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自然と人間の境界線のない建築――伊東豊雄【世界に誇る日本の建築家たちvol.2】

  • 2025.10.29

【今治市伊東豊雄建築ミュージアム】伊東豊雄の足跡をたどる貴重なアーカイブを収蔵

高さ約10mの2階建て。高台から瀬戸内海を見下ろす「スティールハット」。Photo_ Daici Ano
高さ約10mの2階建て。高台から瀬戸内海を見下ろす「スティールハット」。Photo: Daici Ano

愛媛県の島では最も大きく、最も北にある大三島。その南西部、夕陽が美しい斜面に建つ「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」は、伊東豊雄の足跡を訪ねる旅の出発点にふさわしいだろう。「スティールハット」と「シルバーハット」の2棟を中心に構成され、一辺3mの鉄板でできた4種類の多面体を隙間なく結合したスティールハットは、屋根、壁、床の区別がない幾何学的な建物で、展覧会などに使われている。アーチ状の金属屋根が連なるシルバーハットは、実は1984年に建てた東京の自宅を再現したもので、初期の代表作として建築史的にも重要な作品となっている。シルバーハットの館内には、心地よい海風が吹き抜ける屋外ワークショップスペースや、伊東が自らセレクトした約150件のプロジェクト図面やコンペティション案など、貴重な資料を閲覧できるアーカイブスペースなどがある。

大小7つのカマボコ型の屋根が連なる「シルバーハット」は、東京・中野本町の自宅を再現したもの。移築ではなく新たに建築し直した。Photo_ Daici Ano
大小7つのカマボコ型の屋根が連なる「シルバーハット」は、東京・中野本町の自宅を再現したもの。移築ではなく新たに建築し直した。Photo: Daici Ano

今治市伊東豊雄建築ミュージアム

愛媛県今治市大三島町浦戸2418

Tel./0897-74-7220

https://www.tima-imabari.jp/

※メンテナンスのため2026年1月末頃まで臨時休館

【みんなの森 ぎふメディアコスモス】自然の光と空気が循環。市民が集う岐阜のランドマーク

岐阜のシンボルの金華山、さらには飛騨山脈の3,000m級の山々を連想させる木造屋根。Photo_ Kai Nakamura
岐阜のシンボルの金華山、さらには飛騨山脈の3,000m級の山々を連想させる木造屋根。Photo: Kai Nakamura

JR岐阜駅から北に2kmほど、金華山のふもとに位置する「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は、開館10周年を迎えた今も、世代を問わず年間135万人もの人が訪れる図書館を中心とした複合施設だ。約80m×90mの巨大な長方形を2層積み重ねた構造体の上に、周囲の山並みと呼応する波打つような木造の屋根を載せた。これほど大規模なうねりのある木造屋根は前例がなく、細かな手作業を必要とする工事には全国から1日最大130人もの造作大工が集められたという。1階は中央に60万冊収容の書庫を据え、その周囲を展示ギャラリー、多目的ホール、市民活動交流センターなどが囲み、2階は壁のない空間で、30万冊の書架と910人分の閲覧席を設けた。

ヒノキの薄板を積層した波打つ屋根から吊られた傘状のオブジェクト「グローブ」。その下にさまざまな閲覧空間が設けられている。Photo_ Kai Nakamura
ヒノキの薄板を積層した波打つ屋根から吊られた傘状のオブジェクト「グローブ」。その下にさまざまな閲覧空間が設けられている。Photo: Kai Nakamura

閲覧エリアには、岐阜県産の東濃ヒノキ材を使った格子状の天井から、「グローブ」と呼ばれる、直径8m~14m、合計11個の半透明のカサが吊られている。グローブは、中央の換気口から自然換気を行うほか、自然光を透過・拡散させて、明るく居心地のよい空間を演出。こうした自然エネルギーの活用や、市内を流れる長良川の伏流水を利用した冷暖房などにより、消費エネルギーを従来の同規模の建物と比較して50%以上削減。自然の力を利用した、アジア型、日本型の省エネルギーに取り組む伊東らしい建物だ。

ドキドキテラス(写真)、みんなのギャラリー、あつまるスタジオなど、ユニークな名前の施設では市民参加のイベント、展示会、教室などを開催。
ドキドキテラス(写真)、みんなのギャラリー、あつまるスタジオなど、ユニークな名前の施設では市民参加のイベント、展示会、教室などを開催。

