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20年前、レコ大新人賞に輝いた“まっすぐガールズロック” ロックが“主婦に支持された”ワケ

  • 2025.11.25

2005年の秋。街の交差点には早くもイルミネーションの光が揺れ、どこか浮き立つような空気が街を包んでいた。テレビからは、ちょっと過激でコミカルなドラマが流れ、人々の夜を笑顔にしていた。

中ノ森BAND『Oh My Darlin’』(作詞・作曲:シライシ紗トリ)――2005年11月23日発売

フジテレビ系ドラマ『鬼嫁日記』の主題歌となった書き下ろされたこの曲は、“元気で親しみやすい女性像”を音楽で体現した1曲だった。ポップでストレートなメロディ、軽やかに弾むバンドサウンド、そしてボーカル・中ノ森文子のまっすぐな歌声。どこか懐かしくも新しいその感覚は、平成中期の空気そのものだった。

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2005年、中ノ森BANDデビューイベントより(C)SANKEI

明るさと等身大、その“ギャップの魅力”

中ノ森BANDは、2005年にデビューした5人組ガールズバンド。ロックの勢いとポップの軽快さを兼ね備えたスタイルで、当時の女性バンドシーンに新風を吹き込んだ存在だ。『Oh My Darlin’』は彼女たちの3枚目のシングルであり、“バンドとしてのカラーを最も鮮明にした一曲”でもある。

作詞・作曲を手がけたのは、シライシ紗トリ。女性ボーカルの魅力を引き出すポップ職人として知られ、軽快なギターリフとストレートなメロディの融合が印象的だ。編曲は田辺恵二。バンドのエネルギーをそのまま生かしながらも、ドラマ主題歌としてのキャッチーさを巧みに際立たせている。

サウンド全体には、2000年代半ば特有の“きらめくポップロック”の匂いが漂う。シンセの光沢感とギターの歯切れ、そして少しハスキーな中ノ森文子の声。無理に飾らず、それでいて強く届く歌声が、この時代のリスナーに“共感のリアル”を与えていた。

“鬼嫁日記”とともに届いた新しい女性像

この曲が多くの人に親しまれた理由のひとつが、タイアップとなったドラマ『鬼嫁日記』の存在だ。家庭で強く明るく生きる女性の姿をユーモラスに描いた同作は、視聴者の共感を呼び、“主婦が主役のコメディ”というジャンルを牽引した。

中ノ森BANDのボーカルスタイルは、そのドラマの主人公像と重なっていた。かわいらしさの奥にある芯の強さ。明るく振る舞いながらも、日々を懸命に生きる女性たちの姿を、ロックなテンションでポップに描いたのが『Oh My Darlin’』だった。

まさに“鬼嫁日記”の世界観を、そのままサウンドに変換したような曲といえる。このシンクロ感が見事にハマり、ドラマ放送とともに楽曲も注目を集めた。

そしてこの年の第47回日本レコード大賞で中ノ森BANDは新人賞を受賞。テレビ番組や音楽誌でも「新世代のガールズバンド」として大きく取り上げられ、同世代の女性ファンを中心に熱い支持を得た。

まっすぐな“ポップロック”が描いた2000年代の空気

『Oh My Darlin’』を聴くと、当時の街の明るさやテレビの賑わい、そしてどこか肩の力が抜けた“平成の中期”の空気が蘇る。SNSもまだ普及していなかった時代、人と人が“直接”笑い合っていた頃。その素朴な温かさが、この曲には息づいている。

ドラマの枠を越えて、日常の応援歌のように響く――そんな“明るいロック”があったことを、20年後の今、改めて思い出したい。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。