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家族や住民の連帯は絆か、呪いか?『アメリアの息子たち』『女神の継承』『嗤う蟲』“つながり”が恐怖をもたらす奇妙な映画たち

  • 2025.11.8

『ディアマンティーノ 未知との遭遇』(18)で第71回カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリを受賞して脚光を浴びたポルトガルの俊英ガブリエル・アブランドスの新作『アメリアの息子たち』が、10月25日より公開中だ。彫刻などのアート分野でも活躍している彼が、次にどんな作品を放つのか注目されたが、この新作はなんと、ショッキングとしか言いようがないホラー。森の中の豪邸に暮らす家族の秘密がジワジワとあぶりだされていく。その秘密の強烈さと言ったら!

【写真を見る】美しい母に抱きかかえられた息子の姿が微笑ましい(『アメリアの息子たち』)

【写真を見る】美しい母に抱きかかえられた息子の姿が微笑ましい(『アメリアの息子たち』) [c]2023 - ARTIFICIAL HUMORS.
【写真を見る】美しい母に抱きかかえられた息子の姿が微笑ましい(『アメリアの息子たち』) [c]2023 - ARTIFICIAL HUMORS.

家族や共同体など、人と人の“つながり”のなかに恐怖が潜んでいる作品は少なくないし、優れたスリラーも多い。そこで『アメリアの息子たち』と共に、“つながり”を恐怖に転化したこの種のホラーを紹介。オカルトの空気も漂う、世にも奇妙な家族や社会の風景を覗いてみよう。

悪魔崇拝をモチーフとしたオカルト系ホラー

アニーの娘チャーリー(ミリー・シャピロ、左)は、やがて異常な行動を取るように…(『ヘレディタリー/継承』) [c]Everett Collection/AFLO
アニーの娘チャーリー(ミリー・シャピロ、左)は、やがて異常な行動を取るように…(『ヘレディタリー/継承』) [c]Everett Collection/AFLO

まずはアブランドスが『アメリアの息子たち』を撮るうえで参考にしたというアリ・アスター監督の作品から『ヘレディタリー/継承』(18)を。主人公は、母との死別を契機にグループカウンセリングに参加し始めた女性。ところが、このころから子どもたちに悲劇が降りかかり、彼女はますます心を病んでいく。やがて明らかになる、主人公一家の驚くべき秘密とは!?全編を不穏なトーンで統一し、予想できない結末へと導く大胆不敵なストーリー。やたらと金切り声を上げる主人公に扮したトニ・コレットの大熱演の効果もあり、悪魔崇拝的なオカルト色を増していくドラマから目が離せない。

FBIの新人捜査官が、未解決事件に隠された真相に迫る『ロングレッグス』 [c]Everett Collection/AFLO
FBIの新人捜査官が、未解決事件に隠された真相に迫る『ロングレッグス』 [c]Everett Collection/AFLO

悪魔崇拝を題材にしたスリラーでは、オズグッド・パーキンス監督の『ロングレッグス』(23)が記憶に新しいところ。一家の家長が家族を惨殺するという凄惨な事件が続発し、FBIの新人女性捜査官が捜査を進めた結果、事件の背後に悪魔崇拝者が関係していることを突き止める。しかし、そこには彼女の想像を超えるからくりが隠されていた!現場に残された証拠や奇妙な数字の符合が黒魔術的な要素を匂わせ、常識では考えられない恐怖の世界へと誘う。一方で、主人公とその母の葛藤も描かれているが、これも謎解きのヒントとして機能。悪魔崇拝者に扮したニコラス・ケイジの怪演もすさまじく、魅入ってしまう。

コミュニティの閉鎖性が恐怖を生みだす、村系スリラー

ある村で多発する、村人が自身の家族を惨殺する事件をめぐる恐怖を描く『コクソン/哭声』 [c]Everett Collection/AFLO
ある村で多発する、村人が自身の家族を惨殺する事件をめぐる恐怖を描く『コクソン/哭声』 [c]Everett Collection/AFLO

