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「人は人の努力に感動する」スノーボード女子日本代表・岩渕麗楽が語る、挑戦の原点と“アナログな競技”の魅力

  • 2025.11.2

今年3月の世界選手権で銅メダルを獲得し、今季の活躍が期待されるスノーボード日本代表・岩渕麗楽。女子で初めて大技「フロントサイド・トリプルアンダーフリップ1260」を成功させた一方で、カメラや読書を愛する“文化系アスリート”でもある。11月のW杯開幕戦、そして2026年2月に開催されるミラノ・コルティナ五輪に向けて――。挑戦を止めない彼女が語る、競技への姿勢とプライベートとは。

女子選手初となる大技成功の裏側

――今年3月の世界選手権で銅メダルを獲ってからのオフはどのように過ごされていましたか?

岩渕麗楽(以下、岩渕):4月は足首のケガを治すために家にずっといましたね。あとは実家に帰ったりとか、とにかく休もうと。その後の5月から今まではオフトレ施設で練習。ガッツリやっていました。

――Instagramでは山梨に行かれている投稿もありましたね。

岩渕:山梨が大好きでブドウの直売所を3カ所ハシゴしました。景色も好きです。

――今はシーズンインされていると思いますが、どんな練習をされているのでしょう?

岩渕:シーズンインは7月末から8月半ばにかけて、オーストラリアの雪山に行きました。オフトレで技を結構まとめ上げたつもりだったんですけど、やっぱり実際の雪山の難しさがあって、現場で上手くできないということがよくあるんですよ。

だからオーストラリア遠征は1次チェックで、帰国後は向こうで見つけた課題を詰め直しているところです。

――今シーズン最大の目標となる五輪の前に克服すべき課題は何がありますか?

岩渕:今年の開幕戦が11月末の中国「2025 FIS スノーボード ワールドカップ」になるんですけど、3年前の北京五輪と一緒の会場で開催されるんですよ。そこで表彰台に登って、いい流れを作っていきたいです。

――岩渕さんといえば、斜め軸で後ろに3回転する難しい技「フロントサイド・トリプルアンダーフリップ1260」を女子で初めて成功させたことでも知られています。それを成功させたときのことを改めて教えてください。

岩渕:北京五輪の1カ月後くらいに成功させました。五輪の悔しさがあるから勝ちたいけど、決めたいという気持ちはありました。でも怖い技だから2本のジャンプの両方はやりたくないなと思っていて。結局1本目で決められたから、すごく安心しましたね。

練習でも1回しか成功したことがないから緊張しすぎて、もう空中でのことはまったく覚えてないんですよ(笑)。気づいたら着地が目の前だったみたいな感じ。

――当時の動画を見ると飛ぶ前、確信に満ちた眼差しで「いけると思う」と発言していました。あの自信はどこから来たのでしょう?

岩渕:オリンピック以降1回も練習していなかったので、根拠はありませんでした。でも成功したときの感覚が鮮明に残っていたのと、現場のジャンプ台が自分に合ってるなという直感があったんですよ。

現地入りする前から「ここで自分はトリプルを決めるんだろうな」というイメージもあったんです。だから謎に自信だけはありましたね。競技人生で嬉し泣きをしたことがなかったし、あれは過去一番の嬉しい優勝です。

――その経験を更新していくためにも、新しい技に挑戦する?

岩渕:そうですね。他の女子選手も成功させ始めていますし、今はより回転数を増やそうと頑張っています。でも、やっぱり「フロントサイド・トリプルアンダーフリップ1260」はオリンピックからの流れがあったから、どうしても思い入れが強くて。今までやってきたものに比べると一段上のレベルですし、新しいステージに繋がる一歩でした。

記念ボードは友達に譲った!?

――今日お持ちになっているボードに思い入れはありますか?

岩渕:特にはないです(笑)。他の競技だとオーダーメイドで道具を作ったりするじゃないですか。でも私が使っているのは、めちゃめちゃ市販の板。メンテナンスはこだわっているんですけど、ひとつのボードも3、4大会滑ったら使わなくなってしまいますね。

毎年新しい板に乗っているので、「これを使って優勝した!」とかじゃないと特別な想いを持つことはないかな……。

――ということは「フロントサイド・トリプルアンダーフリップ1260」をメイクした板は大事に保管していたり?

岩渕:いえ、知り合いにあげました(笑)。こだわって手元に置いておくことがないんです。メダルやトロフィーもすぐ実家に送っちゃったりとかするくらいなので。他の選手も大会が終わったら、その場でパーツをファンの子にあげたりとか。物を手放す人が多い印象です。

――ウェアのこだわりは?

