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坂口健太郎へ渡辺謙からエール「恐れることなく、挑戦し続けてほしい」 息ぴったりの撮影は同じ“ボケ”で大笑い

  • 2025.10.31
坂口健太郎&渡辺謙 クランクイン! 写真:上野留加 width=
坂口健太郎&渡辺謙 クランクイン! 写真:上野留加

柚月裕子による同名小説を映画化した『盤上の向日葵』で、俳優の坂口健太郎と渡辺謙が共演。殺人事件の容疑者となった天才棋士と、彼の人生に影響を与え続けた破天荒な男として、魂と魂がぶつかり合うような演技を見せる。特別な絆で結ばれた関係性を体現した2人にインタビューをすると、果敢に新境地を切り拓きながら40代へと歩みを進める坂口に、渡辺が「恐れることなく、挑戦し続けてほしい」とエールを送った。

【写真】渡辺謙のお茶目な姿に坂口健太郎も爆笑! 大笑いの中撮影した撮り下ろしカット(全9枚)

■大先輩が集まる中でプレッシャーは?

本作は、将棋界を舞台にしたヒューマンミステリー。山中で希少な将棋駒とともに謎の白骨死体が発見され、将棋界に彗星のごとく現れ時代の寵児となった天才棋士、上条桂介(坂口)が容疑をかけられる。刑事たちが捜査を進める中、彼の過去を知る重要人物として浮かび上がったのは、賭け将棋で裏社会に生きた男・東明重慶(渡辺)。次第に桂介の生い立ちや、桂介と東明の間に何があったのか、そして事件の真相が明らかとなるが、それは想像を絶するほど過酷なものだった。

主演を務めた坂口は、いつもの温かな笑顔を封印。壮絶な運命に翻弄される男の激情と葛藤を表現し、鬼気迫る演技を披露する。渡辺は、人間としては最低、将棋指しとしては超一流という曲者を圧巻の存在感で演じきり、クライマックスまで怒涛の展開で魅せる1本として完成している。

――坂口さんは壮絶な運命をたどる主人公・上条桂介という役を背負い、すばらしい役者さんの集まる作品で座長を務めましたが、プレッシャーを感じることはありましたか。

坂口:桂介の過去や業を背負うということには一つ覚悟がいるなと思っていましたが、重たいシーンをたくさん撮るからこそ、うまく切り替えられたらいいなと思っていました。僕としても、ずっと体に力が入っているより、始まる瞬間まではリラックスさせておいて、撮影がスタートする「よーい」の瞬間にガン!と力を入れる方が性に合っている気がして。大先輩とご一緒することにも緊張はせず、なるべくいつもの状態で「おはようございます!」とすっと現場に入って、皆さんと話しながらシーンを一つずつ撮っていく。そんな日常だったように感じています。

――渡辺さんが演じる東明重慶はワルな雰囲気がたっぷりとありながらも、見ているこちらとしても抗えない魅力を持つ人物だと感じました。東明役を受け取った時の感想を教えてください。

渡辺:久々に一貫性がなくて、いい加減な男の役を振られたなという気がしていて(笑)。衣装をどうするかというフィッティングの際にも、東明ってなんでもありなんですね。どんな様相であろうと許されるようなところがあって、まったくのフリー。何を考えているのか、彼の言っていることは果たして本当なのか、嘘なのか。見ている方にどう解釈していただいてもいいような役で、演じる上でも相当な自由度があるわけです。同時に、一目で「この人はなんだかおかしいぞ、一般社会の中では端っこにいる人だぞ」という人に見えなくてはいけない。そういったところも、大いに楽しんでいました。

――渡辺さんにとって、東明のような男を演じるのは楽しいことでしょうか。

渡辺:とても面白いですね。桂介との距離感にしても、相手が憎しみを持っていようが、好意を持っていようが、東明にとっては何も関係ない。ただ東明は自由でありながら、桂介とは生い立ちなど似たものを抱えていて。桂介と東明は、光と影、表と裏のようでもあり、だからこそ桂介は導かれていってしまうんです。僕としては、憧れない方がいい男だとは思いますけれど(笑)。

