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マヤ最古のモニュメントは「宇宙の地図」を表していた

  • 2025.11.6
アグアダ・フェニックス遺跡のLIDAR画像/ Credit: en.wikipedia

今から約3000年前。

マヤ文明の始まりの地に、巨大な「宇宙の地図」が描かれていたかもしれません。

メキシコ南東部タバスコ州に位置する「アグアダ・フェニックス遺跡」

ここは、これまで知られていたどのマヤ遺跡よりも大規模なモニュメント(記念碑的建造物)が眠っていた場所です。

しかし驚くべきは、その構造や埋納物が「単なる建造物」を超え、古代マヤ人が宇宙や世界の秩序そのものを“かたち”に表そうとした痕跡で満ちていることです。

米アリゾナ大学(AZ)は、その最新研究で、アグアダ・フェニックス遺跡が「コスモグラム(宇宙の地図)」である可能性を報告しました。

研究の詳細は2025年11月5日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • 宇宙を体現したマヤのモニュメントとは?
  • 「王なき建造」と「みんなで描いた宇宙」、現代へのメッセージ

宇宙を体現したマヤのモニュメントとは?

アグアダ・フェニックス遺跡の発見が公表されたのは2020年、アリゾナ大学ら国際研究チームによるLIDAR(ライダー※)調査によってでした。

(※ LIDAR=ターゲットとなる対象物にレーザー光を照射し、その反射光を受光することでターゲットまでの距離を測定する調査方法)

ジャングルの奥深く……ではなく、実は人々の暮らす町の地下に、全長約1.6キロ・幅約400メートル・高さ最大15メートルにも及ぶ「土の巨大な台地」が隠れていたのです。

初めの調査では、この台地の上に特別な建物や王の宮殿のようなものは見当たりませんでした。

いわゆる「支配者の痕跡」が一切なく、誰が、何のために、これほどの規模で築いたのか、謎に包まれていました。

しかし、さらに精密な現地調査と発掘が進むにつれ、ある“意図”が浮かび上がります。

「この遺跡は、宇宙の地図=コスモグラムを形にしているのではないか」

遺跡の配置は、中心から東西南北に長く軸を伸ばした「十字型」。

しかも中心部には、2重の十字型ピット(穴)が掘られていました。

これはマヤ文明だけでなくメソアメリカ各地で“宇宙の秩序”“世界の成り立ち”を象徴する形として知られるものです。

【こちらが実際のアグアダ・フェニックス遺跡の画像

さらに注目すべきは、この十字ピットの中心で発見された、色と方角の対応です。

・北には青いアズライト顔料
・東には緑のマラカイト顔料
・南にはゲーサイトを含む黄土色の顔料

それぞれが方位に合わせて、特別な順序で埋納されていたのです。

これは後のマヤ文明を含むメソアメリカの「世界観」、“東は緑、西は黒、北は青、南は黄色”といった、方角と色を対応させる宇宙観の、最古の証拠と考えられています。

「色と方角の象徴性はメソアメリカ全体に共通するものですが、実際に顔料がこのように配置されていたのは初めての事例です」と研究者は語ります。

ピットからは、さらにヒスイで作られたワニや鳥、出産する女性などの彫刻、貝殻や鉱石などの供物も発見されました。

これらも「十字型」に沿って並べられており、水や生命、宇宙の四方を象徴するものと解釈されています。

また、記念碑の中心軸が特定の日の出(10月17日と2月24日)と一致していることもわかり、メソアメリカの260日暦と呼ばれる儀式カレンダーとの関連性も示唆されています。

「王なき建造」と「みんなで描いた宇宙」、現代へのメッセージ

この壮大な「宇宙の地図」は、従来のイメージを覆します。

古代マヤ文明と聞けば、ピラミッドや神殿、そして強大な王や貴族が思い浮かぶかもしれません。

けれど、アグアダ・フェニックスからは王の宮殿や支配者像といった「権力の証拠」がまったく見つかりませんでした。

「巨大建造物は王や権力者の命令で作られるもの」

その常識を覆すかのように、このモニュメントは階層構造や強制力の痕跡がなく、「平等な集団」の協働によって築かれたと研究者たちは推測します。

チームはこう語ります。

「人々は、コスモグラム――宇宙の秩序をかたちにするという思想――に共感し、自発的に集まり力を合わせて建設したのでしょう」

実際、巨大台地の造成や十字型の通路・盛り土の道(カーズウェイ)、運河やダムの建設などは、合計で一千万人日以上もの労力を要したと推定されています。

それでも、支配階層による強制は見られず、共通の信念や儀式が社会をまとめる「原動力」になっていたのです。

また、近隣からは同様のコスモグラム型遺跡が約500カ所も見つかっており、こうした「宇宙の地図」が広域で共有されていた可能性も浮かび上がります。

この発見は、私たちの「社会の在り方」や「協働の力」を再考させてくれます。

「過去には王がいてピラミッドを作った、だから現代でも大きなことを成すには強いリーダーや格差が必要だ――そんな先入観を、アグアダ・フェニックスの実例は覆してくれます」と研究者は語ります。

参考文献

Oldest Known Maya Monument Could Be a Map of The Universe
https://www.sciencealert.com/oldest-known-maya-monument-could-be-a-map-of-the-universe

U of A-led team discovers large ritual constructions by early Mesoamericans
https://www.eurekalert.org/news-releases/1104573

元論文

Landscape-wide cosmogram built by the early community of Aguada Fénix in southeastern Mesoamerica
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aea2037

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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