韓国映画『哭声/コクソン』(16)は、家族の誰かがほかの肉親を虐殺するという連続怪奇事件を描いた点で『ロングレッグス』と共通するが、こちらはより闇が深い。韓国のとある村で、この事件が起こり、主人公の警官は村に居着いた日本人(國村隼が怪演!)に疑惑の目を向ける。ところが、警官の愛娘にも、これまでの家族惨殺事件の犯人と同様の兆候が見えるようになり、事態は混沌の一途をたどる。こちらも悪魔的なものの存在を匂わせており、祈祷師や謎の女性といったキャラクターをまぶしているが、真相は観る者の解釈に委ねられる。何度も観てミステリーを追求したくなるという点で、興味深い逸品だ。

タイ東北部の村を舞台に、祈祷師一家の娘を襲う不可解な出来事を映す『女神の継承』 [c]Everett Collection/AFLO
タイ東北部の村を舞台に、祈祷師一家の娘を襲う不可解な出来事を映す『女神の継承』 [c]Everett Collection/AFLO

同じく韓国が共同で製作した、タイ映画『女神の継承』(21)は、さらにオカルト度を増していく。タイの村で祈祷師をしている女性にドキュメンタリー撮影隊が密着。祈祷師は家業であり、代々一族の女性が受け継いできたが、その娘はキリスト教に転身してこれを拒絶し、孫娘も母に倣っていた。ところが、この若い孫娘の身に異変が起こり、信仰に反した行動を起こすようになる。それはやがて村で、凄惨としか言いようのない大量虐殺を引き起こす!女系家族の謎を明かすミステリーはオカルトの要素を纏いながらスリルを上昇させ、クライマックスの惨劇で頂点へ。そこに信仰や信条を超えた恐ろしい魔物が見えてくる。

日本にもこの類の村スリラーは多く、配信で好評を博したドラマシリーズ「ガンニバル」は有名どころ。映画では、こちらも記憶に新しい『嗤う蟲』(25)を挙げておこう。都会から田舎に移住した若い夫婦が、村人たちに歓待され、子づくりを異様なほど奨励されて赤子が生まれる。ところが、ここから奇妙な出来事が続発。夫は深みにはまって逃れられなくなり、妻が家族を守るために奮闘するという物語。地方に行けば行くほどコミュニティの閉鎖性は増すもので、本作の恐怖のベースはそこにある。オカルト性は希薄だが、観ておくべき一作であるのは間違いない。

森の奥の豪邸に暮らす仲良し親子の恐ろしい秘密とは

さて、注目の『アメリアの息子たち』に話を移そう。舞台はポルトガルの山奥。ニューヨークで育った孤児の青年エドワード(カルロト・コッタ)は、実の母と双子の兄弟がこの地にいると知り、恋人ライリー(ブリジット・ランディ=ペイン)と共に現地に向かう。

息子を過剰なまでに溺愛するアメリアと、いまだ母と一緒に寝る息子マヌエル(『アメリアの息子たち』) [c]2023 - ARTIFICIAL HUMORS.
息子を過剰なまでに溺愛するアメリアと、いまだ母と一緒に寝る息子マヌエル(『アメリアの息子たち』) [c]2023 - ARTIFICIAL HUMORS.

豪邸で暮らしている母アメリア(アナベラ・モレイラ)と弟マヌエル(カルロト・コッタ/二役)は温かく彼らを迎えるが、その振る舞いはどこかぎこちない。アメリアの顔面には明らかな整形の跡があり、マヌエルは大人になっても、そんな母と一緒にベッドで寝ている。不信感を抱いたライリーは帰ったほうがいいと主張するが、実の家族に出会えたエドワードは、そこから離れる決心がつかない。やがてアメリア一家の壮絶な過去が明らかになる!

瞑想室の中央に横たわる女性。床に転がっているのは…?(『アメリアの息子たち』) [c]2023 - ARTIFICIAL HUMORS.
瞑想室の中央に横たわる女性。床に転がっているのは…?(『アメリアの息子たち』) [c]2023 - ARTIFICIAL HUMORS.

家族のドラマでありながら、そこには村スリラーやオカルトの要素があり、さらにおどろおどろしい要素もある。それがなにかは伏せるが、ここまで紹介してきた作品に勝るとも劣らない衝撃があることは主張しておこう。覚悟して、観てみてほしい。

文/相馬学

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