――将棋指したちのゾクゾクするような真剣勝負が描かれる本作。桂介&東明として対峙していて、ゾクゾクしたような瞬間があれば教えてください。

渡辺:絶望した桂介が命を諦めようとする場面で、そこに現れた東明が盤上の駒の音で彼を引き止めるようなところがあって。2人がいろいろなものを取っ払って、盤を挟んで向かい合っているようなシーン。ゾクゾクしたというのとはまた違うかもしれないけれど、将棋を介してお互いの人生を見せ合っているようで、演じていてすごく面白かったです。

坂口:僕も、そのシーンはとても印象に残っています。桂介としては、悔しさや憎しみなど、あらゆる感情のすべてがゼロになったような瞬間で。だからこそベランダの縁に足をかけて、命を絶とうとしてしまう。そこに東明がやってきて、「お前、何をやっているんだ!」と叫ぶわけでもなく、盤を介してそっと向き合ってくれる。桂介は我に返ると同時に、すごく救われたんだと思います。東明の持つカリスマ性への憧れや、いろいろな感情が入り混じる場面でした。

■渡辺「坂口と僕は似たところがある気がしてる」

――今お話しされた場面を含め、桂介と東明が盤を挟んで向かい合うシーンは、視線の絡み合いからも彼らの特別な関係性が見えるようでした。東明から桂介への“継承”も描かれる本作ですが、坂口さんは、渡辺さんとご一緒して受け継いでいきたいと思ったことはありますか。

坂口:大手を振って先頭をバーッと走っていく役者さんもいれば、全員で肩を組みながら横並びで進んでいく役者さんもいたり。もしかしたら、大手を振っていく人のスピードがあまりにも速すぎて周りが追いついていけない時もあるかもしれないし、横並びで行くことによってゴールまでとても時間がかかってしまうかもしれない。いろいろなタイプの役者さんがいて、進み方にもいろいろなことが考えられます。

その中で謙さんは、どしっとしているんだけれど、軽やかというか。とにかく現場が大好きで、周りを巻き込んでいく力のある方。誰1人置いていかず、みんなが仕事をしやすい環境を作ってくれる方で、そういうところがすごくステキだなと感じています。


渡辺:たしかに仕事への臨み方はそれぞれ違うものだけれど、その場所にいることを喜びだと感じて、みんなを巻き込んでいくというのは、僕と坂口はとても似ている気がしていて。これからも、そのスタイルは変えずに進んでいってくれたらうれしいなと。坂口も40代になったらもっと複雑で、闇を抱えているような役柄もたくさんやって来ると思うけれど、恐れることなく、どんどんいろいろなものに挑戦し続けてくれたらいいなと思っています。

――本作の撮影当時、坂口さんは33歳。渡辺さんにとって30代はどのような時期でしたか?

渡辺:僕は病気から戻ったばかりで、30代はあまり大きな仕事ができなかったんです。少し、フレームの中に収まっていたようなところがあったかもしれない。40代になって海外でも仕事をするようになったんですが、やっぱり役者ってその時々だからね。その時々に自分のやれることを、恐れずにやっていくこと。それが大事なのかなと感じています。

坂口:ちょっと抽象的な言い方になってしまうんですが、僕は本作の現場や謙さんを通して、役者として以前に人として、自分のこの足でちゃんと立つということを知った気がしています。

――インタビュー前の写真撮影においても、坂口さんと渡辺さんが偶然にも同じボケを披露して大笑いするなど息ぴったりでした。どこか似たところのある2人が将棋に魂を燃やす男たちを演じた本作は、「生ききる」という根幹をなすテーマとともに、観客にとっても持ち帰るものがたくさんある作品だと感じます。

渡辺:命がけで何かに挑んでいる人たちを描く物語は、やっぱりそれだけの強さと深みを持っていると思うんです。『国宝』もそういうところがあって、命がけで芸に向き合っている姿がたくさんの方の心に届いている。この時代、なかなかそうやって生きることは難しいことでもある。だからこそドラマにしろ、映画にしろ、今はそういった作品が求められている気がしています。

(取材・文:成田おり枝 写真:上野留加)

映画『盤上の向日葵』は全国公開中。

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