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「吉沢亮がいなければ『国宝』は立ち上がらなかった」監督が明かす映画誕生秘話、横浜流星との“心中”覚悟も告白

  • 2025.11.6

興行収入162億円(※2025年10月13日時点)を突破し、世界50以上の国と地域での公開が決定した映画『国宝』。第98回米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも選出され、まさに日本から世界へと羽ばたく作品となった。この歴史的大ヒットを生み出した李相日監督が、吉沢亮さんへの絶対的な信頼と、横浜流星さんを起用した際の覚悟、そして15年にわたる歌舞伎映画への想いを詳細に語った。

李相日監督。15年前から温めていた歌舞伎映画への想いを『国宝』で結実させた
李相日監督。15年前から温めていた歌舞伎映画への想いを『国宝』で結実させた

15年前から温めていた歌舞伎映画への想い

「もう15年くらい前になりますか…『悪人』が公開された頃、歌舞伎の女形を中心とした映画を撮りたいと思ったことがありまして」

李相日監督はそう振り返る。自分なりにリサーチをするなどして歌舞伎に触れていったが、今にして思えば、それが『国宝』の“卵”だったのかもしれないという。実在する人物をモデルにしたストーリーを考えていたが、なかなか手がかりをつかめず、ハードルの高い題材であると実感することになった。その後、吉田修一さんが歌舞伎を題材にした新聞の連載小説をスタートさせると聞いて、どのように歌舞伎を描かれるのか純粋に楽しみにしていたという。

女方の舞踊の名作『二人藤娘』を演じる喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)。可憐な舞台姿は息をのむ美しさ
女方の舞踊の名作『二人藤娘』を演じる喜久雄(吉沢亮)と俊介(横浜流星)。可憐な舞台姿は息をのむ美しさ

「小説が刊行されてすぐに『国宝』の映画化に動き出したわけではないんです。以前の企画が難航した経験もあって、様子を見つつ…何となく『映画にしてはどうか』という気配が蒸溜されていく中で、少しずつ慎重に実現化を探っていったという感じでした」

“吉沢亮ありき”から始まった映画化

芸に身を捧げる覚悟を決める喜久雄(吉沢亮)
芸に身を捧げる覚悟を決める喜久雄(吉沢亮)

「ただ、一つだけ確かだったことがあって。それは『国宝』の主人公・喜久雄を演じるのは吉沢亮しかいない、ということでした」李相日監督はそう断言する。

彼が演じる喜久雄が物語の軸・幹となるのは必然で、その半生を描くにあたってエピソードを満遍なく選定すると、単なるダイジェストになってしまう。紆余曲折、山あり谷ありの半生を経て喜久雄がどこにたどり着くのか、その軌跡をたどる流れが作れれば映画としてカタチになると監督は考えた。

「となると、やはり筆頭になるのは俊介との関係性であり、花井半二郎をはじめとする大垣家の一族、そこに絡んでくる春江といった存在がクローズアップされてくる。そして、何よりも歌舞伎という題材と正面から向き合う必要があるわけです」

横浜流星との“心中”覚悟のキャスティング

 才能と嫉妬、尊敬と競争心――、正反対の出自を持つ喜久雄と俊介の関係性が、この物語の重要な軸となる
才能と嫉妬、尊敬と競争心――、正反対の出自を持つ喜久雄と俊介の関係性が、この物語の重要な軸となる

ストーリー的には血筋の呪縛や、極道の息子である喜久雄が歌舞伎の世界に飛び込んでくるといった要素が織り込まれているが、光と影のように表裏一体の2人=喜久雄と俊介が、どうやって互いの魂を“交歓”させていくかを舞台上で見せていくことに、本質があると監督は考えていた。

「そのためにもどの演目を選び、その演目の中でどこを抽出し、どのように2人が『ともに歩む』姿をセットアップしていくか、脚本を開発しながら同時に考えていって。さらに俊介を誰に演じてもらうかが非常に重要な要素で、プロットの時点で人選を進めていきました」

俊介は、主役を務める吉沢さんと並び立つほどの存在感を持った俳優でなければならない。そういう意味でも一番キャスティングに悩んだ役でもあったという。

結果的に横浜流星さんに演じてもらったが、『流浪の月』で組んだから引き続きというものでもなくて、候補に挙がった役者の中から絞りに絞って、プロデューサー陣とも相談をしながら、「流星のひたむきさやストイックな姿勢に、もう一度懸けてみよう」と、心中するような気持ちもありつつ、彼に白羽の矢を立てた。

喜久雄の親友でありライバル・大垣俊介役の横浜流星さん
喜久雄の親友でありライバル・大垣俊介役の横浜流星さん

歌舞伎役者ではない2人が吹替を立てずに挑んだ理由とは?

中村鴈治郎さんから歌舞伎指導を受ける吉沢亮さん
中村鴈治郎さんから歌舞伎指導を受ける吉沢亮さん

歌舞伎の世界は、単に芸を引き継いでいくにとどまらず、人間をつないで――無形のものを時代を超えて残していくことに特殊性がある。監督自身、最初に惹かれたのは女形で、『国宝』の原作にも書かれているように、何百年も前から男でも女でもなく、どことなく異形感というか…異質にして希有な存在であり続けていることがおもしろいと感じたという。

「それでいて、ものすごく品位のある色気と言いますか、ハッとさせられる色香を出せる。それは稽古を積み重ねてきたことで身体の中に生まれるものなのかはわかりませんが」

吹替を立てずに本来は歌舞伎役者ではない吉沢亮や横浜流星に挑んでもらったのは、『国宝』という小説をベースにした映画として、まさしく内面的な到達点をめざすことを優先すべきだと思ったからだと監督は語る。

「そこに対する迷いは1ミリもなかったですし、喜久雄が生涯を通じて探し求めている“景色”は、歌舞伎という極めて難しい題材に挑む吉沢亮の視線の先にも見えるのではないか――そんな想いを今は抱いていたりもするんですよね」

15年の構想、“吉沢さんありき”から始まった映画化、横浜さんとの“心中”覚悟のキャスティング――すべてが奇跡的に結実した『国宝』。日本のみならず、世界中の観客をうならせるこの作品を、ぜひ映画館で体感してほしい。

カンヌ国際映画祭では、4人全員が涙を滲ませ、感謝の言葉を述べた
カンヌ国際映画祭では、4人全員が涙を滲ませ、感謝の言葉を述べた

映画『国宝』概要

監督:李相日

脚本:奥寺佐渡子

出演:吉沢亮

横浜流星/高畑充希、寺島しのぶ

森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達

永瀬正敏

嶋田久作、宮澤エマ、田中泯

渡辺謙

原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)

配給:東宝

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画『国宝』製作委員会

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