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“震災前の能登”を残した『港のひかり』、輪島に戻ってきた1日に密着…舘ひろし「感謝と応援の気持ちを伝えたい」

  • 2025.11.7

舘ひろしが、7年ぶりの単独主演を務めた映画『港のひかり』(11月14日公開)。過去を捨てた元ヤクザの漁師と盲目の少年の十数年にわたる絆を描く本作は、2023年11月~12月にわたって石川県の輪島を中心に撮影を敢行。能登半島地震で被害を受ける直前に、同地の風情に満ちたロケーションをフィルムに収めた貴重な映画となっている。10月18日には、キャストがお目見えする最初のイベントとなるジャパンプレミアが石川県輪島市で行われ、舘をはじめとする役者陣と藤井道人監督が登壇。MOVIE WALKER PRESSでは滞在に同行し、変わり果てた街を歩いて現状を噛み締めた舘が、地元の人々にエールを送った熱い1日に密着した。

【写真を見る】舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀が「能登・福幸(ふっこう)フェス」にサプライズで駆けつけ、大歓声を浴びた

舘ひろし、ロケ地の変わり果てた様子に「言葉を失いました」

過去を捨てた元ヤクザの漁師と目の見えなかった少年との十数年にわたる絆を体現した『港のひかり』 [c]2025「港のひかり」製作委員会
過去を捨てた元ヤクザの漁師と目の見えなかった少年との十数年にわたる絆を体現した『港のひかり』 [c]2025「港のひかり」製作委員会

『正体』(24)で第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した藤井道人と『鉄道員(ぽっぽや)』(99、撮影)や『劔岳 点の記』(08、監督、撮影)など数々の名作を手掛けてきた木村大作キャメラマンが初タッグを組んだ本作。石川県や富山県をロケ地に全編35mmのフィルムカメラで撮影され、登場人物の境遇や心情を物語るような自然の情景と、激しくも美しい雪の季節を映し出している。石川県の北西部に位置する輪島市にも何度も訪れながら撮影が行われたが、クランクアップの直後、2024年1月1日16時10分に能登半島地震が発生。地元の人に感謝とエールを届けるためにも、「本作のジャパンプレミアは輪島でやりたい」というのは主演を務めた舘の悲願だった。

震災があった輪島市街地を輪島市長と訪問
震災があった輪島市街地を輪島市長と訪問

ジャパンプレミアの前には、舘と、舘が演じる三浦と友情を育む幸太役の眞栄田郷敦(青年期)、尾上眞秀(少年期)がロケ地のひとつとなった輪島の観光名所、朝市通りを巡った。ひとりぼっちの孤独な者同士である三浦と幸太。彼らが心を寄せ合っていく姿が、劇中で鮮やかに映し出されている。

能登半島地震によって焼失して、なにもなくなってしまった朝市通り
能登半島地震によって焼失して、なにもなくなってしまった朝市通り

朝市通りでは、三浦と幸太がお店をまわりつつ、2人の友情の象徴とも言える、鈴の付いた魚のキーホルダーを購入するシーンのロケが行われた。当時はこのシーンの撮影に協力した店がずらりと並んで活気にあふれていたが、朝市通りは地震の影響で焼失。いまはこの場所に建物はなく、野原が広がって秋のセイタカアワダチソウが生い茂っていた。

「これからの復興を⼼から願っています」とエールを送った舘ひろしと輪島市⻑の坂⼝茂
「これからの復興を⼼から願っています」とエールを送った舘ひろしと輪島市⻑の坂⼝茂

輪島市の坂口茂市長と共に通りを歩いた舘は、「こうなっているとは夢にも思っていませんでした」「言葉を失います」と周囲や足元に目を向け、「(撮影をした)朝市通りの記憶とはまったく違っていたので、ショックを受けました。本当になにもなくなってしまったんだなと。道路は隆起しているし、大変な地震だったんだと心から感じました」と衝撃を受けた様子。「まずは元のような活気を取り戻していただきたい」と切に願った。