岩渕:最近は太めのパンツが流行っているので、女子でレディースのサイズを着ている人は少ないですね。メンズを太めに履きこなすことがトレンド。

やっぱりスノーボードは採点競技なので、見た目もよくするみたいなところもあるんです。だからウェアにこだわってきている人は多いんじゃないかな。ただ太すぎると空気抵抗が大きくなるので、スピードが必要な会場のときはタイトなウェアに変えたり。特に気にする必要がないときは太めのシルエットで可愛くしています(笑)。

――日本と海外を往復するなかで感じる文化の違いなどについて教えてください。

岩渕:ご飯は絶対に日本のほうが美味しいですね。あとは治安。夜でも街を出歩ける安心感がすごい。だから海外での夜移動は避けています。ただ基本的に雪山のベースは海外のほうが標高が高いので、景色に関しては海外のほうが好き。風景が広大なんですよ。

――選手同士のコミュニケーションはいかがでしょう。

岩渕:海外の人のほうがはっきり意見を言いますね。大会中にミーティングをするときも基本的にみんなポジティブなので、圧倒されたり押し切られたり。例えば山のコンディションが悪いときに「頑張ればできるかもしれないけど、やりたくない人がいたらスケジュールを変えよう」となれば、日本人だったら空気を読みながら話すじゃないですか。

でも海外勢の「いや、行けるよね?」みたいなグイグイした感じに押されて、自分の意見を通せなかったこともありました(笑)。最近は慣れてきましたけど、あの自己主張の強さは文化が違うなと。

――そういう姿勢が競技にも出たり?

岩渕:海外勢の滑りはダイナミック。見ていて面白いというか、インパクトの強さを感じますね。一方で日本人は丁寧で繊細な滑りが特徴的なので、国民性の違いが競技に直結している気がします。

私も技に関しては丁寧にやるタイプだから、やっぱり日本人だなと思ってしまう。とはいえダイナミックさは欲しいんですよ。ただクオリティとして突き詰めたいのは繊細な部分なので、できれば両方の要素を取り入れようと頑張っていますね。

なぜアナログな競技に人は惹かれるのか?

――プライベートについても聞きたいです。普段はどんなファッションをされていますか?

岩渕:練習のときはTシャツにデニム、という感じが多いです。どこかに出かけるときは遠征先とは違う系統だけど、特にこれという感じのテイストはないかな。そのときに好きな服を着ています。最近だとY2Kだったり、ボーイッシュな感じかな。

デニムは好きなので、いつもカッコいいのが欲しいと思ってますね。あとは柄とか色物のパンツが気になっていたり、カーゴっぽいパンツを買ってみたりしてました。

――男性にしてほしいファッションはありますか?

岩渕:アメカジは結構好きですね。韓国寄りなきれいめはちょっと苦手かも(笑)。こういう競技をしているからなのか、ボード系や海外テイストの服装をしている人がカッコいいなと思います。

女の子もスカートを履く子はあまりいないですね。他の選手にプライベートで会うことがほぼないので、確実なことはわかりませんけど(笑)。

――スノーボード以外のボード系スポーツといえば、スケートボードやサーフィンなんかがメジャーだと思うのですが、それらのカルチャーとの関係もあったりします?

岩渕:オフシーズンにスケボーをやるスノーボーダーもいるので、そことの関わりはあったりしますよ。あとは関東に住んでいる人だとサーフィンをする人もいたり。私もここまでオフトレ施設が充実する前は、オフシーズンの夏にスケボーをしていました。怪我も多いので最近はしてません。

前にサーファー友達の試合を観に行ったりもしましたね。意外と面白いんですよ。試合運びや雰囲気、ルールが全然違って新しい発見がありました。スノボはみんな同じジャンプ台なのに対して、サーフィンは自然と向かい合うスポーツですからね。フェアじゃないからこその緊張感があるなと。そう考えるとスケボーのほうがスノボに近いと思います。

――カメラや読書も趣味とのことですが、こちらは?

岩渕:3、4年前に始めました。すごく楽しいですよ。アングルを変えるだけで雰囲気が変わるところと。後から編集して好きな構図にできるっていうところが楽しくてハマっちゃいました。海外で風景をきれいに撮るときに使うのはキヤノン「EOS」シリーズ。友達と遊ぶときや、流行っているデジカメっぽい感じで撮るときはライカを使ってます。

あと移動が多かったり、天気が悪くて練習ができないときは読書。好きなジャンルは推理小説ですね。小学生の頃からの趣味ではあるのですが、最近は特にスマホを見ない時間を作ろうと思って、空いた時間は意識的に本を読んでいます。やっぱりデジタルデトックスは大切。

――アナログなものに惹かれるということもある?

岩渕:デジタルがダメとも思わないですけどね。ただ、ひと手間をかけるだけで満足度が上がることに魅力を感じます。それに私が取り組んでいる「スノーボード」という競技もアナログなものじゃないですか。テクノロジーが入る余地といえばカメラとか板をLEDでピカピカさせるくらいで(笑)。

だから人間が頑張るしかない。それに機械に頼らないからこそ理解しやすいのかな。結局、人は人の努力に感動するんだと思うんです。だから私も挑戦し続けるのかもしれません。

Prpfile/岩渕麗楽(いわぶち・れいら)
両親の影響で4歳からスノーボード始め、小学1年生頃から本格的に競技を開始。2014年には13歳でプロテストに合格し、プロ選手へ転向。その後、2017年から日本代表強化指定選手に選出され、同年12月にビッグエアでワールドカップ初優勝。2022年の北京オリンピックビッグエアでは、同大会では女性史上初となるトリプルコークに挑み、多くの人に感動を与えた。2023年のX Gamesでは、見事トリプルコークを決め、金メダルを獲得。2026年ミラノオリンピックでは悲願の金メダル獲得を目指す。
Instagram:@leila_iwabuchi
X:@Leila_4121

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