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ポストコロナの懸念「感染症のリバウンド」はほぼ生じなかったと判明

  • 2025.11.7
ポストコロナで懸念されていた「感染症のリバウンド」は生じていなかった / Credit:Canva

新型コロナウイルス(COVID-19)対策により、人々は感染症から一気に遠ざかりました。

世界中で外出自粛やロックダウン、マスクの着用、学校や職場の閉鎖など、未曾有の感染症対策がとられたのは記憶に新しいでしょう。

そんな中で、多くの専門家や医療従事者が心配していたのが「ポストコロナ時代」にやってくるかもしれない“感染症のリバウンド”です。

感染症が長期間流行しなかったことで社会全体の「免疫の隙間」ができ、行動制限が解除されればインフルエンザや百日咳など、様々な感染症が一気に大流行するのではと、不安が多く語られました。

しかし、米国ジョージア大学(University of Georgia)の研究チームが最新の全米感染症データを分析したところ、「大流行」は起きておらず、むしろ多くの感染症の発生数は抑えられていたことが分かりました。

本研究の成果は2025年10月30日、科学誌『Science』に掲載されています。

目次

  • ポストコロナの免疫低下が招く「感染症のリバウンド」の懸念とは!?
  • ポストコロナの意外な結末!?「感染症のリバウンド」はあまり起きなかった

ポストコロナの免疫低下が招く「感染症のリバウンド」の懸念とは!?

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、世界中で実施された社会的行動制限は、単にCOVID-19の感染を抑えるだけでなく、私たちの生活様式そのものを大きく変えました。

人と人の接触が減り、学校や職場も一時的に閉鎖され、友人と集まる機会やイベントも激減。

その結果、インフルエンザや百日咳、ムンプス(おたふくかぜ)など「毎年当たり前のように流行していた感染症」が、まるで消えたかのように激減した年もありました。

しかし、専門家の間では「これで社会全体の免疫が落ちてしまい、解除後には“感染症の嵐”がやってくるのでは?」という不安が拭えませんでした。

こうした現象は「免疫ギャップ(immunity gap)」とも呼ばれます。

たとえば、「ワクチンで守られていたはずの世代が“感染未経験”のまま成長し、社会にウイルスや細菌が戻ってきたときに一気に流行が広がる」

そんな悪夢のようなシナリオが現実になるのでは、との声もありました。

では実際に、ポストコロナの世界で本当に感染症のリバウンドは起きていたのでしょうか?

ジョージア大学の研究チームはこの疑問に答えるため、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が毎週公表している感染症サーベイランスデータやインフルエンザの記録など、全米規模で集められた約24種類の感染症データ(2019年〜2024年)を徹底的に解析しました。

分析対象はインフルエンザ、百日咳、ムンプス、Hib感染症などの「空気・飛沫感染症」、クラミジアや淋菌、梅毒といった「性感染症」、食中毒やダニ媒介疾患などの「環境・動物由来感染症」など多岐にわたります。

また、単に発生数を比べるだけではなく、「もしパンデミックが起きなかった場合、どうなっていたか?」を統計モデルで予測し、実際のデータと比較するというアプローチをとっています。

さらに、感染症ごとの流行のしやすさや免疫の持続期間など、疾患特有の性質もシミュレーションに反映し、パンデミック下・解除後の社会で感染症がどのように振る舞ったのかを科学的に検証しました。

ポストコロナの意外な結末!?「感染症のリバウンド」はあまり起きなかった

分析の結果明らかになったのは、「感染症のリバウンド」は多くの人が恐れていたほど深刻ではなかった、という驚きの事実でした。

まず、空気感染や飛沫感染によって広がる感染症(インフルエンザ、百日咳、ムンプス、Hibなど)は、パンデミック中に劇的に発生数が減少し、その後の解除でも急激な大流行は見られませんでした。

たしかに2022〜2023年の冬には「COVID-19+インフルエンザ+RSV」の“トリプルデミック”が話題になりました。

しかし全体としては「リバウンド」は限定的で、むしろ2024年時点の累積発生数は、パンデミック前の予測よりも低い水準にとどまっていたのです。

また注目すべきは「性感染症」の動向です。

クラミジアや淋菌、梅毒などはパンデミック初期に急激に発生数が減少し、その後も以前の増加トレンドには戻らず、低い水準が続いています。

これは研究チームも予想外で、「医療体制の改善や公衆衛生投資の強化、行動変容などが影響している可能性があるが、詳しい理由は今後の研究課題」としています。

さらに、食中毒やダニ媒介疾患といった「環境・動物由来感染症」は、個々の感染症ごとに影響が異なり、一律のリバウンド傾向は見られませんでした。

総合的にみて、「感染症リバウンド」への懸念は理解できるものでしたが、現実には多くの感染症の負担はむしろ減ったと言えます。

社会的な行動制限やマスクの着用は、コロナウイルスだけでなく、他の多くの感染症も大きく抑えたという「副次的な恩恵」をもたらしていたのです。

パンデミックを経て私たちの社会は多くの教訓を得ましたが、この研究は「感染症対策は、一つの病気だけでなく社会全体の感染症リスクを広く見据えて考えるべき」ことを強く示唆しています。

参考文献

The Feared Post-COVID “Disease Rebound” Of Rampaging Infections Never Really Happened
https://www.iflscience.com/the-feared-post-covid-disease-rebound-of-rampaging-infections-never-really-happened-81435

元論文

Collateral effects of COVID-19 pandemic control on the US infectious disease landscape
https://doi.org/10.1126/science.adw4964

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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