足元や周囲を見渡し、それぞれが驚きを口にした
足元や周囲を見渡し、それぞれが驚きを口にした

眞栄田も「想像していた以上に、まだまだ復興途中なんだなと身に沁みて感じました」と痛感しつつ、一方で「接していただく町の方々は、前向きで明るくて。逆に力をいただいた」と感謝しきり。「この映画が少しでも、皆さんの励みになればうれしい。まだ全貌が見えないので、今後もっといろいろなことを知って、なにができるか模索していきたいと思います」と真摯な想いを口にした。

地面が激しく隆起している
地面が激しく隆起している

尾上は、「撮影が終わってから始めて来たんですが、草原みたいになっていて。ここだっけ…という感じ。こんなになくなっているんだと、びっくりしました」と町の印象を吐露。輪島での撮影の思い出に話が及ぶと、「スタッフさんとも毎日一緒に遊んでいました。ホテルでゲームをしたり、野球をしたりして楽しかったです」と当時を振り返った。2人で大きく揺れる船に乗るシーンに触れた舘は、「酔いそうな様⼦もあったんですが、実際に乗ってみると全然平気そうで。頑張っていましたよ」と尾上の奮闘に目尻を下げるなど、息ぴったりに思い出を振り返っていた。

キャスト陣を案内した坂口市長は、「復旧、復興はまだまだですが、皆さんの温かい支援をいただき、前を向いて歩んでいきたい」と輪島でのイベント開催から力をもらったという。

撮影時にお世話になった⼤沢漁港の方々と対面
撮影時にお世話になった⼤沢漁港の方々と対面

舘は、「ご協力いただいた皆さんに、感謝と応援の気持ちを伝えられればと。輪島の皆さんに最初に観ていただいて、元気づけられたらいいなという気持ちがある」と輪島を訪れた意図を明かす。歩みを進めるなかでは、撮影時にお世話になった⼤沢漁港の方々と対面した舘。「ようこそ!」と囲まれ、その場で話し込むひと幕もあった。ある女性から「まだ仮設住宅にいる」という状況を耳にした舘は、「撮影で大沢港へ行く際に毎日通っていた細い道があるんですが、そこもまったく使えなくなったという話を聞きました。傷跡は大きなものだなという気がします。自然の脅威を感じました」としみじみ。

地元の方の話に、じっくりと耳を傾けた舘ひろし
地元の方の話に、じっくりと耳を傾けた舘ひろし

その後、一度は車に乗り込んだものの、ファンが集まってきているのを目にした舘は、降って来た雨をものともせず、再び車を降りて握手やサインなどたっぷりとファンサービス。その包容力あふれる紳士的な対応に感激し、「本当にうれしいです」と涙を流す人の姿も見受けられた。

地元ファンに囲まれ、大賑わいとなった「能登・福幸(ふっこう)フェス」

【写真を見る】舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀が「能登・福幸(ふっこう)フェス」にサプライズで駆けつけ、大歓声を浴びた
【写真を見る】舘ひろし、眞栄田郷敦、尾上眞秀が「能登・福幸(ふっこう)フェス」にサプライズで駆けつけ、大歓声を浴びた

続いて、一行はジャパンプレミアの会場となる日本航空高等学校石川へと移動。同所では能登復興への願いを込めた一大イベント「能登・福幸(ふっこう)フェス」が行われ、本作の撮影に参加したお店も含め、約100件にも及ぶキッチンカーや能登の物産店が連なった。舘と眞栄田、尾上がサプライズでフェスに出向くと、出店者や訪問客、学校の生徒から「キャー!」と割れんばかりのどよめきと拍手が沸き起こり、3人は手を振って歓声に応えた。あいにくの雨がふりつけ、老若男女のたくさんの人々でごった返すなか、彼らが一人一人の目を見てハイタッチをしたり、がっちりと握手を交わしていたのが印象的だ。

学校の生徒ともガッチリと握手!
学校の生徒ともガッチリと握手!

