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30年前、アニメ主題歌が“35万枚”を記録した衝撃 アニメソングの枠を超えてヒットしたワケ

  • 2025.11.25

「30年前、テレビから聴こえたあの歌声、覚えてる?」

1995年の秋。音楽の世界ではアニメの主題歌がチャートを賑わせることも珍しくなかった。そんな中、胸の奥を震わせるような一曲が、ひとつのアニメとともに多くの人の記憶に刻まれた。

田村直美『光と影を抱きしめたまま』(作詞:田村直美・作曲:田村直美、石川寛門)――1995年10月25日発売

日本テレビ系アニメ『魔法騎士レイアース』第2章の後期オープニングテーマとして放送されたこの曲は、「アニメソング」という枠を超え、確かな“ロックナンバー”として時代に響いた。

強く、優しく――90年代の女性ロックシーンを象徴して

田村直美は、ソロアーティストとして1990年代に独自の存在感を放っていたシンガーだ。テレビアニメ『魔法騎士レイアース』の初代オープニングとなった『ゆずれない願い』の大ヒットによって多くの人に知られるようになった彼女だが、『光と影を抱きしめたまま』は、より内面に焦点を当てた“静かな力強さ”を感じさせる楽曲だった。

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田村直美-2003年撮影(C)SANKEI

この曲は彼女にとって9枚目のシングル。作詞も作曲も自ら手がけ、共同作曲者として石川寛門が参加している。アレンジには当時のJ-POPらしいドラマティックな展開がありながら、ギターを軸としたバンドサウンドが芯を貫いている。

ミディアムテンポの中に、「抗うような静けさ」が漂う。曲の冒頭から鳴り響くチェンバロ系の音が、まるで光を導く粒のようにきらめく。田村の歌声は透明で伸びやかだが、どこかかげりを帯びていて、光と影のあいだで揺れる感情そのものを映し出しているようだ。

アニメを超えて届いた“リアルな感情”

『魔法騎士レイアース』は少女たちが異世界で戦うファンタジー作品だが、この曲が描いていたのは、きらびやかな冒険ではなく“葛藤”や“祈り”だった。番組を見ていた子どもたちはもちろん、大人のリスナーにも届いたのは、田村が持つ“現実と理想の狭間で生きる強さ”そのもの。

アニメファン以外にもこの曲が広がった背景には、彼女の圧倒的な歌唱力と、J-POPシーン全体が持っていた「女性ボーカルの時代」への流れがある。力強く歌う女性アーティストが次々に登場した1995年。この曲もまた、その潮流の中で確かな存在感を放っていた

制作陣は、単なるタイアップ主題歌ではなく、ひとつの“作品”としての完成度を追求していた。田村自身のロックへのこだわりと、アニメが持つ壮大な世界観。その二つのエネルギーが絶妙に融合し、この曲を唯一無二の存在にしている。そのことを証明するように、シングルは35万枚以上を売り上げた

時を越えて、心に残る“祈りのような声”

30年経った今も、『光と影を抱きしめたまま』は多くのリスナーにとって“心の記憶”として残り続けている。アニメのテーマ曲という枠を超え、時代を超えて愛されるのは、その歌が“誰かの中の光と影”に寄り添っているからだろう。

田村直美が歌い上げたその声には、当時の情景だけでなく、未来へ続く希望の欠片が宿っている。夜空の向こうで微かに光る星のように、この曲は今も静かに輝き続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。