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【ばけばけ】寂しい限りだが、これが二人の運命か。トキ(髙石あかり)には“やり直せる未来”が待っている![写真多数]

  • 2025.10.27

【ばけばけ】寂しい限りだが、これが二人の運命か。トキ(髙石あかり)には“やり直せる未来”が待っている![写真多数]

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

完全に〝老害〟としか言いようがないふたりに

運命に縛り付けられる青春とはなんとも切ないものである。

日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、その妻・小泉セツをヒロインとした髙石あかり主演のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第4週「フタリ、クラス、シマスカ?」は、ヒロイン・トキ自身の力だけではどうすることもできないもどかしさがほろ苦く描かれた。

闘病の末にこの世を去った傳(堤真一)が経営した織物工場は、実務を受け継いだ三之丞(板垣李光人)の奮闘もむなしく閉鎖となってしまい、トキら女工たちも解雇されることになってしまう。松野家の莫大な借金は、今も返済できていないままで、松野家の「跡取り」として婿に迎えた銀二郎(寛一郎)の苦労や負担もますます増える。

銀二郎は荷運びと彩色の仕事に加え、ひそかに遊郭の客引きも始め、なんとかトキを支えようとする。夫婦、家族のためとはいえ、銀二郎はもとは他人である。それなのにかつての武士の時代を引きずるように、必死であらねばならないのにどこかのほほんとした松野家の面々をよそに最も献身的に働く姿はどこか健気で、なぜそこまでしなければならないのかという気持ちにもなってしまう。

前回も触れたが、銀二郎が昭和の時代などの嫁いびりにめげず健気にがんばる役どころのようで、思わず「がんばれ」という視点で見てしまいそうなつくりである。

そんな銀二郎が、ある日、遊郭の客引きをしているところを義父の司之助(岡部たかし)や義祖父の勘右衛門(小日向文世)に見られ、家の格が下がるととがめられてしまう。家のために、そしてトキのために背に腹は替えられずやっている仕事を、どう見ても「くだらない」理由で否定する古めかしさ。

この武士の時代から〝ご一新〟の時代の転換のばかばかしさは、コンプライアンスなど〝アップデート〟が求められる令和の社会の旧世代の感覚のズレという現代性がうまく重ねられているようだ。

完全に〝老害〟としか言いようがないふたりに、ずっと「いい婿」であった銀二郎も、
「格を気にしとる暇はございません!」
と反論してしまう。いいぞ!と思った矢先に、
「お主が恥をさらして得た金など、松野家にはいらぬ」
と、どこまでも「家」「格」と言う勘右衛門の「古さ」には愕然とした。

もちろん我々以上にショックだったのが銀二郎だろう。帰宅後、トキに遠くの街で二人で暮らそうともちかけるが(妻のトキへの愛情は確かなものであることがわかりほっとする)、「家」と借金に縛られるトキはそれにこたえることはできなかった。

夜が明け、銀二郎はトキへの置手紙を残し松野家から消えた。

銀二郎捜索大作戦のスタートだ

それは仕方ないと思ってしまうが、トキは甘えがあったと自分を責めてしまう。さすがに一大事と思ったか、ある意味元凶である勘右衛門は武士の誇りである刀や鎧を売り、銀二郎の父から聞いた東京に向かうように言う。善人の一面を見せてくれたようであるが、その物言いが「跡継ぎを連れ戻してまいれ」と、どこまでも「家」のプライド重視なところは、もはや笑ってしまう。この笑ってしまうつくりがまた、シリアスに寄りすぎない絶妙なバランスだ。

こうしてトキは1週間以上の日数をかけ、単身東京に降り立つ。銀二郎捜索大作戦のスタートだ。

このまま東京で二人で暮らせないかと

教えてもらった住所を頼りにたどり着いた下宿にいたのが松江の秀才〝大磐石〟こと錦織(吉沢亮)ら同郷の若者たちだ。みな松江出身で、帝大の前に倒れていた銀二郎を助けてくれたのだという。下宿は松江出身者が集まる場だった。

帰ってきた銀二郎とトキは、再開後互いに詫びる。
「銀二郎さんとまた一緒に暮らしたい。毎朝しじみ汁を作って」
こうトキは願うが、銀二郎はもう松江の松野家には戻れない、このまま東京で二人で暮らせないかと言う。

翌朝、トキはしじみ汁の代わりにあさり汁を作った。
「銀さん、こんな朝餉を作ってくれるお嫁さんから逃げちゃいけんですよ」
下宿人のひとり、帝大生の根岸(北野秀気)にそう言われると、
「でももう、ずっと一緒だと思います」
と答える銀二郎。

アツアツの新婚のような雰囲気があるものの、トキはやはりはっきりと返事をすることはできなかった。

これが二人の運命だったのだろう

同じころ、松野家ではこのままトキも帰ってこないのではないかと、駆け落ちのような状況になることを心配する。純粋な家族愛かと思いきや、そうなると「松野家が終わる」と口にしてしまう司之助に、そこに加えて跡取りとして養子を迎えるとまで言い出す勘右衛門。トキのこと以上に「家」が心配とは、どこまで縛られているんだと心底呆れ返ってしまう。

この「縛り」が、銀二郎の思いに煮え切らない態度しかとれないトキの呪縛の強さとなることは明白だ。下宿先の面々が、西洋の良さを教えてくれたり、これからの日本は過去(≒武家社会)にとらわれてはいけないと聞かされるなど、いろいろと諭してくれようとするところは同郷による素敵な友情だ。

しかし、トキの呪縛はあまりにも強固なものだった。「英国式ブレックファスト」を根岸が用意してくれ、みんなで牛乳を飲み、口のまわりに〝白ひげ〟を作って笑いあう。そんな他愛のない空気が、かつての笑顔の絶えなかった松野家の光景をトキに思い出させることとなり、思わずトキの目から涙がこぼれてしまう。
「ごめんなさい、銀二郎さんこめんなさい……」

トキは松江に一人で帰ることを決意する。トキの出生の秘密を気にするような表情を銀二郎は見せるが、それを察して、
「本当の親です」
とトキは言った。
「あのひとたちが私の親で、私は松野家の本当の娘です」
トキは、「松野家」を選んだ。

一緒に帰れなくてごめんと詫びる銀二郎だが、それぞれの思う「家」という価値観の違いはこの先もずっと立ち塞がるものとなったであろう。寂しいかぎりだが、これが二人の運命だったのだろう。

松江に帰ったトキを、銀二郎を連れ戻せなかったことを責めるでもなく、暖かく満面の笑顔で迎える松野家の面々。悲しい別れだが、東京で気付かされた「やり直せる未来」がトキには待っている。

希望とともにこれからのトキの生き方を見守っていきたい。

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