各店舗から「寄って行って」「食べて行って」と引っ張りだことなった彼らは、「こんにちは!」「おいしそう!」「これはなんですか?」と商品を興味深げに眺めて質問を重ねるなど、地元の人々と和気あいあいと交流。ブルーのわたあめを見た尾上が「食べたい!」と声を弾ませ、手や舌を真っ青に染めながらわたあめをおいしそうに食べる場面も。コーヒーのいい香りが漂うお店では、舘が「郷敦、コーヒーは?」と誘い、眞栄田が「いただいていいですか」とにっこり。海産物のお店で舘と眞栄田がホッケ、尾上がイカをお土産に買ったりと、ご当地自慢のグルメをふんだんに味わっていた。

あらゆるお店がズラリと連なり、キャスト陣は興味深げに質問を重ねていた
あらゆるお店がズラリと連なり、キャスト陣は興味深げに質問を重ねていた

地域復興の取り組みに励み、本イベントの大黒柱でもある能登復興支援プロジェクト委員会の中橋忠博委員長に状況について尋ねると、半島という地理的条件から進出経路が限られていることに加え、道路や宿泊施設など甚大な被害を受けたことに言及。

地元のグルメをふんだんに味わった
地元のグルメをふんだんに味わった

「いろいろなものが完備されていないので、やっと解体が終わったという状況です。いまは野原が広がっているような状態」と切り出し、「以前から人口が減って、過疎化が進んでいましたが、地震が突然に来ましたから。夜になるとほとんど人が歩いていません。寂しい状況です」と地震によって過疎化が加速したという。しかし「ピンチをチャンスに変えていかなければいけない」と力を込めた中橋委員長は、「これからビルドしていくなかで、果たしてどれくらい人が戻ってくるかという議論はありますが、なんとか元気を出してやっていきたい。みんな本当に大変だけれど、一人が5人分くらいの元気を出してやっていきたいです」と意気込みを打ち明ける。

ブルーのわたあめを楽しそうに食べる尾上眞秀
ブルーのわたあめを楽しそうに食べる尾上眞秀

さらに「準備には1年ほどかかりましたが、このフェスが『元気を出してやっていこう』というひとつのスタートになれば」と期待しながら、「この映画が全国で公開されて、皆さんが間接的に能登のことを思い出してくれたらうれしい。今日は舘さんたちが来てくれて、みんな盛り上がっています。現地まで来てくれて試写会をやってくれるなんて、なかなかそんな機会はないですから。こういうイベントがあると、やっぱり元気が出ますよ」と感慨深げに語った中橋委員長。

幸太は、三浦の背中を通して大切なことをたくさん学んでいく [c]2025「港のひかり」製作委員会
幸太は、三浦の背中を通して大切なことをたくさん学んでいく [c]2025「港のひかり」製作委員会

本作では、誰かのために生きるやさしさと強さ、勇気を振り絞ることの尊さなど、三浦の背中を通して幸太が大切なことをたくさん学んでいくが、すでに映画を鑑賞したという中橋委員長は「舘さん、すごくカッコよかったなあ!」と惚れ惚れ。「舘さん演じる三浦は、過去を捨て、漁師として生活していて。幸太という盲目の少年と出会ったことで、お互いに励まし合うようにして生きていく。年老いていく三浦は、自分の人生を振り返りながら最後の生き甲斐のように少年の目を治そうとするんですが、その姿がなんだか能登の状況と重なって。うるっときましたね」と新しい世代へ希望のバトンを渡していこうとする能登と、劇中の三浦がリンクしたと目を細め、「タイトル通り、闇を照らすような“ひかり”を感じた」と能登にとっても大切な映画になったと話していた。

約700人の喝采が鳴り響く!ジャパンプレミアでレッドカーペットを闊歩

眞栄田郷敦&尾上眞秀、大歓声を浴びながらレッドカーペットを闊歩
眞栄田郷敦&尾上眞秀、大歓声を浴びながらレッドカーペットを闊歩

夜にはいよいよジャパンプレミアが行われ、舘や眞栄田、尾上だけでなく、黒島結菜、斎藤工、笹野高史、藤井道人監督がズラリと出席。当初は野外での上映が予定されていたが、大雨の影響で日本航空高等学校石川の体育館に場所を移して実施され、集まった約700人の喝采が鳴り響くなか登壇者がレッドカーペットを歩いた。

「プレミア試写会は、輪島でやりたかった」と力を込めた
「プレミア試写会は、輪島でやりたかった」と力を込めた

「この映画は一昨年の11月、12月、輪島を中心とした能登半島で撮らせていただいた映画です。その直後に震災があり、皆さんきっと、大変だったと思います」と口火を切った舘は、「いや、僕らが想像するよりももっと大変だったと思います」と改めて述べるなど地元の人々の心情に寄り添い、「この映画には、震災前の美しい能登がいっぱい残っています。最後まで楽しんでいただければと思っています」と挨拶。「プレミア試写会は、輪島でやりたかったんです。実現できて、本当によかったです。ありがとうございます」と喜びをにじませると、舘の熱意を受け取った会場から大きな拍手が上がった。

