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【ばけばけ】「それでも困ったら、私がいます」優しく語りかける錦織(吉沢亮)に、異文化交流の予感[写真多数]

  • 2025.11.3

【ばけばけ】「それでも困ったら、私がいます」優しく語りかける錦織(吉沢亮)に、異文化交流の予感[写真多数]

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

朝ドラ受け「分かってはいるけれど」ではないが

ついにきた! といったところだろうか。

5週目の放送に突入したNHK連続テレビ小説『ばけばけ』のもうひとりの主人公といっていい小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルとしたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が本格的に登場した。

史実として分かっているし、『あさイチ』の〝朝ドラ受け〟でも何度となく「分かってはいるけれど」とされていた、ヒロイン・トキ(髙石あかり)と銀二郎(寛一郎)との結婚生活は、儚くも終わりを迎えた。銀二郎のキャラクターがとても愛される誠実な人物だっただけに、本当に「分かってはいるけれど」ではないが、そこは少し寂しくも切なくも感じてしまう。そう感じられるのは、作り手側、そして演じる側の力あってのものだろう。

とはいえ、これで本来のメインのルートにいよいよ突入することとなると思うため、ヘブンの来日は「ついにきた!」という気持ちとともに、これからトキとヘブンがどう出会い、どう心を通わせていくのか、そして周りのひとたちはどう反応していくのか、期待値も今まで以上にふくらんでいく。

コントのような軽妙さが魅力だ

第5週「ワタシ、ヘブン。マツエ、モ、ヘブン。」は、銀二郎との別れから4年が経過した松江を舞台に幕をあける。松野家の借金はいまだ残っているようで、22歳になったトキはしじみ売りで地道に働いていた。家族に対するトキの自虐を含めた毒づきも冴えわたり、苦しいことに変わりないながらも、そこを笑いにつなげていく家族の掛け合いは、4年たっても健在だ。

長く鎖国を続けてきた日本にとって、黒船来航以来の海外からの来訪者はあまりにも大きな出来事だったことは確かだろう。幾度となく開国そして文明開花の混乱ぶりは描かれてきたが、多くは東京や黒船がやってきた下田、そして海外との窓口であった長崎など歴史の転換点における「メイン」の街を中心としたものがほとんどであっただろう。

本作でも東京ではすでに欧米の文化を取り入れている様子が描かれていた。そんな時期の一地方都市における外国人、異人の登場は、どのような空気感だったのか。ドラマの中の世界であるが、その混乱は、やはり本作のベースであるコミカルな雰囲気も入り混ぜつつ描かれていった。

本作の松江のひとびとにとっての異人とは、「空を飛ぶ」「頭に皿がある」といった、いやいやいやとこちらもさすがにツッコんでしまいそうなほど極端な、そもそも同じ人間でないような扱いだが、天狗や鬼の伝説もそういった説があるように、完全に未知の、想像上の存在であり、想像や妄想が口づてに広がり大きくなっていったこともあるのは確かだろう。実際にトキも、その妄想で「天狗だー!」と叫んでいたほどである。

そんなUMA(未確認動物)のような存在を、松江の民は船着場で総出で迎える。松江の花田旅館の主人・平太(生瀬勝久)とツル(池谷のぶえ)から聞いた事前情報によれば、このUMAは英語教師として赴任することになっているという。東京で出会った錦織(吉沢亮)もそこにいた。錦織もまた英語教師をしており、通訳として立ち会うことになったようだ。

妖怪・怪物のような噂話をしていたくせに、船から降りるヘブンたちは歓声で迎えられる。当時の日本ではまだ浸透していなかったであろう西洋流の「握手」をかさねていくところも印象的だ。いっぽうで、これまでの厄介ごとの原因のひとつでもあった没落武士のプライドを持ち続ける、トキの祖父・勘右衛門(小日向文世)と父の司之助(岡部たかし)。異人とは、この視点では開国を迫り武士の社会を終わらせた仇のような存在だったのかもしれない。

錦織に頼まれ、トキとサワ(円井わん)が、ヘブンを連れていくと、木刀を掲げた勘右衛門が現れる。

ヘブンの視点では、
「SAMURAI……」
と、なかば興奮ぎみに感動するが、一方の勘右衛門はといえば、
「ペリー! 覚悟ぉ!!」

木刀で殴りかかろうとする。ほぼコントのようでもあるが、この軽妙さが本作の今のところでの一番の魅力であると思われる絶妙な空気感だ。司之助は勘右衛門とはまた違い、持ち前のコミュ力を発揮、ヘブンに牛乳を飲ませ、いっぽうで目玉焼きを作ってもらい盛り上がるなど、一気に打ち解けていく姿も明るい空気に一役買っている。一地方に現れた外国人が与える影響はこうだったのかなと、思わず感じてしまう描かれ方だ。

今も生きるサムライの存在をはじめ、ヘブンは降り立った松江に好奇心が掻き立てられるようで、気の赴くままに散策、予備知識もさほどなく、差別的な感情もおそらく違うのだろう、松江の人々にとっては下層地域のような扱いの「川の向こう」、そこにある遊郭にも三味線の音に誘われるかのように吸い寄せられていく。足を踏み入れられない潔癖性をもつ錦織との対照的な描かれ方もまたコミカルな雰囲気づくりに一役かっている。

トキたちにとって、代わり映えしない日常であり、希望もなかなか見いだせない単なる「日常」でしかない松江の風景にひとつひとつ感動し、「神々の国の首都」とまで口にするヘブンの姿には、トキでなくとも視聴者も引き込まれていくのではないだろうか。予定していた旅館でなく、庶民的な花田旅館を滞在先として変更するところも、その人物像が短い間に凝縮されているようだ。

ヘブンへの好感が高まっていく展開だ

しかしそんなヘブンも、実際には初めて降り立つ異国の地に不安や畏れは抱いていたようで、トキが握手をした手が震えていたように感じたこと、日本人の身長に合わせ背をかがめていたこと、そして錦織が見た、ヘブンが日本語の書き取りをしていた痕跡……

「日本語はいりません……あなたが話す言葉を、いや、あなた自身を、みんなは待っています。それでも困ったら、私がいます」

そんなヘブンに優しく語りかける錦織。そう言ってもらえたことで、すかさず、
「アイム、ハングリー」
と言い出すヘブン。

見る側のヘブンへの好感が高まっていく展開だ。少しずつ近づいていくヘブンと松江の面々。異文化はこの先どう互いに受け入れられていくのか。そして、トキとヘブンはどのように交流していき、伝承される怪談に出会っていくのか。期待感はますますふくらむ。

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