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夫・渡辺徹さんが亡くなって3年【榊原郁恵さん】が語る“60代からのしなやかな自立”とは?リフォーム計画も

  • 2025.11.8

夫・渡辺徹さんが亡くなって3年【榊原郁恵さん】が語る“60代からのしなやかな自立”とは?リフォーム計画も

夫の渡辺徹さんが亡くなって3年。お互いに独立した夫婦だと思っていたのに、「いなくなってみると、支えられていたんだなと感じます」と郁恵さん。ひとりになってから思ったこと、郁恵さん流の自立とは?

プロフィール
榊原郁恵さん タレント・俳優・歌手

さかきばら・いくえ●1959年生まれ。
76年に「第1回ホリプロタレントスカウトキャラバン」でグランプリを獲得し、翌年デビュー。一躍アイドルとなり「夏のお嬢さん」などが大ヒット。
81年からはミュージカル『ピーター・パン』の初代ピーター・パンを務め、その後もテレビ、ラジオ、舞台などで幅広く活躍中。
2022年から3年間、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にマクゴナガル校長役で出演。

私に向いているのは「優しい自立」かな

「自立っていうテーマ、私に一番向いてないかも……」

開口一番、そんな言葉が郁恵さんの口から飛び出した。

「自立ってすごく意欲的なイメージじゃないですか。60代になっていろんなものから解放されて、『ひとりでどこでも行けます』、『おしゃれして海外へ行きました』、『新たな自分を発見』みたいな。素敵だと思うし、理想ですけど、そういう人を見ると置いてきぼりになった気がしちゃう……。なんでもひとりでできますという鉄のように強い自立はちょっと苦手」

でも、「柳のようなしなやかな自立」ならできると思う、と郁恵さん。

「たとえば何か問題が起きたとき、自分で解決できなければ人に頼ってもいいと思うんです」

2022年11月、夫である渡辺徹さんが敗血症のため61歳で亡くなった。その現実を受け入れられず激しく動揺していた郁恵さんは、「喪主をやってほしい」とすがる思いで長男で俳優の裕太さんに頼んだ。裕太さんの返事は「いいよ、わかった」。

「いつまでも子どもだと思っていた息子が、いつのまにか頼もしい存在になっていて……。スーッと楽になって、正直、『全部、甘えちゃいたい』という気持ちになりました」

周りに助けてくれる人がいる環境は本当にありがたい。

「でも、そのとき、べったり依存してはいけないとも思いました。感謝の気持ちと同時に自分の足で立つことを意識しないと人は精神的に死にます。体はあっても、中が空洞になってしまう。どんなときも自分をなくさないでいることもひとつの自立だと思うんです」

17歳でデビュー後、22歳でミュージカル『ピーター・パン』の主役をはるなど、若いときから「自分」を持って主体的に仕事に関わってきた郁恵さん。

「自立って自分勝手とは違うんです。『自分が自分が』って前に出すぎると協力してもらえない。周りとの協力や共存は絶対に必要です。相手の意見も受け入れてコミュニケーションを取りながら、最終的にどれがいい? となったときに意見をちゃんと言える、そういう人が自立していて魅力的だと思います」

周りとの関係性の中で初めて「自立」できる

「60歳を過ぎてやっとやりたいことが自分から発信できるかなと思っていたときに大事なパートナーを失った」と振り返る郁恵さん。

2017年、結婚30周年の徹さんからのプレゼントは、郁恵さん念願の絵本の読み聞かせの会だった。徹さん自ら企画し、会場を借りて催してくれた。郁恵さんもスタッフ会議から参加するなど、やりがいを感じたという。

次は一緒に企画したものを、と21年に徹さんの還暦&俳優40周年を記念して、朗読劇『家庭内文通』を裕太さんと親子3人で共演した。さらに第2弾を全国で上演しようと計画していたところの突然の徹さんの他界だった。

「中心的存在の夫がいないから、もう無理だと思ったんです。でも、トラブルが起きるとそれを乗り越えることに燃える人でした。『諦めない』が夫のポリシーでしたから、周りの方々の力を借りながら頑張ってみることにしたんです」

それまでは、「夫は夫、自分は自分。互いに自立した存在だ」と思っていたが、ひとりではできないことがあると気づかされた出来事だった。

「結局、見栄を捨てて子どもやスタッフに『どうしたらいいの? わからないから助けてほしい』と頼るしかなかったんです」。そして、ついに23年11月、長男の裕太さんと共演する朗読劇『続・家庭内文通』は実現した。

「自立って他の人との関係性の中でしか存在しないと思うんですね。家庭でも仕事場でも、自分ができないときは周りを頼り、逆に頼られたときは力を貸す。でも、一人一人が自分というものを持っていて、決してべったり依存する関係ではない。そういう関係が理想なんだと思います」

周りの助けを借りながら成し遂げた『続・家庭内文通』

徹さん亡き後、一度はあきらめた舞台の実現。だが、周りのスタッフや息子・裕太さんの力を借りて、2回目となる親子共演の舞台が実現した。2023年11月から12月にかけて“渡辺徹 追悼公演”と銘打って全国を回り、朗読劇に加えて、『家庭内文通』の上映も。

自分の意見をきちんと人に伝える術は大切

最近、郁恵さんには新たな気づきがあった。

「22年に夫が亡くなってから、家の中はそのままでした。今年6月には、3年間演じた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のマクゴナガル校長役を卒業。さらに、最近、飼っていた愛犬を亡くし、どんよりと灰色の雲に覆われたような気分で過ごしていました」

そんなときふと、「環境を変えたい。リフォームして友達を呼べたらいいな」と思ったという。

「それをちょっと姉に話したら、あれよあれよという間に人づてで業者さんが見つかり、急遽、リフォームのイメージを伝えなくてはいけなくなったんです。頭の中の『こんな感じ』というのを言葉にしても100%は伝わらないから、iPadでイメージに近い画像を探しました。それまで、そういうことは二男(俳優の拓弥さん)に任せっきりで、食事に行くときも『どこかいいお店調べといて』なんて頼んでいたんですが、今回は自分がやらなければ話にならない。一生懸命探して、コレと思う画像を見せて説明しました。検索とか苦手なんですけど、私なりに頑張りました(笑)」

今回はひと部屋をリフォームする。

「実はまだ、お仏壇がなかったので、ちゃんとお仏壇を用意して、皆が集まったときにお参りできる部屋を作ることにしました。はじめのうちは、どういうリフォームにするかイメージが定まらなくて二転三転したんですが、仏間を思いついたとたんに、これだ! と目の前が開けるような気分でした。夫はひとりっ子なので、いずれ義理の両親のお位牌も私が守ることになるし。夫と一緒に建てた家をこれからは私が守っていく、という自覚を改めて持つことができました」

リフォームがきっかけで、今の自分の状況や今後やるべきこと、自分にしかできないことを突き詰めて考えた、という郁恵さん。

「リフォーム前は、『お母さんはこれから衰えていく一方で、仕事も長いことできないしさ』などと悲観的なことを息子たちに言って、頼りたい、甘えたいという気持ちになったこともありました。でも、リフォームで自分の考えをまとめざるを得ない展開になり、頭の中のイメージを相手にわかりやすく伝える術を身につけました。それは私にとって、自立に通じる出来事でもあったのです」

柳は風に流されているようで、実はしっかり立っている。そんなしなやかな自立が郁恵さんにはよく似合う。

撮影/中村彰男
スタイリング/坂能 翠
ヘア&メイク/宮原幸子

※この記事は「ゆうゆう」2025年12月号(主婦の友社)の記事を、WEB掲載のために再編集したものです。

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