眞栄田郷敦、舘ひろしへの憧れを吐露
眞栄田郷敦、舘ひろしへの憧れを吐露

そして中橋委員長が本作に“希望のバトン”を感じたように、舞台挨拶でもそれぞれが“継承”の想いを胸にしていたことが明かされた。眞栄田は「舘さんと出会わせていただいて、僕の価値観は本当に変わりました」と告白。「男としても役者としても、いろいろなことを学ばせていただいた。いろいろな言葉をかけてくださった。今回は舘さんが主演ということで、言葉以上に、主演はこうあるべきなんだと背中で見せていただいた。周りへの気配り、やさしさ、ユーモアなど、本当にステキな方だと改めて思っています」と演じた幸太と同様に、舘からもらった愛情は宝物だという。

手を振って歓声に応えた眞栄田郷敦
手を振って歓声に応えた眞栄田郷敦

『ヤクザと家族 The Family』(21)でも舘とタッグを組んでいた藤井監督は、「父のようなやさしい姿で、たくさんのことを教えていただける」と舘に最敬礼。「石原プロの時代のものづくりや、おもしろい映画体験をたくさんお話ししてくださる。今回も楽しかったなという思い出しかない。舘さんと脚本を一緒に作る時には、舘さんの部屋に行けるんです。バスローブの舘さんと打ち合わせをしていた時は、すごく幸せな時間でした」と裏話を披露すると、会場も大盛り上がり。続けて「郷敦さんは、10代のころから注目していて。いつかご一緒できればと思っていました」と眞栄田とは念願の共同作業になったといい、「精神年齢が、僕の10個くらい上(笑)。こんなに頭のいい、20代の俳優はいないです。こんなにカッコよくて、こんなに真面目で、やさしくて、それでいてやんちゃで。次にどんな役でオファーしようかなと悩んでいます」と自身にとって、ワクワクするような俳優である様子。

「とてつもない継承の現場に立ち会えるという、興奮があった」と話した斎藤工
「とてつもない継承の現場に立ち会えるという、興奮があった」と話した斎藤工

それぞれの世代の俳優の魅力を捉えた藤井監督だが、撮影現場では86歳の木村キャメラマンと共闘した。藤井監督は、「これから自分が映画界にできることはなんだろうと思った時に、自分たちの世代だけではなく、先輩たちから教わること。“継承”ということを考えた。先輩たちがやってきた歴史をリスペクトして、盗んでいく。そして下に伝えていく。そういう想いで挑んだ」と力強くコメント。ヤクザの組員である八代龍太郎役の斎藤は「藤井作品で、大作さんと舘さんがいて。とてつもない継承の現場に立ち会えるという、興奮があった。食らいついていくしかないと思った」と奮い立つものがあったそうで、自身の眉毛を剃り落として役作りにトライ。「剃ったあとに、生えてこない場合があると聞いて」と会場を笑わせながら、「かろうじて生えてきたのでよかったんですが、生えてこなくても(いいと思うくらい)、この先の仕事を考えない時間だったなと思います」と充実感を握りしめた。

観客と一緒にフォトセッションに臨んだ
観客と一緒にフォトセッションに臨んだ

幸太の恋人である浅川あやに扮した黒島や、三浦と幸太を見守る荒川定敏役の笹野も映画を届けられる幸福を抱き、ジャパンプレミアの締めくくりには会場と一緒にフォトセッション。ここでもメンバーは、至近距離で対面が叶ったファンとハイタッチや握手を交わすなど、最後まで気さくな笑顔で会場を熱狂させていた。この日、舘は自ら歩み寄り、常に地元の声に耳を傾けていた。眞栄田は、「こちらが元気をもらった」と歓迎が身に染みたと何度も伝えていた。町には笑顔があふれ、スターの存在や魂のこもった映画、そして温かな触れ合いは、人々の元気を呼び覚ますものだと実感できるような1日となった。

取材・文/成田おり枝

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