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妊婦のアセトアミノフェン服用は本当に危険? 子どもの自閉症との関係・副作用・安全性

  • 2025.11.1
【薬学部教授が解説】妊娠中にアセトアミノフェン(タイレノール)を飲むと、子どもの自閉症リスクが上がるという説が話題になっているようです。小児への使用実績を踏まえた科学的な真偽と、安心して服用できる理由を、分かりやすく解説します。(※画像:shutterstock.com)
【薬学部教授が解説】妊娠中にアセトアミノフェン(タイレノール)を飲むと、子どもの自閉症リスクが上がるという説が話題になっているようです。小児への使用実績を踏まえた科学的な真偽と、安心して服用できる理由を、分かりやすく解説します。(※画像:shutterstock.com)

アメリカのトランプ大統領が「妊娠中に解熱鎮痛剤タイレノール(有効成分アセトアミノフェン)を使用すると、生まれた子どもが自閉症になるリスクが増大する」と発言し、議論を呼びました。しかし、医薬の専門家として結論から申し上げると、そのような過度な心配は不要だと考えます。

安全性の高い「アセトアミノフェン」……副作用リスクの低さから広く普及

アセトアミノフェンは非常に安全性の高い薬です。19世紀末、ドイツで「アセトアニリド」と「フェナセチン」という薬に解熱作用があると発見されましたが、肝障害や腎障害が起こるという副作用も見つかり、問題視されました。

副作用の解決法についての研究が進む中で、これらの薬は体内で「アセトアミノフェン」に代謝されており、実際に解熱作用を発揮しているのは「アセトアミノフェン」だと分かりました。

そしてアセトアミノフェン自体には、問題視されていた副作用もないことから、安全な代替薬としてアセトアミノフェンが使われるようになったのです。

小児にも安全に使える薬として普及したアセトアミノフェン。アスピリンからの変更も

また、近年の研究では、解熱鎮痛作用を持つ薬として知られている「アスピリン(アセチルサリチル酸)」をインフルエンザにかかった小児に与えると、「ライ症候群」を引き起こすリスクがあることが判明しています。

ライ症候群は、突然の嘔吐(おうと)や意識障害、けいれん、肝機能障害などを起こし、重症化すると命に関わることもある急性脳症の一種です。そのため、15歳未満のインフルエンザ患者にアスピリンを投与することは避けるよう推奨されています。

以前の「小児用バファリン」には大人用よりも少ない量のアスピリンが含まれていたようですが、現在は有効成分がアセトアミノフェンに変更されています。つまり、アセトアミノフェンは小児にも安心して使える解熱薬なのです。

「妊婦のアセトアミノフェン服用と赤ちゃんへの影響」、因果関係の証明はなし

日本で使用されているアセトアミノフェンを含む医薬品は、医療用だけでも70品目以上あります。ドラッグストアで買える市販の風邪薬にも広く配合されているため、多くの人が一度は服用したことがあるはずです。身近で信頼性の高い薬と言えます。

「出る杭は打たれる」という言葉があるように、活躍ぶりで誰かが有名になると、必ずと言っていいほど、周囲から妬まれたり憎まれたりするものです。医薬品の世界でも同様の傾向が見られ、広く普及した薬には、根拠の乏しい批判が集まることがあります。

今回のトランプ大統領の発言も、それに近いものではないかと私は感じています。

実際のところ、妊娠中にアセトアミノフェンを服用したことがある女性から生まれた子どもに何らか異常があったとしても、因果関係を証明することは極めて困難です。そして、アセトアミノフェン服用と子どもの発達異常との因果関係を調査した研究自体が、現時点ではほとんどありません。

妊娠した女性が、こうした情報に神経質になり過ぎて、発熱や痛みで苦しいのに適切な服用を我慢することの方が、胎児に悪影響を与える可能性があります。母体の心身の健康は、何よりも赤ちゃんの成長にとって大切なものです。

つらいときは無理をせず、医師や薬剤師に相談のうえ、安心してアセトアミノフェンを使ってください。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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