになって見ていたのが、いつの間にか彼の願いが叶うように、最高の状態を作り上げた人の気持ちになっていたの。鳥肌が立つ映画はこれを超えるものはないし、涙腺崩壊案件第一位。最後に脱線しちゃったけど(笑)、今考えて改めて思うのは、やっぱり私はスーパーエグゼクティブな裏方で在りたい。

一人でも多くの人を輝かせるスーパーエグゼクティブな裏方で在りたい
コート¥279,400(ハルノブムラタ/ザ・ウォール ショールーム)、その他は本人私物

model & styling : KEI SHIRAHATA [LOVABLE] photograph : KAORI IMAKIIRE hair & make-up : RIKA SAGAWA
otona MUSE 2025年12月号より

元記事で読む
の記事をもっとみる