みんなの森 ぎふメディアコスモス

岐阜県岐阜市司町40-5

Tel./058-265-4101

https://g-mediacosmos.jp/

【台中国家歌劇院】人間の表現の場にふさわしい巨大な有機体

ガラスとコンクリートを交互に繰り返すファサードが、曲面で構成された内部の構造体と呼応。Photo_ Kai Nakamura
ガラスとコンクリートを交互に繰り返すファサードが、曲面で構成された内部の構造体と呼応。Photo: Kai Nakamura

フランシーヌ・ホウベン率いるメカノーによる台湾最大規模の文化施設「衛武営国立芸術文化センター」をはじめ、ヴィンセント・カレボーが設計した近未来的デザインの超高層マンション「陶朱隱園」、安藤忠雄が手がけた、建物を三角形で構成した美術館「亜洲大学現代美術館」など、実験的、先鋭的なプロジェクトの多い台湾の現代建築の中でも、とりわけ異彩を放っているのが、台中市の「台中国家歌劇院」だ。伊東自身も2000年の「せんだいメディアテーク」以降、最も複雑な構造を有する建築物だと語る。

赤を基調とした大劇場。階段状の座席や左右のボックスシートが、3次元曲面から成る空間の中に、舞台を囲むように置かれている。Photo_ Kai Nakamura
赤を基調とした大劇場。階段状の座席や左右のボックスシートが、3次元曲面から成る空間の中に、舞台を囲むように置かれている。Photo: Kai Nakamura

建物全体がRCシェルと呼ばれる貝殻のように薄い曲面鉄筋コンクリートで構成され、内部の巨大な洞窟状の空間に、約2,000席、800席、200席の3つの劇場、レストランやショップなどを内包する。床、壁、柱、天井の境目がない三次元曲面の構造体であり、ひとつの巨大な空間が水平・垂直に枝分かれしながら、ロビー、ホール、ホワイエなどを構成している。洞窟のような自然を感じさせるプリミティブな場所こそ、演劇という根源的な人間の表現の場としてふさわしいと考えた。さらに内部の曲面は外部にまであふれ出し、緑の中に曲面で構成された構造物が点在する庭園を形成することで、建物の内外が連続している。巨大な生命体のような建物であり、訪れる人に不思議な感覚を与えている。

建物全体をしなやかな曲線を描く三次元曲面の構造体で構成。Photo_ Kai Nakamura
建物全体をしなやかな曲線を描く三次元曲面の構造体で構成。Photo: Kai Nakamura

台中国家歌劇院

台湾台中市西屯区恵来路二段101

TEL/+866-4-2251-1777

http://www.npac-ntt.org

【南洋理工大学GAIA】木の温もりを感じ、自然と一体化する学び舎

約13,000m²相当の木材を使用したアジア最大級の木造建築。Photo_ Kai Nakamura
約13,000m²相当の木材を使用したアジア最大級の木造建築。Photo: Kai Nakamura

2023年には、アジアNo.1の工科大学とも言われるシンガポールの「南洋理工大学」の新校舎を手掛けた。豊かな自然に囲まれたキャンパス周辺の水と緑を敷地内に引き込み、その中に緩やかにカーブを描く建物を配した。奥行48m×全長210mの6層、総床面積約4万㎡の主要な地上構造物はすべて木造とし、木の香りや肌触りを活かすため、できる限り木の柱や梁を露出させた。自然と一体化した学びの場は、完成時点ではアジア最大規模の木造建築物だ。

並列する2棟を結ぶ中央部分は3層吹き抜けで、エントランスや共有フリースペースに。Photo_ Kai Nakamura
並列する2棟を結ぶ中央部分は3層吹き抜けで、エントランスや共有フリースペースに。Photo: Kai Nakamura

また、南北方向に風が吹くシンガポールの気象に合わせて建物を配置し、すべての共用部に換気口を設けて、風の動きを感じられるようにした。自然換気とプロペラファンの組み合わせで体感温度を下げることによって、熱帯気候のシンガポールならではの省エネルギー化も図っている。穏やかで温かみがあり、力強さも併せ持つ建物は、ギリシャ神話に登場する大地の女神「GAIA」と名付けられた。

伊東豊雄:現代社会において自然と建築がいかに共生しうるかが大きなテーマだと語る。Photo_ Fujitsuka Mitsumasa
伊東豊雄:現代社会において自然と建築がいかに共生しうるかが大きなテーマだと語る。Photo: Fujitsuka Mitsumasa

いま伊東豊雄が最も関心を持っているのが「自然と建築がいかに共生しうるか」という大きなテーマ。自然の力を利用した空調システムや大規模な木造建築は、その実現に向けた取り組みのひとつだ。

南洋理工大学(Nanyang Technological University)

50 Nanyang Avenue, 639798 Singapore

Tel./+65-67911744

https://www.ntu.edu.sg/

Text: Yuka Kumano

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