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35年前、音だけで挑んだ“4人の証明” タイアップなしでガールズロックを切り拓いたワケ

  • 2025.11.26
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※Google Geminiにて作成(イメージ)

「35年前の冬、あのギターの音を覚えている?」

1990年、バンドブームの真っ只中。テレビでも雑誌でも、ギターを持った若者たちが溢れていた。だが、その多くは男性だった。そんな時代に、女性4人組のロックバンドが、ひたむきな演奏で真正面から勝負を挑んでいた。

PINK SAPPHIRE『抱きしめたい』(作詞:安藤義彦・作曲:鴨井学)――1990年11月7日発売

デビュー曲『P.S. I LOVE YOU』の勢いを受けてリリースされたセカンドシングル。タイアップのない、まさに“音だけで挑んだ”1曲だったが、後にJR東日本「’91スキーキャンペーンソング」に起用され、冬の定番ソングのひとつとして記憶に残ることになる。

音で語る、4人のバンド

『抱きしめたい』の第一印象は、その演奏の精度と緊張感だ。イントロのギターリフは雪を切り裂くように鋭く、ベースとドラムが生み出すリズムはタイトで疾走感に満ちている。

ボーカル・塚田彩湖の声は、繊細さと力強さを兼ね備えている。甘く響かせるのではなく、腹の底からまっすぐに放たれるトーン。恋を嘆くのではなく、意志を持って向き合う歌声が、当時の女性たちにとって新鮮だった。

ハードロックでもなく、ポップでもない“凛とした音”

PINK SAPPHIREのサウンドは、80年代後半のガールズロックとは一線を画していた。ハードロックの重厚さをベースにしながらも、メロディは透明感を保ち、ポップス的なキャッチーさを併せ持つ。そのスタイルは、デビュー当時から一貫していた。

メディアが“ガールズバンド”という枠で括るなか、彼女たちは華やかさではなく演奏で魅せた。ステージ上での4人の息の合ったプレイ、ソロで見せるキレのあるフレーズ。そのすべてが、PINK SAPPHIREという名前を支える“実力”そのものだった。

“ノンタイアップ”が証明した地力

『抱きしめたい』が発売された当初、大きなタイアップやキャンペーンはなかった。それにもかかわらず、この曲はじわじわと支持を広げていった。それは、“音そのものが伝わる曲”だったからだ。

翌年、JR東日本「’91スキーキャンペーンソング」に起用されたことで再び注目を集める。しかし、この曲の本質はあくまで“自分たちの手で鳴らした音”にある。流行や仕掛けではなく、演奏力と一体感でリスナーを惹きつけた稀有な作品だった。

ガールズロックの“証明”として

PINK SAPPHIREが残したものは、単なるヒットソングではない。女性がバンドを組み、演奏で勝負し、チャートに名を刻む――その道を切り拓いた存在だった。『抱きしめたい』には、その決意のような音が宿っている。

力強くもどこか儚く、冬の空のように澄んだ響き。35年経った今聴いても、その音はまったく古びない。むしろ、音の端々に感じる“生きたテンション”が胸に刺さる。

飾らず、媚びず、音で語る――PINK SAPPHIREは、まさにそんな時代の証明だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。